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赤髪のエリオット  作者: 蜂手紙
拾い物
1/2

エリオットという青年は集落の人から言わせれば災いそのものであった。

白くそばかすの散った肌に、刺激的でいてとても暖かい色の髪をしていた。

それは集落の、いやこの世界で生まれた誰とも違うような髪色だった。

この世界の住人は皆が白く雪の様に透き通ったそばかすの一つもないような肌に金色や灰色といった色素の薄い人種しかいなかった。

周りから疎まれていたエリオットは幼い自分を拾ってくれたのがドルイでなければ災いの元と言われて殺されていただろうとふとした時に思うことがあった、そしてその予想はそれほど外れていないだろうとも分かっていた。

エリオットを拾ってくれたのは変わり者と有名な賢者の老人だった、彼はそれこそ息子の様に愛情と厳しさ、そして優しさを持って接してくれた。血なんて関係ないのだと実感できたのも彼だったからなのかもしれない。

そんな変わり者の彼の名前はドルイ・ベラッター。賢者という名を持つに相応しい人だが、如何せん変人だからかあまり彼に畏怖を持たぬ者が多い。いつも頭に布を巻き左右に垂らしたドルイはとても優しい顔で微笑んでくれる。エリオットはドルイがどんなにすごい魔術師か知っていたからそのせいで歯がゆい思いもしたが、本人がそれでいいと言っているのだからどうすることもできないと諦めることにした。

エリオットはドルイに拾われる前に何処で何をしていたのか、自分の名前すら知らなかった。


「そうだなぁ…君の名は、エリオットにしよう!この暖かい色の髪はお伽噺に出てくる太陽の色とよく似ている。」

そう微笑みながら付けられた名前は今でも覚えている。ドルイは賢者故に苗字があったが孤児の自分にその苗字をつけることは叶わなかったと後で教えてくれたのを覚えているが、幼かった上に言葉もあんまり理解できなかった自分にはあまりその意味もわからなかった様な気がする。


幼いころから何かと囁かれたり、他の子どもたちには暴言を吐かれたり、石を投げられた事すらある。そういうことが起きると逃げるのが一番と幼いながらもから分かっていたエリオットは、森のすぐそばに佇んでいる自分の家に泣きながら帰るのが日常だった。

帰るとドルイはいつもエリオットが落ち着いて何が起きたのかを話すまで傍で頭を撫ででくれた。


「ドルイも、僕のこの髪が気持ち悪いと思う?まるでレッドバニィみたいって言われたんだ…だから僕はきっとレッドバニィとあくまの間にできた子だって、おくびょうだから捨てられたって言われたんだ…」


魔獣のレッドバニィの様な髪の色と臆病さでエリオットは子供たちからはいつもレッドバニィと呼ばれていた。


「エリオット、僕は君の髪がすごく好きなんだよ。人間は自分とは違うものは悪とみなすからね、でも覚えておいて欲しいのは人と違う事は悪いことではないんだ。きっと君の髪を好きになってくれる人は現れるよ…でも、そうだなぁ…現れるまでは私がエリオットの太陽みたいな髪を独り占めだね。」


「太陽・・・?」


「エリオットは知らないかい?昔から伝わるお話なんだ。そうだ、知らないなら私が教えてあげようかな?皆はお伽噺だなんて言うけどね、僕は一度もそうは思った事がないんだよ。」


そう言いながら微笑んだドルイは光の魔法で砂のようなものを作り、物語に合わせた絵をその砂で器用に作りながら小さい僕に教えてくれた。遠い昔から伝わる失われた太陽の話を。



