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case.10 娘 柴 尚子

 午後七時、その子はやってきた。久しぶりに顔を見せたと思ったら……どうやらアタシの事に呆れているようだね。どれ、声をかけてやるかい。


「久しぶりだね。どうしたんだい?」


 おやまぁ、「それはこっちのセリフよ」なんて顔をして。……フフフ、いつまでたっても世話焼きな子だね。


「どこに行ったのかと思えば……。やっぱりココだったのね」


「アンタ、『やれやれ』って心が表情に出まくってるよ」


「そりゃそうよ。こんな寒い夜に……風邪でもこじらせたらどうするのよ」


「アンタね、時季を考えな。今は夏真っ盛りなんだよ。節電を呼びかけつつ熱中症対策を……。なんて矛盾だらけの夏なんだよ! なのに寒い夜に一人路上で佇むか弱き中年女性を表現するようなセリフなんて吐くもんじゃないよ」


「さっきから何わけのわかんないこと言ってんのよ」


「この話を以前ケータイ小説でアップした時が冬だったって話さ」


「意味わかんない」


「フン、これも読者への配慮さ」


「……とにかく、早く家に帰れば? こんな人通り少ない路地にお客さんなんてもうこないわ」


「アンタが来たじゃないか」


「私は別よ! ホント今晩は冷え込むみたいだから……」


「アタシにはね、この使い捨てカイロさえあれば十分さ」 


「そんなものあっという間に冷めちゃうでしょ」


「心配いらないさ。体中に貼り付けてあるからね」


「はぁ……そういう問題じゃないよ」


「フン、路上の占い師なんて皆そうやって冬場を凌いでいるのさ。おっと、夏場は冷えピタだけどね。それともわざわざ馬鹿デカくて煩くて『どこかで縁日でもあるんですか?』的な発電機持ちこんで、ヒーターやら扇風機をガンガンかき鳴らせっていうのかい?」


「そりゃカラダ壊さないならそれもいいかもね。だいたいもうトシなんだから……」


「ハァ? 人を年寄りみたいに言わないで欲しいねぇこのバカタン!」


「はいはい……。で、いつまで続ける気?」


「何をだい?」


「……人捜し」


「さぁね。アタシにはもうそんな事はどうでもいいことさ……。最近じゃストレスに苦しむ人間を観察するのが楽しくて仕方ないね。うひょひょひょ」


「……嘘ばっかり」


「何がうひょだって言うんだい!」


「嘘よ。それに、そのストレスって……。結局自分に対して言ってるんでしょ?」


「ハン! 何のことだかね」


「そうやっていつまでも意地張っていると、また繰り返しちゃうよ。『言わなきゃいけない時に言えなかった言葉がある』って」


「いちいち煩い子だねぇ! 何をやろうとアタシの勝手だろ。ほら、アンタこそ風邪ひいち……もとい、熱中症にかかっちまうからさっさと自分の家に帰りな! ボケッとしていたらノロやらインフルやら大安売りしてやるよ!」


「……はいはい、分かりました」


「よし、それで良い」


「あ、そうだ……。さっき実家に寄ったついでに晩御飯作っておいたから。ホント早めに切り上げて冷めないうちに食べてね」


「……フーン」


「そういう時は素直に『ありがとう』って言わなきゃ。お母さん」


「……ハーン」


「偉そうなこと言ったけど実は私もね、ちょっと期待しているんだ。いつかは会えるのかなって……。だから、お母さんに倒れられちゃ困るんだから」


「ノルマに追われた保険屋みたいなこと言うんじゃないよ! アタシはいたって健康だよ!」


「だからもう勧誘しないって言ってるでしょ! じゃあね!」


 まいったね。フフフ、ますますアタシに似てきたねぇ……。言えなかった言葉。言えずに死ねるもんかい。あの子の為にもね。


――私は女占い師シヴァ。毎日ここで待っているわ。さぁ、いらっしゃい。……ただし、一話完結と見せかけて、たまには伏線張るけどね――



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