心変わりを責めても君は戻らない
ガチャリと音を立て、ケータイが床に転がる。
・・・何で?俺は、何を間違えたんだろう?・・・
目の前が真っ暗で、頭の中は真っ白で、何も考えられない。
・・・上手くいっていると思っていたのは、俺だけだったのか?・・・
震える手でケータイを拾い上げ、彼女に電話を掛けようとして・・・止めた。
『分かりました。今まで、ありがとう。』
メールを送り、電源を切った。
暫く、何も手に付かなかった。
数週間後、アイツから電話があった。
「その後、彼女とは上手くいってんの?」
呑気に問い掛けてくるアイツに苛立ちが募る。
「・・・終わったよ」
「へっ?」
「他に好きな人がいるからって、ダメんなった」
「・・・あぁ~、そうなんだ・・・」
続けたアイツの言葉に、俺はキレた。
「え~と、あのさ・・・彼女とは、ドコまでイったの?」
「なんもしてない!手ぇ繋いだだけだよっ!」
吐き捨てるようにして、俺は通話を切った。
・・・何で、傷口を抉る様な事を訊いて来るんだ・・・
怒りで、涙が滲んだ。
けれど、少し冷静になってみて気付く。
俺は彼女に出会って以来、アイツに色々相談していたんだ。
話のネタや、誘い文句。
やっとデートの約束を取り付けた事。
そして、そのデートがいかに楽しかったかも報告していた。
水族館へ行く事も伝えていた。
だから、その事後報告がなかった事を、心配してくれていたんだろう。
でも、その時の俺には余裕がなくて、アイツとも、疎遠になってしまった。
彼女の存在は、知らない内に、俺の中のかなりを占めていたらしい。
あの日以来、仕事も手に付かなくなり、俺は会社を辞めた。
残ったのは、彼女との思い出を作る為に買った車と、彼女の写真を1枚も収めていないデジカメだけだった。
それから、1年が経った。
彼女の事を思い出し、苦しむ事もなくなった。
IT関連の会社に再就職も出来た。
前より規模の小さい会社ではあったが、自分のしたい事をさせてもらえるので、仕事に遣り甲斐を感じていた。
そんなある日、1通の手紙が届いた。
結婚式の二次会の案内状だった。
差出人は、東京で就職した高校時代の友人。
東京のコと結婚するので、式も二次会も東京で開くらしい。
式は親族のみで、代わりに二次会は親しい友人のみで。
そんな所に俺を呼んでくれるなんて、嬉しかった。
・・・だけど、東京かぁ・・・遠いなぁ・・・
迷っていると、共通の友人から電話があった。
新郎郷里の友人代表、幹事をしている、と言う。
「お前は行くのか?呼ばれたヤツは殆ど行くぜ?」
「そうか・・・みんな行くなら、俺も行こうかな」
高校時代を思い出し、懐かしい気持ちになる。
「みんなと言えば・・・アイツ、カノジョ連れて行くらしいぜ?」
・・・カノジョ・・・
1年前を思い出し、胸がギュッと締め付けられた。
どうやら俺は、まだ彼女に未練があるらしい。
「・・・アイツ、カノジョいるんだな・・・」
あの、派手な女の子と上手くいったんだろうか・・・
ふと、幹事が無言になっているのに気付く。
「・・・もしもし?」
「・・・あぁ、ゴメン・・・そうか、知らなかったんだ」
「あぁ・・・でも、なんでカノジョまで?」
半年前、新郎が新婦を連れて、帰郷した事があったらしい。
その時、数人で食事会を開き・・・俺は呼ばれなかったけど・・・そこへ、アイツがカノジョを連れて来ていたらしい。
それで、新婦とカノジョが仲良くなった、と言うのだ。
「アイツ、秘密主義じゃん?今回は、本気らしいんだよね~」
アイツは高校時代から、女を欠かした事がなかった。
俺らの中で、一番卒業早かったし・・・
けれど、カノジョを紹介された事は、一度もなかった。
秘密主義なのか?って訊いても、紹介する前に別れちゃうだけだって、いつも、はぐらかされていた。
半年以上続いているのなら、新記録じゃないだろうか。
「そうか・・・そんなに可愛いコなんだ?」
「・・・う、うん・・・まぁ、おれの嫁の方が可愛いけどな!」
幹事は、俺らの中で唯一の妻帯者。
新郎が結婚すれば、アイツも結婚するのかな。
そんな、友人たちに訪れた春に、俺も浮かれていた。
その日、絶望の淵に叩き落とされる事に、なるとも知らずに・・・
その日は、新幹線の改札前で集合した。
余所行きのスーツを身に纏った旧友たちは、皆、社会人の顔だった。
「お前、老けたな~!」
なんて談笑しながら、全員集まるのを待っていた。
最後に、アイツがカノジョを連れて現れた。
「おぅ!待たせたな!」
なんて言いながら、右手に大きな旅行カバン、そして、左手にカノジョの手を握り締めて。
・・・彼女だった。