case.1 男子中学生 鈴木司
午後三時、その学生はやってきた。……困っている顔をしているね。アタシには分かるんだよ……。
「ちょっと! そこのアンタ」
ふふ、あらまぁカワイイぼうやだね。ちょっと呼びかけただけでオドオドしちゃって……。若いね……何も取って食おうとはしないさ。
「見たところ、そこの第一中の学生だね」
「はい……。そうですけど……何か?」
「アンタ、悩んでいるね」
「え? いや、別に」
「悩んでいないのかい? これはおかしいねぇ。アンタ、本当に一つも悩み事がないのかい?」
「……そりゃ一つくらいは」
「一つ? たった一つ? ハンッ、これはおめでたい学生だね!」
「……」
「フン、『偉そうに言うけど、あんたは僕の何を知っているんだ』とでも言いたげな目をしているねぇ……。まぁいいさ。……で、アンタ、名前は」
「鈴木……司です」
「ツカサ君ね。……アンタのその悩みの種、当ててあげようか」
「え……」
「……恋愛関係だね?」
「……」
「はぁ……。こういう誘導尋問に引っかかる純粋な子が未だに多いんだよねぇ。これだから何時まで経ってもカネに汚いインチキ占い師や霊能者が蔓延るわけさ……」
「……」
「まぁそれはこっちの話。……ところで、アンタのそのカンジじゃ占わなくったって大体察しがつくねぇ。……大方、好きな子に告白できなくてモジモジって所じゃないかい?」
「はは……」
「まーた引っかかる。……まいったね。時代は平成だと聞いていたけどねぇ。アンタのような昭和っ子がまぁだ居たんだねぇ」
「……」
「アンタ」
「は、はい……」
「告白してフラれるのが怖いってかい?」
「……」
「恥ずかしいってかい?」
「……」
「どーなんだい!」
「じ……自信無いんです」
「ハァ? 自信があってもフラれる時はフラれるんだよ!」
「ヒッ……」
「アンタね、そんな下らない妄想に苛まれて、ほんのわずかな中学校生活を『モンジョイ』するつもりかい!」
「モ、モンジョイ?」
「悶々エンジョイ。略してモンジョイってことさ」
「……それ流行ってるんですか?」
「ガッ! 流行ってるとか、流行らせたいとか、ちょっと巷で流行ってくれたら嬉しいなぁとか、そんなことはどうでもいいんだよこのバカタン!」
「ひっ! すいません!」
「すいませんじゃないよ! すみませんだろがっ!」
「すっ、すいません!」
「はぁ……。もういいさ。それよりアンタ、告白した後の顛末を悩む前に、先にやるべき事があるだろう?」
「え? ……何をですか」
「気づいてないのかい?」
「……わ、わかりません」
「じゃあ教えてやるよ。磨くんだよ……」
「磨く……って?」
「鈍い子だねぇ……。オトコが愛しいオンナに告白する前に磨くことと言えばたった一つ。ほら、これだけヒントやればアンタでもわかるだろう?」
「あ……あの」
「うん?」
「お……男を磨く……とか?」
「ハ?」
「えっ?」
「本気かい?」
「え……あ……」
「何をとっちらかったコト言っているんだいこのオタンコナス!」
「ひっ! オタ……ッ?」
「オトコがオンナを落とす前に磨くこと、それは『歯を磨け』って事だよ!」
「……! は、歯っ! ……ですかっ?」
「何だい何だい、想定外な答えに鳩が豆鉄砲を連射したかのような目になっちまって!! 大体ね、アンタちゃんと毎日欠かさず歯磨きしているのかい! 一日でも、一度でも、この人生で怠った事なんてないと言い切れるのかい! あぁあそうさ、細かい話さぁ! だけどね、オンナはそういうだらしのない男が一番ムカツクんだよ! わかったか! このバカタンがっ!」
「ひいっ……! ごめんなさい! すいません!」
「『すみません』だって言ってるだろ!」
「あぁっ! すいませんっ!」
「……。いいかい、毎日しっかり磨きなさい。そうすれば自然とアンタの全てが磨かれる。その彼女も気付かないうちにね」
「……え?」
「その子が好きなら、好きな分だけ磨きなさい。それほどでもないならそれほどに磨けばいいのよ! 後はどうなろうとアンタの運命のさじ加減さ!」
「は、はい……」
「いい子だ。じゃあこの名刺渡しておくから、何かあればまた来ればいいさ。……さぁ、引き留めて悪かったね。行きなさい」
「はい……、ありがとうございました……。あ、あのぉ……」
「ん? ……なんだい?」
「その……。僕の口……臭かったですか?」
「ガッ? 口クサかっただぁ? そんな下らない事心配するヒマがあるなら、早く帰ってプラークコントロールの練習でもしてきなっ! このドピラゲッチョ!」
「ドッ? すいません! ありがとうございました!」
おやおや、逃げるように帰っちゃって。フフフ、まだまだ若いねぇ……。ツカサ君、またいらっしゃい……。
――私は女占い師シヴァ。毎日ここで待っているわ。さぁ、いらっしゃい。……ただし、その代償はカネよりも高くつくわよ――




