case.8 女子高生 豊田雪絵
午後五時、その女子高生はやってきた。どこか浮かない顔をしているね。どれ、声をかけてみるかい。
「ちょっと。そこのアンタ」
おやまぁ、呼びかけただけでドッキリでも仕掛けられたような顔をして。……フフフ、何も夕方バズーカ食らわしたりしないさ。
「なんですか?」
「……アンタ、『悩みまくっています』って顔をしているねぇ」
「……」
「やれやれ、そうやって感情を押し殺そうとする子には弱いんだよアタシは……。どうしたんだい? さてはトモダチとケンカでもしたかい」
「! そんな事まで分かるんですか?」
「何だい、適当に言ったら図星かい」
「て、適当?」
「大方、学生さんの悩みは恋愛と友達との人間関係だからね。ただ、アンタはとっても素直でいい子だよ。最近の子はSOSの出し方すら知らないからね。……で、どんなケンカしちまったんだい?」
「実は……友達からのメールが最近変なんです」
「メール? 携帯電話のかい」
「はい。以前は絵文字とか顔文字を沢山入れてきたのに、ここの所すごくあっさりというか、とっても他人行儀な文章で……」
「フン、メールなんて所詮ただの文字の羅列。元々他人行儀なもんさ」
「そうでしょうか……」
「あぁそう思うね。面と向かって話す言葉とメールで届く文章には埋められない溝があるもんさ。たとえば『好き』という言葉の多様性すら表せない。『LOVE』と『LIKE』さ。わかるね?」
「うーん……。なんとなく」
「フン、……で、そのトモダチとの間で何か心当たりはあるのかい?」
「多分、クラスが変わってしばらく話をしてないうちに、何だか私、嫌われちゃったみたいなんです」
「はぁ? いやはや驚いたね。絵文字や顔文字が無いメールだけで『嫌われている』って分かるのかい?」
「そういうわけじゃ……。でも、やっぱりどこか冷たい感じがして……」
「はぁ? 何を言ってんだいこのオタンコナス!」
「ひいっ!」
「メールだけで関係を取り繕うからそうなるんだよ! アンタ、ちゃんとその子に会って話をしたのかい? どうせ思い込んでいるだけだろ! 大体そうやって安易に『言葉』を捨てるからそんな疑心暗鬼にかられちまうんだよ! このバカタン!」
「ご、ごめんなさいっ!」
「心に傷つくダメージを恐れるから若者はケータイで『告白』なんてするようになっちまった。結局、そこに心は無いんだよ! 本心を知りたいなら相手に面と向かって直接話せば良いんだ! 逃げてばかりじゃ全てを否定するようになっちまうだろ!」
「……」
「いいかい、顔文字や絵文字が悪いとは言わないさ。でもね、そんなもんに頼っていちゃ実生活でも文字に躍らされる事になるんだよ!」
「……そうでしょうか」
「おや? 疑っているのかい? じゃあモノは試しさ。アタシに何か質問してみな」
「え? はぁ……。あ、じゃあ、おばさんは占い師さんですか?」
「( ̄~ ̄;)」
「あの……私はどうすれば良いのでしょうか?」
「ヽ(  ̄д ̄;)ノ」
「あのぉ……」
「ヾ(▽ ̄;ヾ) )))...((( (/; ̄▽)/ 」
「……」
「 (ノ*`▽´*)ノ ⌒┫ ┻ ┣ ┳」
「……」
「ε- ( ̄、 ̄A)」
「……」
「ほれみな! ワケワカメだろ! 今アタシが何を言いたかったかわかるかい!」
「う……。『占いなんてやってられるかぁ』……ですか?」
「違うね! 『噂を聞いて行列に並んでまでして食べたのに、こんな不味いラーメンに850円も出せるかっ!!』だよっ!」
「わ、わかりませんよ」
「ほれみろ! わかんないだろ! つまり文字なんてその程度の事で、本心は伝わらないのさ! 全てはその人間を見ることから始まるのさ!」
「……」
「しっかり人間を見る力を養いなさい。そうすりゃつまらない男に振り回されなくて済むさ」
「……はい」
「なんだ。男友達の話かい……」
「え? あ……」
「さぁ名刺渡しておくから、また困った事があれば直接面と向かって来ればいいさ。アンタ、名前は?」
「豊田雪絵です」
「ユキエさんだね、アンタ、頑張んなさいよ!」
おやおや、それでもまだ浮かない顔して。フフフ、案外そのトモダチもアンタと同じことで悩んでいるのかもよ。またいらっしゃい……。
――私は女占い師シヴァ。毎日ここで待っているわ。さぁ、いらっしゃい。……ただし、大抵の子は……( ・_・;)だけどね――




