case.2 会社員 嶋田和也
午後六時、その会社員はやってきた。疲れた顔をしているね。アタシには分かるんだよ。どれ、声をかけてみるとするかい。
「ちょっと。そこのアンタ」
あらまぁ、ちょっと呼びかけただけで迷惑そうな顔しちゃって。アタシが面倒くさい占い師だと思っているようだね……。
「何か? 急いでるから占ってもらっている暇無いんだけど」
「……占い? 誰が?」
「え? おばさん占い師でしょ?」
「誰を?」
「いや、だから俺を」
「どこで?」
「……馬鹿にしてます?」
「フッ……、じゃあ聞くけどアンタ、何を見てアタシが占い師だと言いきれるんだい」
「いや、おばさん見たら誰だって……」
「ハン、人を見た目だけで判断するんじゃないよ!」
「えぇ?」
「占い師の小説だからってね! 占いやってると思ったら大間違いなんだよ! このドピラゲッチョ!」
「ドって……。てか、なんなんだよワケわかんないおばさんだな!」
「フン、こっちの話さ! とにかく、アンタみたいに見た目で判断する人間の卑しさがつくづく情けないってことさ!」
「む、無茶苦茶な人だなぁ……。じゃあさ、その机にある水晶玉は何なのよ? どー見てもそいつで占いするんでしょ」
「水晶玉? このガラス玉の事かい? ハッ、驚いたね。こんなモノを見てアンタの何が占えるって言うのさ! ただのちょっとでっかいビー玉かもしれないじゃないか! 何だい、アンタこんなデッカイミルキー玉でも持っているのかい? アブラ玉でも持っているってかい! あぁ? 勝負するってかい! やってやろうか!」
「しませんよ! あの、用がなきゃこれで」
「待ちな! 話はまだ終わっちゃいないよ!」
「……はぁ、面倒くさい人に絡まれたな」
「面倒くさいだぁ? 全力も出してないクセに『面倒くさい』って言葉で逃げる最近の男はアタシは大っ嫌いなのさ! それより、アタシのどこが占い師だって訊いているんだよ! さっさと答えな!」
「じゃあ言ってやるよ! 大体、こんな人通り少ない薄暗い路地裏でそんな真っ黒な格好して、おまけにテーブルには水晶玉なんか置かれて、あまつさえテーブルに『易』なんて張り紙ありゃ誰がどう見ても占い師じゃん!」
「ハァ……。まったくアンタって人は。いいかい、その先入観が悪いって言うんだよ! このオタンコナス!」
「オ、オタン……」
「アンタ、アタシが占い師だと知ったらどうだと言うんだい? 仮にアタシがこのガラス玉に手をかざしてアンタの運勢占えば、その占いを信用するっていうのかい?」
「それは……」
「そうさ! それはその相手次第さ! だったらそうやって何でも見た目で決め付けるんじゃないよ」
「じゃあ……。おばさんは何者なんだよ」
「アタシは占い師さ」
「は……? んだよ、やっぱり占い師じゃん」
「がっ! まだ分からないのかい! このバカタン!」
「ひっ!」
「そうやって自称占い師や自称霊能力者や自称カリスマ美容師の言うことにイチイチ振り回されるなんじゃないよ!」
「だっておばさんが……」
「ハッ、最近の人間はそうやって人のせいにする。見た目や肩書だけで人を判断して生きているからそうなるんだよ。もっと真正面から相手を見る心を養いなさい。そうすればアンタの営業努力も報われるよ」
「え……」
「誰も相手の本当のところなんか知りやしないのさ。だから人は相手の心を開こうと必死になる。取り繕い、嘘を並べ、ご機嫌を取り、笑わない目で笑顔を作る。さて、そんな上っ面な営業で、上手くいくのかい?」
「知ったように……。おばさんには営業マンの辛さなんか分からないよ」
「あぁ、分からないね! でもこれだけは分かるよ。この日本に渦巻いているアンタみたいな無数の営業マンが持つストレスをね」
「……」
「何もかもを身勝手に決め付ける前に、正面から事実だけ見ればおのずと答えは出るはずさ」
「……」
「アンタ名前は」
「嶋田です……。嶋田和也です」
「嶋田さんだね。さぁ、名刺渡しておくから。何かあればまたおいで。少なくともアタシはアンタを真正面から受け止めてやるから」
「……ど、どうも」
「急いでいるのに引き止めて悪かったね。アンタ、頑張んなさいよ!」
おやおや、最後はあの威勢の良さもどこへやら。フフフ、答えはかすかに見えているようだね……。嶋田さん、またいらっしゃい……。
――私は女占い師シヴァ。毎日ここで待っているわ。さぁ、いらっしゃい。……ただし、面倒くさい占い師だよ――




