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第2話 呼び出されて異世界

 

「これは……成功したのか」


「ええ。間違いなく成功です」


 二人の人間の声が響く。ここは、とある王宮の一室だ。


「これでこの国は……」


 40代位に見える、威厳漂う男が呟く。


「救われます」


 それに答えたのは、若き女性。


「だが、これは……」


「ともかく彼らの元に参りましょう。隣の部屋にいるはずです」


「ああ。そうだな」




 ♢ ♢ ♢


 僕たち4人は気が付くと、見たことのない部屋にいた。それはどこか中世の城の中のような場所であり、僕たち以外の人の姿はどこにもない。


「佐々木さん、大丈夫?」


 僕は、隣の佐々木さんに声をかける。


「う、うん。でもここどこなんだろう」


 彼女の言うとおりである。僕たちはさっきまで学校から駅まで道を歩いていたはずなのだ。だというのに、突然光に包まれたかと思ったら、見知らぬ部屋にいるなんて。


「これって、もしかして異世界……」


 後ろにいる優馬がつぶやく。


「異世界って何よ。そんな小説のようなことがあってたまるもんですか」


 確かに普通に考えれば前田さんの言う通りなのだが、事が事だけに状況を説明できないのも事実。


「とりあえず、みんな無事みたいだからよかったけど。でも本当にここはどこなんだろう」


「それより、あなたたち仲がいいわね」


 前田さんが僕と佐々木さんを見てニヤニヤと笑っている。そう、僕は佐々木さんの手を握ったままだった。僕はハッとなりその手を放す。


「ご、ごめん!」


「ううん。大丈夫……」


 佐々木さんは少し頬を赤らめているようで、恥ずかしさからか下を向いてしまっている。


「なんか緊張感消えたな」


 優馬がそうつぶやいたその時、僕は部屋の扉の方から気配を感じた。


「……優馬、誰か来るよ」


「え、まじか」


 優馬の表情が硬くなる。あとの二人も身構える。


 そして、扉が開いた。





「やはり、成功していたようですね」


 扉から入ってきた白い衣に包まれた女性がつぶやく。見た目こそ華奢に見えるが、飲み込まれるような不思議な感じのする人だ。


「ああ。だがやはり一人多いな」


 その女性に答えたのは、隣に立つ男性。やたら豪華な服を着ていることと、その態度から地位の高い人物であることが見て取れる。かと言ってその身体は太っていたりはせず、分厚い筋肉に覆われているようながっしりとした体つきだ。


「とりあえず、説明して差し上げた方がよさそうですね。皆さま困惑されているご様子ですし」


「そうだな。だがまず場所を変えるとしよう」


 僕たちに言っているのであろうか。まあそうだろうな。


「言葉は通じていますよね?」


「はい」


 女性の問いかけに僕は答える。


「では、参りますのでついてきてください」




 そうして僕たちは二人に連れられ、部屋を出た。


 部屋を出ると、建物の内装はより中世の城を思わせるようなものとなった。先程までいた部屋は、白いレンガ造りであることは分かったのだが、装飾などは特になかった。だが、一歩その部屋から出れば高そうな装飾品や絵画などが多く飾られており、これはもう城であるというより他はなかった。

 しかし、ここまでくると優馬の言っていた異世界というのもあながち間違いではないのではないだろうか。こんな城が日本にあるとは思えないし、あったとしても僕たちが突然ここに来たことの説明がつかない。

 建物の中は非常に広いようで、考えごとをしている内に道順を忘れてしまった。

 皆も色々思うところがあるようで、誰も口を開かない。




 そのまま歩くこと5分。僕たちは、一つの部屋にたどり着いた。


 僕たちは促されるままにその部屋に入ると、そこはそれまでと比べてもより高貴な雰囲気のする部屋であると感じた。その部屋の奥には、豪華な椅子が一つある。まるで、どこかの王様のために用意されているようだ。兵士のような人たちも10人程いる。


 その椅子に、男の方が腰掛ける。もしや本当に王様なのではないかとさえ思う。


「まずは、挨拶をせねばならんな」


 男は話し始める。


「私の名はアリエス・ド・コルデア。コルデア帝国の王だ」


「「お、王様!?」」


 佐々木さんと優馬はそろって驚いている。僕と前田さんはというと、ある程度は予想できていたのであまりそこにツッコむ気はない。むしろ気にするべきは国名だろう。僕の記憶が正しければ、地球上にコルデア帝国などという国は存在しない。つまり、ここは地球ではない可能性が高いということなのだ。もちろんこの男の言うことを信じればなのだが。


