再会した息子はいろいろ最強なようです
皆を廊下へ追い出した後、急ぎ洋服を着こみ居間へ下りて行きます。
「おかしいわ。『癒し』が効かない。」
「御夫人殿、申し訳ありませんが私に魔術は効かないのです。傷薬と包帯は持参しておりますのでこちらでお願いできますか」
彼は腰に下げた革袋を母様に差し出す、その中には大量の傷薬と包帯が入っていた。
彼の体についた無数の切り傷からは今だ出血が続いていて止まる事がないようだった。
私は居間の入り口から中へ入ることはせず、母様に包帯を巻かれる彼を見ていた。
見た目、20代半ばってところか、赤い髪に鳶色の瞳。
彼はサイラスではない・・・でも似ている、他の人。
同じ髪質、同じ瞳の色。・・・もう一人知っている。
------でも、あれから50年経った。こんなに若くは無いはず。
「ユリ!」
入り口に立つ私に気付いた彼は満面の笑顔でこちらに向ってきた。
ああ、この光景にとても覚えがある。
遠い昔、あの子もあんな笑顔で駆け寄ってきた。
「ガーディ・・・」
「やっぱり、ユリだ。やっと戻ってきた」
再びぎゅっーと抱きしめられまたもや窒息しそうになりました。・・・こら!苦しいから放しなさい。
力いっぱい抱きついて来るのは昔と変わらないなぁ・・・立場が逆なようですが・・・
ああ、いかん。頭が混乱しすぎて現実逃避しているようです。
ガーディである事は間違いないようなんだけど・・・
何故、こんなに若いのでしょう?
何故、当然現れたのでしょう?
何故、私が転生した事を知ってるんでしょう?
分からない事がいっぱいです。
「ガーディ・・・なんだよね。どうやってここに来たの?どうしてそんなに若いの?どうして私の事知ってるの?ライナスやレイティは元気なの?それから----」
「ユリ、そんな事よりもまず重大な事があるよ。」
「重大な事?」
何があったのだろうか?重大って・・・・
「僕らの結婚式はいつにしよう?」
-------------は?
アレ?今何か幻聴が・・・・
「俺としてはなるべく早く嫁に迎えたいんだけど、まずはユリの今世のご両親に挨拶して色々整えなきゃならないか。ユリってば貴族の御令嬢のようだから準備とかも必要だろうし」
「ちょっとまって!ガーディ!!・・・なんであんたと結婚?・・・え?重大って・・・それ?」
「勿論。ようやくユリが帰って来たんだから」
結婚って、アンタ。笑顔でサラッと何を言ってるんでしょうね。ユリアナはまだ5歳・・・いやいやいや、そういう事じゃない。
なんで、ガーディと結婚しないといけないワケ?
そう尋ねてみるとガーディの顔はみるみる悲しげな表情になっていきました。
ちょっと!そんなへこんだ顔されるとこちらが悪い事してるみたいじゃないですか。私は正論を言ってるだけです!
「はぁ、そうか、ユリは一度死んでるから忘れてしまったのかも知れないよな。・・・それとも、年のせいでの物忘れとか?」
溜息をつきながら、ヤレヤレ困ったもんだとばかりに説明しようとするガーディだが、最後の一言は聞き捨てならないですよ、物忘れする年じゃないです~。
***ガーディによる回想***
場所はユリの終焉の地となるカンズ村。
時はサイラスとユリの結婚式。
「ユリ、父さんとなんか結婚せずに俺と結婚しよう!」
花嫁姿のユリにすがりつく幼いガーディ。
「ガーディ、嬉しいけど貴方はまだ子供だもの。結婚は出来ないわ。私はサイラスと結婚するの、貴方のお母さんになるのよ」
困った声で体をクネクネさせるユリ、立ったままのサイラス。
「じゃあ、俺が大人になったら父さんと別れて俺のお嫁さんになってよ」
「まあ、ガーディ嬉しいわ。早く大人になってね」
ひしっと抱き合うガーディとユリ。
***めでたしめでたし***
って、なんですかっ!この回想は!
というか、何?この指人形劇!舞台装置に、指人形はどこから出した?!
つくり声の台詞回しとか妙に上手な劇になってたけど練習したのか?!お前!!
それに、この指人形・・・・布製なのだけど顔の造形が妙にリアル・・・昔の自分の顔によく似てて・・・コワイ・・・
一体誰が造ったんだ?・・・・まさか、ガーディじゃないよ・・・ね。
しかし、このヘンテコ劇のおかげで思い出しましたよ。
結婚式当日にああやって告白されたのは本当。
でも、返事は「なぁ~に冗談言ってんの」ってデコピンして終わりだったはず。
ただ、結婚をやめさせたかっただけのようだったし。
その後も、普通に接してくれてたし、私も必死で母親になろうと頑張ってた。
こんなヘンテコ劇のような雰囲気はなかった・・・・ハズだ。
ガーディも少なくとも、嬉々としながら人形劇をするような子ではなかった・・・
------ガーディアル=トルクス、この50年でお前の身に一体何があった・・・の?