強すぎる魔力とは酷なものです
クディル男爵に案内されレニー君の元へやって来てみれば部屋は壊滅状態でした。
な・・・なるほど、それで角部屋・・・屋敷の被害を最小限にする為の処置なのですね。
「身体の方はもう大丈夫なのだが魔力の制御が思うようにいかないみたいでな。」
溜息をつきつつクディル男爵が説明をしてくれます。
魔獣に襲われた事により今まで必死で抑えてきた魔力と感情が一気に崩壊したのだそうだ。
部屋にはベット以外の物を置いてはいないようですが、カーテンは切れ裂かれ床や天井には穴のあいた所や煤けたところが多々見られ、唯一無事なのはベットだけでしょうか・・・いやベットも所々に傷があるようです。
・・・それよりみなさん!ベットの上に天使がいます!
少し癖のあるふんわりとした金の髪が肩まで伸び、キラキラと光る青い瞳はくりっと大きく見開かれこちらを凝視し、透き通るような白い肌ですがこれはきっと病み上がりの為で普段はもう少し健康的な肌合いなのでしょう。
魔力のオーラが彼の身体を包み、もう、本当に天使様のようです!
「あ、あの。フィールゼン伯爵令嬢様、命をお救い頂きありがとうございました」
クディル男爵に促されベットの上の天使様・・・もとい、レニー君はぺこりと頭を下げ私にお礼を言います。
もう、その姿の可愛い事ったらないですよ。
よく考えれば幼いころ(いえ、まだ5歳ですけど)から一癖も二癖もある大人達(いえ、主に先生とか先生とか・・・)に囲まれ、病弱の為に年の近いお友達もいなかったのでこんな小さな子供(いえ、自分も子供ですけど)と会うのは本当に久しぶりなのですよ。
思わず見惚れていたのでノックと共に執事さんが入って来た事に気付きませんでした。
クディル男爵が「所用があるので私はこれで失礼するよ。レニーとゆっくり話でもしてやってください」と退室して初めて現実に戻って来ました。
ああぁ、しまったクディル男爵にちゃんと御挨拶もせずに見送ってしまいましたよ。
レニー君の身体の具合でも聞きながらお話しようと思ってベット脇までやって来たのですが思いっきり顔を逸らされてしまいました。地味にショックです。
「あ~と、レニー君。傷の具合はどう?一応体調は良いって男爵は仰ってたけど痛いところとかない?」
「・・・・・」
「眩暈がするとか頭が痛いとかそういう事は無い?」
「・・・」
返答がありません。そっぽ向かれたままです。
「言いたい事があるのならはっきり言ったらどうだ?」
いままでジッと私達のやり取りを見ていたガーディですが何か気になる事があるのかレニー君に問いかけます。
「・・・・・放っておいてくれればよかったのに」
「えっ?」
「僕の事なんてあのまま放っておいてくれれば・・・こんな・・・」
顔をそむけ、俯きながら呟くレニー君の周りに『源』が集まって来ます。
「こんな恐ろしい力、要らなかったんだ!僕は・・・父さんや母さんと一緒に居たかったのに・・・」
「レニー君、魔術は恐ろしいものじゃないよ。」
「何が分かるって言うんです!この力が現れてから父さんも母さんも僕を見てくれない・・・化け物でも見るような眼で・・・・」
絞り出すように声を発するレニー君にそれ以上何も言えなくなったしまいます。
レニー君が魔獣に襲われたあの時の両親の姿、彼は己の力が現れてからずっと耐えてきたのだ。
大切な人に背をむけられるのは辛い。
自分の中に蠢くモノが大切な人達を傷つけてしまうかもしれない、そんな恐怖。
まだ、6歳の少年には辛い現実。
ベットの上で震えるレニー君の姿は私にとって大切な人達の姿がだぶってしまう。きっと彼等もまたこんな苦しみに耐えていたのかもしれない。
それでも今はそんな事を考えている場合じゃないほど危険です!HだとかOだとか『源』が興奮したレニー君の周りに集まってこのままでは爆発ですよ~~!!
変なふうに構築させないようにレニー君の周りから散らしたいのに!相変わらず私はコレに触れないようです~。
焦るばかりで良い案が浮かびません!レニー君の姿が隠れてしまうのではないかという位の『源』が彼の周りに渦巻き、これだけの量が集まってきてしまっては下手すれば屋敷ごと・・・危険です!!
焦ってワタワタしている私をよそにガーディはレニー君の傍へ歩み寄ると彼の周りに集まる『源』を一振りし『構築』。
レニー君の頭上には大量の水が・・・勿論、重力に従い落下、見事にレニー君はずぶ濡れですよ。
「な・・・」
レニー君は集まっていた『源』がガーディの一振りですべてが水へと『構築』された事に驚いているようでした。
私だってびっくりです。『源』を集める事も『構築』を行う事もそれなりに魔力を必要とする事です。レニー君の集めた『源』は片手一振りで『構築』出来る量ではないのですよ。
「こんなに集めて屋敷ごと爆発させる気か」
「そんな・・・でも、かってにあつまってくるんだ」
ガーディの叱責に少しビクつきながらも拗ねたように呟く姿は可愛いです。
「平常心を保てと言われなかったか?感情の起伏によって魔力が暴走する事は幼いうちは仕方がない事だが、自分の力を恐れるな」
ガーディはふっと一息つくと先程より柔らかな口調になり空間から取り出したのであろうタオル(あちこち切り刻まれてるのが少々きになりますが)でレニー君の濡れた頭を拭いてやりながら魔術について色々と説き始めたようです。
レニー君もガーディの圧倒的な力に感化されたのか真剣に話を聞いています。
アラート先生も力の強い魔術師ではあったのだけど、レニー君の魔力の方が上回っていて今のガーディのように一瞬で暴走しかけたレニー君を止める事は出来なかったようです。
でも濡れた服のままではまだ病み上がりの体には良くありません。
レニー君の事はガーディに任せてメイドさんに着替えの服でも貰って来ましょう。
今の私には出来る事は無いし、きっとレニー君の事が一番分かるのはガーディなのでしょう。
部屋から出る時に見たガーディの顔は真剣でした。
・・・多分、レニー君に昔の己の姿を重ねていたのかもしれません。