魔獣があらわれたそうです
一晩明けて気持ちの良い朝がやってきました。
雲ひとつない快晴です。小鳥もいつも通り元気に鳴いております。
------只今、絶賛自己嫌悪中であります。
昨晩の痴態を思い出すと、もう恥ずかしさでベットの上で身悶えする事しか出来ません。
「おはようユリアナ、もう起きてるかしら」
ノックと共に母様が部屋に入ってきます。
「ふふっ、恥ずかしがってるユリアナもかわいいけどそろそろ朝食にしましょう」
「~~~~~~」
母様には私の行動はバレバレのようです。
悪あがきは諦め着替えて朝食に行く事にしましょう。
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「そういえば昨夜は色々あって話しそびれたんだが、隣の領地に魔獣が現れたそうだよ」
朝食の最中に父様、さくっと爆弾発言です。
「隣の家で子豚が6匹うまれたよ」的な軽いノリで話さないでください。
スープ零しちゃったじゃないですか。
魔獣と言えば普通の武器では歯が立たない生き物なのですよ。
鍛えられた鋼を魔術で強化させ初めて魔獣に傷をつける事が出来るのです。
救いなのは魔獣はそれほど数が多いわけではなく、群れをなす事も人里に現れる事自体も少ないこと。
アラート先生の授業で新たに知った事ですが魔獣は生まれながら魔獣なのではなく獣等の死骸に『魔』が宿り魔獣となるのだそうだ。
だから魔獣の種類も色々、小さなネズミから牛等の大型動物も魔獣となりうるのだ。
ただの獣との違いは赤い瞳と体毛が黒い鋼のように硬くなること、そして強い魔力を有す事。
もとが骸のせいか多少の傷では死ぬ事がない、滅するには首を切断しなくてはならない。
凶暴ではあるが無闇に人を襲う事はしないが本能は獣と同じなのだ。身に危険を感じれば人を襲う。
それに魔獣は魔術師の魔力を欲するそうで潜在魔力のある子供などが襲われやすいのだ。
『魔』に関してはいまだ分からない事が多い。
視た事があるものは黒い靄のようなものだという、魔力のあるものにしか視えず魔導師の描く陣によって生み出される。
『魔』自体が強い魔力の塊ではあるが生きた獣に『魔』が宿る事は無い。
昔、生きた人間に『魔』を宿させようと試みた魔導師がいたらしいが実験体となった者は『魔』にのまれ、精神を破壊され、もはや心身ともに人と呼べないモノとなってしまったそうだ。
「20年前に開かずの森から漏れ出た『魔』によって生み出された生き残りのようだよ」
「父様、20年前何かあったのですか?」
「ああ、詳しい事はよくわからないがユーテリアス国にある開かずの森の封印が弛んだようなんだよ。それに乗じてかなりの量の『魔』が漏れ出たらしいんだ。でも殆どの『魔』も魔獣もユーテリアス国の騎士たちが捕縛したって聞いていたんだが」
「開かずの森ってもしかして・・・」
「ええ、令嬢の前世に所縁のある場所です。消えなかった陣を何重もの森の封印によって人も獣も入れないようになっているので、開いてはいけない、開く事が出来ない『開かずの森』と呼ばれています」
私の呟きに朝食を共にしていたアラート先生が説明してくれます。
「それで今日、アラート先生と共にクディル男爵の処に行ってくるよ。いやあ、こんな時に魔術師が近くにいてくれて助かったよ。魔獣の捕縛に魔術師は不可欠だからね」
父様は笑顔でそんなこと言ってますがアラート先生はいかにも面倒臭そうなお顔ですネ。
業務外の仕事だと思いっきりため息ついてますが、父様は気にしていないようです。
我が家では使えるものなら例え何者であろうと使え精神ですから、こき使われるのは諦めてください先生。
隣の領地、クディル男爵家の領地なのだがご領主は確か王都に住んでいて隠居された老男爵が領地を切り盛りしていると聞いている。
「クディル男爵はご高齢だからね、魔獣の対応は体力的にお辛いだろから手助けできる事があるだろう。王都のご子息の元にも連絡はいったと思うが時間がかかるだろうから」
父様と先生は領民の若者たちで組織した自警団に、伯爵領にもし魔獣が現れる事があった場合の対処方法や連絡方法を伝えクディル男爵家へと行ってしまわれました。
たった2人で騎乗し出かけるそうですが、片道20分程の距離とはいえ途中で魔獣に出くわしてしまわないか少し心配です。