ふるあめに。
天気予報とは裏腹に、突然降ってきた大雨。
教室には、ほとんどの人が、放課後なのにも関わらす残っている。
「今日部活中止になっちゃったよー……」
そう嘆く理沙。今日は外で練習だったのかな。
でも、その言葉に、内心ワクワクしてる私がいる。鞄の中に入りっぱなしだった折り畳み傘があったから。
「私、折り畳み持ってるんだ。一緒に帰る?」
「うんっ!」
さっきまでの落ち込んでた理沙の顔が、急に晴れた。
でも、空はそのままでもいいかなって思う。
だって、二人で一緒の傘に入れるもの。
「二人だと、ちょっと狭いね……」
「そうだねぇ……」
ただでさえ狭い折り畳み傘だから、二人だと密着しないと入れない。
こんなドキドキしてしまうようなことも、今だから、不自然じゃないよね、きっと。
普段より遅い駅への道。最初は雨だけだったのに、しだいに風が吹いてくる。
「ひゃぁっ!」
突然吹いてきた風に、傘を持っていた手が引っ張られて、指の間から傘が飛んでいく。
激しい雨が、その瞬間、私と理沙に叩き付けられる。
「待ってて!」
と、理沙が傘を追いかけていく。ほんの数メートルのとこで取り返してくれたのに、もう眼鏡がびしょびしょだ。制服も、ぐっしょりと濡れてるのがわかる。これじゃあ、風邪ひいちゃいそう。
「ふぅ……、やっと取れたけど、もうびしょびしょだね……」
急いで戻ってきてくれた理沙の息が弾んでる。鞄の中も、きっと大丈夫じゃないんだろうな。
「ごめんね、手、離しちゃって」
「いいよ、あんな風じゃ仕方ないもん」
やっぱり、理沙は優しい。そんな理沙が好きになって、今、恋人という関係になれているんだけれど。
ポケットに入ってたハンカチもびしょびしょだけど、制服よりはまともだろうと、それで眼鏡を拭く。
それでも水滴がついていたので、鞄に入れてある眼鏡ケースに入れた。
「珍しいね、由実が眼鏡してないの」
「そうかなぁ……」
体育で、激しい動きがあるスポーツのときは、コンタクトにしてるのに。
「なんか、いつもよりかわいいから、ずっと見てたくなっちゃう」
「もぉ~、からかわないでよーっ」
「本当のことだもん、仕方ないじゃん」
さらりとそんなこと言わないでよ、もっともっと、好きになって、おかしくなっちゃいそうになるから。
見上げる角度にある理沙の顔を見れなくて、視線を下げる。すると、透けたワイシャツの下に、微かに肌が見える。
その色っぽさに、理沙の顔を見てたときの、何倍もどきどきする。
「もう、……由実のえっち」
「そ、そんなことないし……っ」
心を見透かされたように言われて、思わず反抗してしまう。
「いいよ、……うちも同じこと思ってたし」
「えっ……?」
言われた言葉が、頭に上手く入ってこない。
「だって、かわいすぎるもん、由実が」
理沙の右手に持ってた傘が、左手に持ち替えられる。
私の左手と、理沙の右手が、それを合図にするみたいに繋がる。
ちゅーするとか、大胆なことはできないけど。
触れる理沙の手は、何よりも暖かくて愛おしかった。