「コルデア帝国というのはなんでしょう?」


 前田さんもそこに引っ掛かっていたようだ。彼女のその表情は、いつもよりも険しいものになっている。


「そうであったな、先に状況の説明をすべきか」


「それは私がいたしましょう」


 白い衣の女性が話の続きを引き継ぐ。


「私は、シルフィア。このコルデア帝国の召喚の巫女です」


「召喚の巫女、ですか?」


 佐々木さんが問いかける。


「はい。この世界とは異なる世界から勇者となられる方を召喚するのが召喚の巫女です。もう気づいておられるかもしれませんが、ここはあなた方の世界とは異なる世界。そして私があなたたちをこの世界に召喚しました」


「やっぱり異世界……なのか」


 優馬はつぶやく。


「はい。あなた方は勇者としてこの世界に召喚されたのです」


 これはまた、テンプレというか。


「この世界には4つの大国が存在し、その一つが我が国であるコルデア帝国です。今皆さんがいらっしゃるこの城は、帝都に位置するコルデア城です」


「一つ質問いいかしら」


「はい。なんでしょう」


 シルフィアさんをとらえる前田さんの表情は先程よりもより険しい。


「……私達は帰れるのですか?」


 僕たちが今最も気になるが、聞けずにいたことを前田さんはさらっと聞く。


「――少なくとも今は無理です」


「なっ!そんなばかな!?おかしいだろう!」


「申し訳ございません。ですが、今はどうすることもできません」


「今は、ということは今後帰れる可能性があるのですか」


 神妙な面持ちで、前田さんはさらに尋ねる。


「はい。あなたがおっしゃられる通り、その方法はございます」


 シルフィアさんの言葉に僕たち4人は反応する。


「魔王を倒す事であなたたちは元の世界に変えることができるはずです。今この世界は危機に瀕しています。魔王の率いる軍勢によって滅ぼされかけているのです。すでに4大国のうちの一つが滅ぼされました。それほどまでに事態は切迫しているのです。あなたたちにはその魔王を倒していただきたい」


「魔王を倒すことと、僕たちが元の世界に帰れること。この二つは関係あるのですか?」


「はい。魔王は転移門の鍵を持っています。あの門を通れば元の世界に帰れるはずです」


 はたしてこの人の言うことが信じるに値するのか。僕は見極めれずにいた。




 しばらくの間、誰も口を開けずにいたが、その沈黙を優馬が破った。


「分かりました。俺は魔王を倒すために戦います」


「ちょっと優馬!あんた何言ってんのか分かってるの!?」


「智子、俺は目の前で困っている人を見捨てられねえんだわ。それに魔王を倒すことで俺たちが元の世界に帰れるのなら、そうするしかねえだろ」


「だけど、あの人たちが言っていることが正しいのかもわからないのよ?」


「ああ。分かってる。だけど、何もせずにいても仕方がないさ。なら俺はできることをする」


「……分かったわ」


 いつもと違って真剣に物事をとらえようとする優馬の態度に、前田さんも折れてしまったようだ。なんだかんだ言ってこの二人は信頼し合っているように思う。


「しかし、もう一つお話しなくてはならないことがございます」


 彼女の表情は少し辛そうなものに変わる。


「実は、今回召喚する予定だった勇者様は3人なのです。私のミスで1人多くお連れしてしまったようです」




 その言葉に、この場の空気が凍り付いた。



「まずは皆様の中でどなたが勇者様で、どなたが勇者様でないのかを確かめなくてはなりません。皆様、『ステータス』と頭の中で念じてみてください。そうすると自分のステータスを見ることができます。その中の称号の欄を見れば、勇者様かどうか分かるはずです」



 僕は言われた通り『ステータス』と頭のなかで念じた。



【ステータス】

 名前: タイチ・ヤシロ

 称号: 異世界人

 年齢: 16

 Level: 1

 HP: 50 / 50

 MP: 10 / 10

 筋力: 10

 耐性: 10

 敏捷: 10

 知力: 10


 スキル

 ―言語翻訳

 ―解析



 さらにシルフィアさんに言われ、解析のスキルで互いのステータスを見る。



【ステータス】

 名前: マイ・ササキ

 称号: 勇者

 年齢: 15

 Level: 1

 HP: 450 / 450

 MP: 400 / 400

 筋力: 80

 耐性: 100

 敏捷: 100

 知力: 250


 スキル

 ―言語翻訳

 ―解析

 ―水属性適性

 ―光属性適性



【ステータス】

 名前: ユウマ・コイデ

 称号: 勇者

 年齢: 15

 Level: 1

 HP: 850 / 850

 MP: 200 / 200

 筋力: 150

 耐性: 100

 敏捷: 120

 知力: 80


 スキル

 ―言語翻訳

 ―解析

 ―剣術適性

 ―火属性適性



【ステータス】

 名前: トモコ・マエダ

 称号: 勇者

 年齢: 16

 Level: 1

 HP: 500 / 500

 MP: 300 / 300

 筋力: 120

 耐性: 80

 敏捷: 150

 知力: 150


 スキル

 ―言語翻訳

 ―解析

 ―槍術適性

 ―土属性適性


 

