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曇った空を見上げて雨が降りそうだと気づいたエリオットは速足で川のところまで行くことにした。
森はエリオットにとっては大きい庭の様なもので危険なところも知っていたし、弱い魔獣なら倒したことがある。あの魔術の訓練と剣の稽古には鬼のようになるドルイに見てもらったのだから当たり前だとエリオットは思った。未だにどっちもあまり才能が無いのではないかと心配するほど上達しないが…
エリオットが血の滲む様な稽古を思い出していたら普通では出せないような速さで何かが通り過ぎたのを感じた。それは人であったと靴の跡を見て気づいたが困ったことにどうやら物凄い速さで駆け抜けた人物は落とし物をしたらしいと足跡のすぐ傍に落ちてる麻の袋を見て思った。
さて、困ったことにどんな人かも知れないがあの速さは只者ではないとも理解していた。そんな人物の落とし物など厄介ごとの匂いがすると思わず顔を手で覆った。
とりあえず落とし物を持っていこうという結論に至ったエリオットはそっと麻袋を持ち上げようと思ったのだが何故か急にそれが淡い光を放ち始めたのだ。
「うぉっ?!」
驚いたエリオットはすぐに手を放したが、驚きすぎて心臓が痛いのと同時になにかすごい力を感じた事を思い出しやっぱり厄介ごとじゃないかと冷や汗を流しながら思った。
もう一回恐る恐る近づくとちょっと光ったが最初に触れた時ほどではないと安堵したエリオットはとりあえず水を汲みに行く途中だったのだと思い出し川の方へ急ぎ足で向かった。
無事に水を汲み終わり帰ろうと振り返ろうとしたエリオットは何かが動いた気配を感じた。
微かに魔力の気配も感じたので益々不安が募る。
とにかくエリオットは冷静に打開策を練った。
――――全速力で逃げることだ。
幼少の頃から鍛えられた逃げ足は尋常じゃないのだ。咄嗟にさっき拾った落とし物だけ抱えてエリオットは走った。
足にあんまりうまくコントロールできていない魔力を纏って家まで全速力で走った。
後ろから獣の声が聞こえたのでそれなりに強い魔獣だったと確信して冷や汗が止まらなくなった。
良く逃げたと自分を褒めてやりたいぐらいだった。
ゼェゼェと息を上げながら家に着いたエリオットは今日は冷や汗ばっか流す日だとぼんやりとドアを開けながら思った。
「ドルイっ!ちょっと居間まで来てくれっ!」
エリオットがそれなりに通る声で言うとドルイはのそのそと部屋から出てきた。
「あれ?随分早かったじゃないか、どうかしたのかいエリオット?」
きょとんとして首を傾げるドルイに脱力しながら今日あったことを話した。
「それがその落とし物って訳かあ…うーん、とりあえず開けてみようか。」
ドルイにそう言われて、それもそうかと思いエリオットは麻袋を開いた。
「…? た、たまご?」
入っていたのは複雑な模様をした大きな卵だった。
しかし、エリオットはその模様を観察している内に言葉をなくした、卵に刻まれた模様はエリオットが生まれつき右腕に纏っていた模様と同じなのだ。
「エリオット…君がこの卵を拾ってきたのも、私が君を拾ったのも…すべて必然だったとこの瞬間思ってしまったよ。」
ドルイも驚いたように覇気のない声で言ったのが聞こえた。
「ドルイ、僕がこの卵に最初に触れた時淡い光がその袋から漏れたんだ…そして強い魔力も感じた。」
これが何を意味するのかエリオットにはわからないが、ドルイは僅かに息をのむとエリオットと卵を交互に見た。
「私は一回だけ資料でこの卵の事を読んだことがある…エリオットこれは…」
「これはドラゴンの卵だ…」