――――太陽というのは人々を照らす光だ

それはまるで世界中の怒りを圧縮したかのように熱い筈なのに人々を照らす柔らかい光は平等に希望をもたらす光であった

しかし、太陽の守護者がいなくなった時から徐々に人々は光がなくなっていくのを感じた

そして、闇が広がっていくのも感じた

人々を照らす柔らかい光はなくなり、その変わりに雲がいつも太陽を隠すように空を覆っていた

時折太陽が零した涙を受け止められなかった雲からポツポツと雨が降った

そして、世界は光を失った

変わりに何一つない真っ暗な空の端から昇ってくる白い塊を見た

それは、月と名乗った

人々は、いつしかその冷たく凍えるような白い光を太陽の代わりにしていくうちにそれが普通だと思うようになってしまった

もう誰も太陽の事を思い出すものはいなかった

時折雲が空を覆い真っ暗な闇が世界を包む

そして暗闇からかつていたはずの太陽を思って空が泣いた

雲がその涙を受け止めきれず、それは地上に桶をひっくり返した様な雨を降らせた


空は今でも太陽を見つけられるものを探しているのだろう

それから何年もかけて空は見つけたのだ

新しい生を受けた太陽の守護者を

そして、魂に宿った想いを

どうか太陽を見つけてくれと空は願った

そして一人の青年は、一人の守護者として立ち上がった

空の守護者の力を借りながら光を探したがどこにも居ないのだ

疲れ切った夜に青年は月に問いかけた

「なあ、君は知らないかい?光が何処へ消えたのか」

月はただ静かに東の方を向き

「私にはわからない、しかし東には…貴方が探していない世界がある」


そう言われ青年は東に旅に出て、見つけたのだ

この世界とは違う、光と闇が交互に生きる世界を

自分と同じ新たな生を持った光を

その世界に行く時に聞かされたのは

自分を思い出せないと元の世界には帰れないこと

しかし、光はなにも思い出せなかった

守護者の青年はいつしか闇に支配されていた

愛おしい余りに彼は哀しみに支配されていたのだ

そして彼の巨大すぎる力はあちらの世界を支配し始めた

そして、光がやっと自分を思い出した時にはすべてが遅かったのだ

世界の光は彼女一人になっていた

そして彼女は闇を抑え世界に戻ったが

彼女はもう光の力をほぼ使い切ってしまったのだ

守護者は自分が犯した過ちを泣きながら受け入れた

そして彼女の最後の願いを聞き入れた

彼女からの加護を受け、守護者だった青年は今でも世界を照らす光になっている

彼女が最後に振り絞った力で世界に光を蘇らせた。



「どうだいエリオット?私はこのお話が大好きでね、エリオットという名前もこの太陽から来ているんだよ。だから君が他の人からなんと言われようと君の名はエリオットだ!エリオットは私の世界の光なんだよ。」


「じゃぁ、ドルイは僕のしゅごしゃ、だね!」


大げさなドルイの言葉にエリオットは照れた様にそう言うと二人で笑った。



木の陰で休んでいたエリオットは随分と懐かしい夢を見ていたもんだと思い、小さく笑った。

まだ7歳にも満たなかったがこの思い出だけはよく覚えている。拾われたときは歳も覚えていなかったと思うのだが見た目的にそれぐらいだろうとドルイが言っていたから自分もそれくらいだと思っている。

もうあれから8年も経ったのかと思うと奇妙な気分になる。

薬草を大方集め終わったエリオットは家に帰り、ドルイが怪しげな研究をしている部屋に入り頼まれた薬草を差し出した。


「おや、エリオット。もう薬草をもってきたのかい?エリオットは仕事が早いねえ」


と昔と変わらない穏やかな笑みでドルイが言うと薬草をすり潰し始めた。


エリオットはもうこの不気味な部屋に慣れたが知らない人が見たら多分すごく怖いんだろうなあとぼんやり思っていたがやがてドルイに言うことがあったと思い出した。


「ドルイ、集落に国の兵士たちが来てた。何かあったのかな…」


エリオットはドルイに今朝数人の兵士が誰かを探すようにこの辺鄙な土地を走っていたのが見えた。それに不安になったエリオットはドルイにも言っておこうと思ったのだ。


「こんな辺鄙な土地に何を探しに来たのかね…」

昔より皺が増えた顔を顰めて考え込むドルイにエリオットは益々不安になったが今日の内に料理に使う水を川に汲みに行かなきゃいけないことを思い出し、その旨をドルイに伝えると桶をもって出かけた。




「エリオット…君は随分成長したなあ。もう守護者はいらないのかもしれないな。」

そう呟きながらドルイは近いうちにきっと何かが動き出すだろうと思った。

しかし木の根っこで転ぶエリオットを見て、まだまだ守護者は必要そうだと小さく笑った。

何かが動き出そうとしているのを肌で感じたドルイは曇った空を見上げて微かに顔を顰めた。

エリオットはギリシャ語で太陽という意味です。

初投稿故に誤字脱字多いかもしれません;;

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