小さい頃僕たちは共通の夢を持っていた
そよそよと風がたなびく。
春の陽気をたっぷり含んだ空気を風がさらって、少しだけ涼しさが頬を撫でる。
太陽は天高く止まって、影は足元から動こうとしない。
いつ、誰が植えたのだろうか。
一本の樹は、そんな日でも甘酸っぱい匂いを振り撒いてそこにあり続ける。
その木の下で、女の子がぼんやりと空を眺めている。
ぱちくりとまぶたを瞬いて、今起きた夢のような出来事を忘れないように繰り返し脳裏に思い描いていた。
「イツキちゃん、なにしてんの?」
そう言って、しゃがみ込んでいる女の子の顔を覗き込んだのは、女の子と同じ年ほどの男の子。
女の子は呼び掛けられて、大きく目を見開いた。
でもすぐにふるふると首を振る。
「ううん、なんでもないよ?」
「ほんとうに?」
「うん。ほんとう、ほん」
疑う男の子に、女の子は適当に返事をした。
彼に言っても、意味のないことだから。これは私だけの宝物なんだから。
女の子は立ち上がって、男の子に笑いかける。
「オウキ、またけいかくかい、するの?」
「うん。レンヤのいえだって」
計画会。
まだ幼い彼らにできる、唯一の事。
未来へ向かう彼らの、共通の夢への道のり。
歩む道のりのために計画会をする事は、彼らの夢に現実感をもたらした。
けれど女の子は少しだけ不安そうな顔をする。計画会のメンバーが一人足りない。
「サナはくるの?」
「そりゃ、くるんじゃない? こないほうが、めずらしいよ?」
「そっか」
欠けていたメンバーの最後の一人も来ると聞いて、女の子は安心した。
納得してうなずいた女の子の顔を見て、男の子は行こうかと手を引く。
「あ、まって、まって」
女の子は手を引く男の子にちょっと待ってと言って立ち止まった。男の子は不思議そうな顔をして、立ち止まった彼女の顔を見る。
女の子は今まで自分が見ていた大きな樹を見上げて、小さな声で呼び掛ける。
それは妖精の国へと帰って行った、妖精さんへの言葉。
「バイバイ、おねえちゃん」
「……ほんとう、なにしてんの」
「ん? ナイショだよん」
女の子は、とびきりの笑顔で男の子の言葉をはぐらかした。