せっかくの力は有効利用するモノです
メイドさんと共に着替えを持ってレニー君の部屋に戻ってみれば、二人はかなり打ち解けたように話が弾んでいました。
レニー君の笑い声も聞こえ、メイドさんは少し驚いた顔をしながらもホッとしたように微笑み、テキパキとレニー君の着替えとベットのシーツ変えを終え一礼をし部屋から出ていきました。
流石、メイドさんは仕事が早いです。
それにあの表情からレニー君は屋敷の人々から大切にされているようです。
「よかった。レニー君元気になったようだね」
ホッとして声をかけてみれば何故かまたそっぽを向かれてしまいました。なんで?
私ってば嫌われるような行為をしたのでしょうか?
レニー君は放っておいてほしかったと言っていた、だから嫌われているのかもしれないですね。そうだとしたら少しさみしいです。
レニー君の命を繋ぎとめた事に後悔はしない。
あの時、確かに彼は生きたいと願っていたから、心の底から願っていた。
だから・・・
「おい、かりにも命の恩人に対してその態度は無いんじゃないか」
そっぽを向いたままの態度のレニー君に流石にお怒りを感じたようでガーディが頭を押さえつけるようにこちらを向かせようとしますが・・・ちょっと、何もそこまでしなくても・・・
「で、でも魔術で命を救ってくれたのはガーディアル様でしょう。そりゃ、伯爵令嬢が命令されて、従っただけかもしれないですけど・・・令嬢には先程、お礼は言いました。それ以上の感謝を求められても困ります」
「「はっ?」」
ありゃ、ガーディと声がハモッてしまいましたよ。
でもなんでそこでガーディの名前がでるんですか?あの時はまだガーディはこちらには来ていなかったし、レニー君とは初対面ですよね。
ガーディの方も何故恩人扱いされているか訳が分からないようすのようです。
「ちょっと待て、なんで俺が命を助けたと思ったんだ」
「だって、あの時、僕を助けてくれのは黒髪の人と赤い髪の大人の人だったから・・・ぼうっとはしていたけどそれははっきり覚えてます。この辺りでは珍しい髪の人達だったし」
いや、あの時はそんな人は何処にもいませんでしたよ。
どこかかみ合わない内容にレニー君に詳しく話を聞いてみると瀕死の状態だったあの時、暖かい魔力を感じ意識が浮上したのだそうだ。
そしてうっすらとだけれど瞼をあげた時、視界にみえたのは自分の身体に手をかざす黒髪の女性とそれを守るように立つ赤髪の男だったそうだ。
なにそれ?!なんだかオカルトチックです。
でも、黒髪の女って・・・もしかして私の前世が見えたってことなのでしょうか?
レニー君は実は魔術師じゃなくて霊能力者だったりとか?
謎です・・・
「はぁ・・・やっぱりここにいたのかよ」
混乱中の頭の上から溜息交じりにぼそっと呟く声が聞こえましたが・・・ガーディは何か知ってるんですか?
「ガーディ、何か知ってるの?」
見上げて問うてみれば「後で話す」とそれ以上の追及は避けられてしまいました。
とにかくレニー君の誤解を解くべきかどうかなのだけど・・・この際、勘違いされたままでもいいのかもしれないですよね。
自分より小さい私が『癒し』の力を使って治してくれたなんて確かに信じられない事でしょうし、今、私の力が表立つ事を父様やクディル男爵は良しとしなかった為にレニー君に詳しい話をしなかったのでしょうから。
うん、このままレニー君を助けたのはその黒髪の女性という事にしておこう。
「お前を助けたのは俺じゃない。此処に居るユリアナ嬢だ」
ちょっとガーディさん。このまま誤解したままで構わない筈ですよ、なんで蒸し返すのでしょうか・・・
「そんな筈ないです!僕は確かに黒髪の女性を見ました。それに令嬢は僕より年下と聞きました。それなのに魔術をつかえるはずはありません」
私をちらっと見た後で慌てるようにレニー君は叫んでますがそこまで否定しなくても・・・
「何故決めつける?彼女も『特別』だ。お前と同じように」
ガーディの言葉にレニー君は漸く私を正面からとらえるように見つめてきます。
先程まで目を合わせる事が出来なかったから気付かなかった・・・彼の瞳には不安とそして微かな期待。
そんな眼差しだった。
自分以上の魔力を持つ者の存在。
そして自分より年下の魔力の持ち主の存在。
自分だけが『特殊』でない事を切望する眼差しだった。
ああ、そうか。だからガーディは誤解させたままにしたくなかったのだ。
レニー君の為に・・・
彼以外にも『特殊』な人間はいる。自分だけが人々のなかから疎外されているわけではないと、自分自身で『特殊』なものは『特別』になるのだと。
「レニー君、視てて」
私はレニー君の手をとると右手に残る切り傷に『癒し』の力を込めた。
本来ならこれ位の怪我には人が持つ自然治癒力で治す方が身体には良い事だけど今回は私の力をレニー君に見せる為に『癒し』を使いましょう。
みるみる治る傷にレニー君はびっくりした目でこちらを見てきます。
「これが私の『癒し』の力。実はねレニー君に使ったのが初めてだったの。だから身体の様子が大丈夫か心配で」
「じゃ・・・じゃあ、本当に魔力が・・・?」
「そう、といっても魔術は未だに使えないんだよね。『源』は視えても触れる事も集める事も出来ないの」
ほら・・・と『源』に手を近付ければ触れられるのを避けるように『源』は手の間をすり抜けてしまいましたよ。
レニー君はびっくりのしどうしで、綺麗な青い瞳が今にも零れ落ちそうですよ。
「私の場合は生まれた時から魔力があったの」
私はレニー君に自分の事をなるべく詳しく話す事にしました。
魔力はあったが体外に放出できない為に高熱で寝込んでいた事、このままの状態では危険であった為に魔力を使いこなす為にアラート先生が王都からやってきて魔術について学んだ事。
そのおかげで『源』を視る事は出来るようになったが『構築』する事が出来ず魔術を使う事が出来ない事。
普通の魔術は一切使えないが『癒し』の魔術が使用できるようになった事。
流石に前世については話しませんでしたけどね。
話してくうちにレニー君の瞳が尊敬のまなざしに変わっていきましたよ~。
分かりやすいですね。うん。
「レニー君の場合は魔力がかなり多いんだよね。そのせいで苦労は多いかもしれないけど私には羨ましいよ。魔術が使えるって凄い事だし」
「そんな、ユリアナ様のが凄いです。僕よりもお小さいのにそんな苦労していたなんて・・・それに『癒し』の魔術があればいっぱい皆を助ける事が出来ます!」
ああ・・・キラキラお目目が心にイタイです。
ごめんなさ~い、本当は君よりも年齢は格段上なのですよ~。精神的には・・・
「~~~でも!『癒し』の魔術は無限に使えるわけじゃないから・・・一人の人間が助けられる人数なんてたかが知れてるんだよ。それよりも魔術の使い方次第ではもっと多くの人を助ける事だって出来るんだよ。特にレニー君程の魔力の持ち主なら勉強次第でいろんな可能性があると思う」
レニー君はまだ魔術について知らないから自分の中にある魔力が恐怖になる。
恐怖心から魔力が安定せずに暴走するのだからそれさえ克服すればレニー君にとって強大な魔力はきっと強みになるんだろう。
ーーーーだから頑張ってみようよ。
そう言ってみれば、レニー君はどこか安堵したふうに微笑み頷いた。