 

 そうして僕は理解した。自分がまきこまれただけのただの一人の人間であると。

 皆も悲痛な表情で僕を見ている。



「どの方が勇者様でなかったのでしょうか」


「僕です」


 シルフィアさんの問いかけに僕はすぐに答えた。この後僕がどのような扱いを受けようと、他の3人は勇者としてよい待遇をしてもらえるだろう。それなら、僕はそれで構わないと思った。


「そうですか。あなたには本当に申し訳ないことをしましたね。関係のないあなたをこの世界に召喚してしまったこと。どうお詫びしたらよいか……」


「いえ、それはもう仕方のないことですから。それで、僕はこの後どうなるのでしょうか」


「ご安心ください。あなたの身の安全は私達コルデア帝国が保証いたしますし、勇者様方とご一緒に訓練していただいて強くなっていただくことになると思います」


 その言葉に皆安心してくれたようだ。だが、僕は違うことを考えていた。このまま自分が一緒では皆の足を引っ張ってしまう。そんなことを。


「それでは、今後の話をしましょう」


 その後の話は、正直もう記憶にない。なぜなら僕はこの後、いかに皆に迷惑をかけずにいくべきか考えるしかなかったから。


 そして、シルフィアさんの話が一通り終わったところで、今日は休むことになった。


「なにかあればメイド達に申し出てくれ。では、明日からまたよろしく頼む」


 王のその言葉で、僕たちはその場から解放され、各々の部屋に案内された。















 しばらくすると、なぜだか皆僕の部屋に集まっていた。


「なんで俺たちが集まっているか分かるか?太一」


「まあ、大方勇者の力のない僕をどうするかという相談でもしに来たってとこだろ?」


 僕は優馬の言葉にそう答える。


「まあ、その通りなんだが……」


少しの間沈黙が続いたかと思うと、すぐに前田さんがため息をつきながら話し出す。


「八代君、あなた自分が私達の足を引っ張るからどうにかここから逃げようとか、そんなこと考えてない?」


 僕はその言葉にビクッと肩を震わせてしまう。佐々木さんと優馬の二人は驚いたように目を見開いたかと思うと僕に詰め寄ってくる。


「太一!お前そんなこと考えてたのかよ!?」


「八代君!そんなのダメだよ!」


 はあ……やはりこうなるよな。


「皆、そうやって言ってくれるのは嬉しいんだけどやっぱり僕はただの足手まとい。そんな僕が一緒に戦闘なんかに出ていけば、どうあっても皆は僕をかばいながら戦うことになってしまうだろ。そうしたら皆の危険もより増してしまう。それよりは、僕がみんなといない方がいいんじゃないかって思っただけだよ」


 淡々と話す僕を見るみんなの目は真剣なものだった。皆あきらかに怒っている。


「やっぱりね。あなたはそういう風に考えると思ったわ。でもね、それはあなたの勝手なエゴだし、少なくとも私たちはそんなこと望んでないわ」


 前田さんのその言葉に、佐々木さんと優馬は同意する。


「そうだぞ。俺たちはお前と共に生き残って、なんとしてでも元の世界に戻りたいって思ってるんだ」


「私も……八代君がいなくなるなんて嫌だよ……」


 皆の気持ちは嬉しい。だけど……


「だけど、それでも僕は皆の足手まといにはなりたくない」


「八代君、あなた本当に馬鹿なの?足手まといになりたくないなら、私達より強くなりなさいよ!まだ何もやる前から弱音を吐いてるんじゃないわよ!」


「ッ…………」


 僕は目の前の3人の強い思いにひるんでしまう。


「あなたは自分がいなければ私たちがうまくやっていけるなんて思ってるみたいだけどね、そんなのは大きな間違いよ。私たちの中で、あなたはもうとっても大きな存在になってるのよ!」


「太一、俺たちはお前のなんだ?ダチだろうが。だったらもっと俺たちに甘えてもいいんじゃねえのか」


 そして佐々木さんはこう言う。


「八代君は、本当に本当に他人には優しい人だけど、もっと自分のことを考えてよ。八代君だって私達と一緒にいたいって思ってるよね?私は八代君と一緒にいたい。それだけじゃ、ダメなのかな」


「みんな……」


 僕は正直涙をこらえるので精いっぱいだった。みんなと一緒にいる時間がずっと続いてほしいと思っていたのは、僕だけじゃなかったんだ。


「……ごめん、僕が悪かった。皆の言う通りだったよ。僕は精一杯あがいてみせるよ。みんなと一緒にいられるように」


「水臭いこと言ってんじゃねえよ!俺たちはいつだって一緒だぜ!」


「……ありがとう」



 この先、様々な試練が僕たちを待ち受けているだろう。だけど、今はこの4人でならどんな試練が待っていたとしても一緒に乗り越えていけるって、そう思えた。




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