3日間という日数は短いものです
父様達との話し合いにより、滞りなく婚約が決まってしまいました。
わずか5歳にして将来が決まってしまうのはどうかと思いますが、まあ、いざとなれば婚約破棄だってできるでしょうし(あ、でもこちらからはやっぱり無理なのか?)、なによりも魔導師が生きていたとなれば“陣”を狙ってくるかもしてれない。伯爵家に居て父様や母様達に被害が及ぶよりはユーテリアス国でガーディ達と対策を立てた方がいいのだろう。
「ユリアナが早くもお嫁入りだなんてなんだかゆめのようだわぁ」
いえ、母様。お嫁入りはまだまだですよ~、飛躍するのは止めてください。
とりあえずユーテリアス国に行く為に書類上、婚約しただけの事です。
しかも、書類は今朝父様とアラート先生、それからガーディの従者さんが承認を得るために王都へ向かったばかりじゃないですか、婚約も許可が下りなければなかった事になりますってば。
昨日は本当に怒涛の一日でしたよ。
ガーディとの再会、“陣”の存在、魔導師の生存の可能性、その上婚約と一日で処理しきれない位の事が起こってへとへとになり寝所につけば深夜にガーディの従者なる方が単身、馬で現れまたひと騒動でした。
どうやらガーディはアルシャン国の簡単な場所だけライナス達に告げ空間を渡ってきてしまったらしい。
それで慌ててガーディの従者さん、フェルスさんは主人を追って馬をとばして此処まで来たのだそうだ。
伯爵領がユーテリアス国の国境近くとはいえ半日やそこらでここまでやってくるとは脱帽モノです。
フェルスさんの騎乗してきた馬君ですが、今はゆっくり休んでいるようですが夜中にみた彼は鼻息荒く、目が血走りどれだけ過酷な道中を疾走させられたのかと可哀想になってしまいましたよ。
いや、それよりもっと哀れなのはフェルスさんの方ですよね。
漸く再会した主人が5歳の少女と婚約をするから王都へ許可を得るための使者として父様達と共に王都へ向かえと、たいした説明も無く命令されてました。
あまりの傍若無人ぶりに思わず正座をさせ、お説教しましたが、ガーディは逆に嬉しそうな顔をするし、フェルスさんは茫然とされ「見てはならないものを見てしまった」とかなんとか呟いてるしで、なんだか無意味な事をしてしまったようです。
フェルスさんは30代前半の働き盛り、細身のようですが筋肉も付き、聞けば騎士団員なのだそうだ。
これくらいの強行は慣れていますと笑いながら、わずか数時間の睡眠の後、父様と共に王都に旅立たれて行きました。
ガーディ・・・本当に今までどんな生活を送って来たんだ?
父様方が王都から戻ってくるには早くても3日はかかる筈なのでその間に旅の支度をしなければならないのです。
母様は例え娘の付き添いといえど魔力保持者である以上アルシャン国から出国する事は出来ないのだそうだ。アラート先生も同じ理由で出国不可。
父様が付き添いをかって出ましたが流石に領主が長期間他国に行くのは拙いだろうという事でサイザンさんが護衛役として身の回りの世話をしてくれる侍女のカレンと共に付いて来てくれる事となりました。
「まったくですなぁ・・・お嬢が・・・嫁・・・くぅ」
「まあ、サイザン様泣かないでください。女の子はいつかはお嫁に行くものですわ。ガーディアル様は良い方ですし、この子もきっと幸せですわ。道中、この子の事よろしくお願いいたしますね」
「勿論でございます夫人。このサイザン、不肖ながら令嬢を全力でお守りいたします」
ちょっとそこのお二方!なに手を取り合って感動に浸ってるんですか、こちらは忙しいんですから寸劇ならよそでやってください。
「あら、ユリアナはさっきから何を書いているの?」
「薬草辞典の仕上げです。急に留守をする事になるものですから、せめて書きかけの分くらいは仕上げていきたいんです」
そうなんですよ!急にユーテリアス国に行く事になってしまったものですから、とはいえ旅の準備はさほどかからないんですよね。本来は伯爵家にふさわしい嫁入り道具等必要なのかもしれませんが、とりあえずは表向きはユーテリアス国王家への婚約報告と顔合わせ(一応、ガーディは侯爵の位なのだそうだ)だけで正式にお披露目をするわけではないのでドレスなどを新調する必要もないというわけなのです。
王家への顔合わせ(っていってもライナス達だし)の為のドレスはガーディが用意してくれているそうだ。
ちょっぴり、不安ですね。
なので、ユーテリアス国の王都へ着くまでの2日間分の旅の準備だけを行えばよいわけですからすぐに済んでしまいます。
3日間・・・そう残り3日間で、出来る限りの事をしてきたいじゃないですか。
薬草辞典、タジル先生のお手伝い、レニー君の様子も見に行きたいし、アンデリックさんの事もあった~!!
心残りとなる事はすべてやり遂げてから行きたい。ユーテリアス国でなりを潜めているであろう魔導師。ガーディは居場所を知っているような感じだった。
私がユーテリアス国に行く事により“陣”が揃う。だから事態が動くかもしれない、自分の身がどうなるのかだって分からないのだから心残りは少ない方がいいのだ。
母様達にもガーディは事情を話したと言っていた。
でも母様達は変わらない・・・普段通りに接してくれて、ただ、「幼い娘を他国へ嫁にやるだけ」の姿勢を崩さない。ううん、その事すらも祝い事として笑顔を絶やさない。
不安感や心配だってある筈なのにそんな表情は私に見せる事は無い。
きっと私の前世に気付いていた時から何らかの覚悟をしていたのかもしれない。そして私がそれを乗り越える事を信じてくれている。
-----だから私も普段通り、でも普段よりも母様には甘えてしましょう、暫くは会えなくなってしまうのですからそれぐらいいいですよね。




