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case.6 力士 鵬伊吹

 午前十時、その力士はやってきた。困った顔をしているね。アタシには分かるんだよ。どれ、声をかけてみるとするかい。


「ちょっと。そこのアンタ」


 あらまぁ、呼びかけただけでゼイゼイ息遣い荒くなっちゃって。……ぶつかり稽古でもなかろうに。


「何ス?」


「……アンタ、『将来が不安だ』って顔をしているねぇ」


「……それが、何ス?」


「ここん所、相撲は本場所ではなく、別の場所で満員御礼じゃないか」


「よ……余計なお世話ッス」


「フン、相撲の世界がそんなにガタついちゃ、観客も肩透かし食らっちまうよ」


「それは……耳が痛い話ッス」


「いいのさ、言いたい奴に言わせておけば。今更八百長だとか何だとかって話でもないだろ。忘れた頃に場所もそれなりに賑やかになるさ」


「そういうのが納得できないッス。みな一生懸命相撲に打ち込んでいるのにッス、もっと外見じゃなく相撲を見て欲しいッス」


「は? 納得できない? 今更何を言ってンだこのオタンコナス!」


「う……ッス」


「アンタね、本当は相撲というプライドにばかり縛られているんじゃないのかい! 相撲を見てもらいたいと言っておきながら、土俵際でふんぞり返っているだけじゃないか。同じ格闘技でもね、テレビ放送無くても必死になって営業活動してお客を呼ぼうと必死に駆けずり回ってるプロレス団体すらアンタ達は笑えないよ!」


「プロレスと一緒にしないでくださいッス」


「はぁ? まだ分からないってのかい! このバカタン!」


「……ッス」


「プロレスなんてショー? 相撲という国技と同列に扱うなってかい? 結局そんなおごりがあの空席目立つ観客席に表れているんだよ!」


「……ッス」


「いいかい、純粋にスポーツに打ち込むのはお金が必要なのさ。アンタ達相撲取りよりお金も無く、まして人気も無い地味なオリンピック競技でもね、純粋に打ちこんでいる競技者はごまんと居るんだ。いつまで国技の名の下にふんぞり返るつもりだい」


「でも……ボクたちだけではどうしようもないッス」


「そんな事はないさ! 地位や名誉何もかもを捨てて、現場の力士が一致団結すれば、きっと相撲の人気は回復するはずだよ」


「どうすれば良いッス?」


「そんな事は少し考えれば分かるだろう! もっと相撲を庶民のために分かりやすくすりゃいいのさ!」


「……ッス」


「アタシはアンタなら新しい相撲を創造できると思うけどね。さぁ名刺渡しておくから、また言いたい事があれば来ればいいさ。アンタ四股名は?」


「……鵬伊吹ッス」


「鵬伊吹さんだね。まだまだ大関も狙えるんだから、アンタ、頑張んなさいよ!」


 おやおや、それでもまだ稽古の足りない顔をして。フフフ、力士は憎まれるほど強くなればいいのさ。巨人・大鵬・卵焼きの時代はもう終わったんだよ。またいらっしゃい……。


――私は女占い師シヴァ。毎日ここで待っているわ。さぁ、いらっしゃい。……ただし、懸賞金は一本もかからないわよ――


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