一目会ったその日から
「なぁ、今度、飲みに行かねぇ?」
突然、アイツからの電話。
アイツは、高校時代の友人だ。
「良いけど・・・2人でか?」
「いや、女が2人来る」
「え!それって、合コンて事か?」
「あぁ、まぁ・・・2-2のな」
日時を訊けば、丁度、都合も悪くない。
大学院を卒業し、IT関連の企業に就職して1年。
仕事にも慣れ、そろそろカノジョが欲しいなぁと思っていた俺は、その誘いに乗る事にした。
「お待たせぇ~!」
女子特有の甘ったるい声に、そちらを見遣れば、派手なメイクに派手な格好をした女が、こちらに近付いて来る。
その女の陰から、俯き加減に、はにかんだ様な微笑みを浮かべた、彼女が現れた。
・・・一目惚れ、だった。
パステルカラーのサマーニットに膝丈のフレアスカート。
ニットと同じ生地のカーディガンを羽織り、そのニットを下から押し上げる胸は・・・大きい。
そんな胸も、かなり魅力的ではあったが、彼女が纏う柔らかな空気に、思わず見蕩れてしまっていた。
俺の隣にアイツ、俺の前に彼女、という具合で席に着き、取り敢えず自己紹介から。
名前も優しい感じで、彼女にピッタリだと思った。
「へぇ~!大学院まで行ったの?」
と、派手な女が言えば、
「好きな事を学ぶのって、楽しいですもんね」
と、彼女がふわりと微笑む。
俺が調子に乗って専門的な、マニアックな話を始めると、派手な女は、あからさまに興味なさそうな顔をしたが、彼女は控えめに、しかし熱心に話を聞いてくれる。
ただ相槌を打っているだけではなく、専門用語が飛び出せば
「それは、どういう意味ですか?」
と、ちゃんと質問が返って来た。
俺と派手な女はビール。
彼女は甘いカクテル。
アイツは車で来ているから、とウーロン茶。
軽く酔いが回って来た頃には、彼女に夢中になっていた。
「そろそろ、お開きにしよっか?」
その台詞に、ハッとなる。
このまま、彼女とこれっきりになるのは嫌だった。
「折角だしさ・・・連絡先、交換しない?」
と、アイツ。
・・・いい仕事するじゃないか!
女の子達が乗ったタクシーを見送って、直ぐにメールを入れる。
『今日は楽しかったです。また、会いたいです。』
アイツも、ケータイを弄っていた。
「なぁ・・・ちゃんて、可愛いな」
「ぁあ?・・・なにお前、ああいうコが好みなわけ?」
「・・・実は、一目惚れで・・・」
「確かに胸は、デカかったよな~」
・・・そこかよ・・・
「お前は、どうなんだよ?」
「オレは、もう片方のコ狙い。てか、元々合コンで知り合って、飲みに行こうって誘ったら、友達も連れて来ても良いならって言われてさ。んで、お前を誘ったんだよ」
という事は、あの派手な女の子のお陰でもあったのか。
・・・派手な女とか思って、悪かった。
メールの返事は、直ぐに来た。
『私も楽しかったです。また、誘って下さい。』
思わず、ニマニマしてしまう。
けれど、何処へ誘えば良いだろう?
「・・・ああいうコは、押しに弱そうだよな」
隣で車を運転するアイツが、ポツリと言った。
・・・そうだよな。折角「誘って」と言われたんだから、グイグイ行かないと・・・
それから毎日メールした。
返事は必ず返してくれた。
嬉しくて、沢山メールした。
他愛無いメールでも、必ず返事をくれた。
思い切って、映画や食事に誘ってみたけれど、それには、色好い返事は貰えなかった。
そんなある日、フラワーフェスティバルが開催される、という話になった。
『行ってみたいな。』
という彼女のメールに、ここぞとばかりに飛び付いた。
・・・初デートだ!