閑話3
アラート先生視点になります
男爵家で養生をしているレニー君の魔力の状態を確認し伯爵家へ戻ってみればなにやら楽しげな状態になっていた。
珍しく激昂している伯爵とそれに対峙する赤髪の青年、何故か令嬢はその青年に抱えられた状態だ。
私という部外者の登場に気を逸らした青年から令嬢は抜け出し私の元へやってくるが、第一声がレニー君の状態の確認とは医師根性だな。
私としては令嬢の後ろで番犬宜しく立つ青年の事を聞きたいのだが。
令嬢に尋ねてみれば、自ら自己紹介された。
ガーディアル=トルクス?・・・ああ、そうか、ユーテリアス国の・・・令嬢が話していた例の御子息ですか。
早速、『探索』をかけてみるがやはり令嬢と同じく視えないな。
見た目の若さといい、何らかの魔力が働いているのは確かだ。
なかなか面白い人材だ。
年齢は50代後半のはずだが見た目は20代半ば、敵愾心むき出しの目で睨んでくるあたり国の中枢で働く身だが性格は単純なようだ。
生き別れ?だった母親を取られまいとする子供の心境?それとも・・・
令嬢との関係を聞かれたから「研究者と被験者」という至極まっとうな事を言ったつもりなのだが同じ言葉を口にした令嬢はなぜ怒るんだ?
自分で言った事なんだが・・・
伯爵夫人に詳しい話を聞けば、彼は空間を超えてやって来たそうじゃないか!
これは凄い!“陣”を身に宿しているそうだがそんな事例も初めて聞く。
早速、ガーディアル様に“陣”を視せてもらえば、本当に凄いものだった。
初めて視る文字も多くありすべての内容が理解できるわけではないが『探索』をつかえば何とかなりそうだ。
かなり魔力を消耗しそうなカンジだな・・・“陣”を写して一文字づつ調べないといけないようだ。
「“陣”の消失は可能なのか?」
「まだそこまでは分かりませんが、この“陣”の内容については時間はかかりますが解析は可能ですね。ああ・・・令嬢に宿る“陣”も書き写さなくてはいけませんね。すべてが揃って初めて一つの魔術となるようです。」
そう呟けば、自分が持ってくると青い顔で叫ばれた。いや、別に令嬢のドレスをひん剥いて写したりはしないんだが・・・ガーディアル様はどうするつもりなんだ?
そういえば、求婚をしたような事を言っていたがどういうつもりでの求婚だったのか少し興味があるな。
わが国には魔術師の出国を規制する法律がある。故に婚姻という方法をもって自国に連れていくつもりなのだろう。
それが自国にて魔導師との対峙に必要だというのはわかる。
だが、“陣”はガーディアル様に移す事は可能なはずだ、令嬢は魔導師との対峙に自分が必要だと思い込んでいるが“陣”があればことは足りると思うのだが・・・
そう、尋ねてみれば
「確かに“陣”があれば魔導師が来ても俺一人で対峙すれば良いだけだ。ユリを巻き込まなくてもいい、ライナス達に会いに行く事だけなら短期の滞在で出国も可能だ。けど・・・漸くユリは還って来た。」
放したくないのだと彼は言う。
それが元母親であるという事の思慕なのか、ユリアナという新たな身体を得た彼女に対する恋慕なのか。
「ユリの事はずっと好きだった。って言っても昔のユリに対する思いは親愛に近いな。父さんの横で笑っているユリが好きだった。ずっとそばに居て欲しいと思ってた。それが失われ、いつか戻ってくる事を知った。俺はこんな体だから・・・“陣”をもって生まれてくるであろうユリを待ち焦がれるようになってた」
共に生きてくれる存在。彼女がなってくれるかもしれない。
「ユリアナとなって見た目はかなり変わったけど、心は同じだった。多分あの瞬間に思慕から恋慕に変わっていったと思う。ユリは俺の事は意識外だけど、まだ5歳だし俺はユリアナが成人する頃でもそれほど見た目は変わらないから、まずは外堀から埋めてゆっくり俺の事を意識してもらうようにする」
いっとくが俺はマザコンでもロリコンでもないからな!と叫んでいますが・・・否定できないんじゃないか?
まあ、どうでもいい事なんだがガーディアル様の気持ちは分かった。
さて、令嬢は今回の婚姻をどう思っているのか、尋ねてみれば話しているうちに、政治的な婚姻という事で納得してしまった。
どうも、婚姻というより余生を息子の世話になる感覚のようだが、どうしてそう思えるんだ?
政治的云々でいえばユーテリアス国王夫妻には20歳と12歳になる王子がいる。50過ぎのガーディアル様との婚姻よりこちらの方がしっくりするはずだ。
それをあえて彼との婚姻という形をとって来た事に疑問を感じないのか?
それにあの目を見て本当に母親を恋しがる男と目だと思ってるのか?
なんというか・・・
「・・・・・鈍い」