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彩音と富村 2

「と言ってもお前はどこに行くつもりなんだ?」


一応祐二はちゃんと服を着てきている。上は黒のTシャツ、下はスラッとしたジーパン(濃青)だけで、春にしてはいささか軽装ではないかという感じだ。だが本人は寒くないを一貫している。

 同じく彩音も夏物のワンピースで、全然寒くなさそうに歩いている。露出している肌がまぶしいなぁ。


「いや、何も考えてないから兄貴が考えてくれよ」


「お前が考えろ。誘ったのはお前なんだからさあ言え」


「いや兄貴が考えてくれ」


5分後


「お前が考えろ。それとも考える脳もないかああん?」


「兄貴も考えて無いじゃないか。そんなことも気付かないのかな?」


二人はガンを飛ばし合い、顔の近さは米粒一粒分ぐらいであった。周囲から見ると美男と美少女のラブラブカップルに近い光景であった。とってもうらやましい。結局ツンデレな祐二が折れた、祐二も祐二で優しいのだ。


二人が歩いて行くと大きなボウリングのピンが見えてきた。あれはおそらくボウリング場の看板なのではないか。祐二はピンを指さす。


「あれ行くぞ、ボウリング。地層の調査じゃないほう」


それを聞き彩音はうれしそうに笑う。


「久しぶりだな。兄貴とボウリング行くなんて、何年来だ?」


顎に手を当て微笑をたたえる祐二。


「忘れた。だがあのときは若かった。俺もお前も。スコアは確か・・・俺が210でお前が確か186だったな。今はどうなってるか分からないがこの前は本調子じゃなかったんだよな~。今回も勝たせてもらうよ。ちなみにお前の目標は?」


彩音がガッツポーズを取る。


「兄貴に勝つことだ」


「ああ、無理だなハハハ」


「言ったなこの~」


まあ、何とも仲の良い兄妹である。




現在6回目のスコア

祐二 128

彩音 150


「くそう、一投目でミスったのがまずかった。コイツは普通の相手じゃないんだ」


二人共周りから見ればあり得ないスコアをたたき出しているのだが二人にとってはこれが普通なのである。


「あれれ~?兄貴どうしたのかな?このままじゃ最初に言ったあれの執行権を私が持つことになっちゃうよ~?」


「まだ勝機はある。ふぅ」


「勝機?正気?」


祐二は30秒間瞑想をする。祐二にはすでに彩音の声は届いてなかった。


「行くぞ」


祐二は腰を高くし、ボールをできるだけ下にもっていき力をためる。


「秘技!トマホークエンジェル!」


祐二はボールをアンダースローで投げる。ボールは地面すれすれを物理法則を無視して真っ直ぐに超高速低空飛行で飛ぶ。そして、ピンに当たった瞬間10本のピンが全てはじけ飛んだ。中には割れたピンも混ざっている。ボールはと言うと後ろの金属部分にめり込んでいる。


「兄貴すげ~。よ~し私もやるぞ!」


17ポンドのボールをその細腕で軽々ともちぶんぶん振り回しながらやる気を見せる彩音だがそれを祐二が止める。


「これこれ待ちなさい彩音」


「ん?なになに?」


祐二は自分たちを睨みつけてくる係員を指さす。


「あれを見なさい」


「睨んでるね」


「これ以上やると?」


「追い出されるね」


「そういうことだ。ああ、投げなければ何やっても良いよ。言いくるめることは簡単だ」


祐二はそれだけ言うと彩音の背中をポンと押して席に戻る。


「わかった。兄貴、この勝負私がもらうよ」


それだけ言うと彩音は片足を軸に回転を始める。


「おお!何をする気だ!?」


そしてそのスピンは瞬く間に高速になっていき、次第に風を纏うようになってくる。


「何という力!この構えから発射される技はただ一つ!風を操るボール、トルネードストライク!そのボールは風を纏い、ボールに触れてないピンまでも倒してしまうと言う!」


勝手に実況を始める祐二。そんな技あるのか。


「はぁぁ!!」


すでに彩音は縦長の駒のように見える速度まで達していた。そしてその駒の中からボールが発射される。彩音のボールはピンへ向かっていく。そして、ピンを全て巻き上げた。倒したのではなく巻き上げたのだ。彩音は得意そうな顔で祐二の席に近づいていく。


「へっへーん」


鼻をこすり無い胸を堂々と張る彩音。とっても得意げなので祐二は何も言えなかった。


祐二は少し考えたあと目をかっと見開く。


「こうなったらあれを使うしかない。あの技を・・・・」


祐二は玉汗をだらだら流し、危機感たっぷりに言う。


「何のこと?あれって?」


祐二は彩音を手でぶんぶん制止しながら距離を取る。


「ああ、口にするのも恐ろしい!!」


彩音は何のことか分からなかった。


「まあいいか、兄貴早くしてくれ」


玉汗をハンカチで拭きながらレーンに入る。そして祐二はボールを持つ手を不自然なほどねじる。相当回転がかかりそうだ。あと祐二の手にも相当負担がかかりそうだ。

そして一気に腰を曲げ、ボールの位置を最大限高く構える。




「これ以上は俺の手が持たん・・!いざいかん!!禁断の技!!オイルショック!!」



ボールは今までのように高速に突進すると思われた、しかし!そうではなかった。祐二のボールは超高速回転超低速で進む。そしてそのゆっくりとした勢いのまま30秒の時間をかけてピンに接触。ピンはその回転によって四散した。削れているピンも多々見える。これだけ見ても十分恐ろしい。だが祐二の技「オイルショック」の恐ろしさはこれだけではなかった。


「次お前だ、正攻法でストライクを取ってみるんだな。それとも技を使わないとストライク如きとれないのか?」


祐二は彩音の席まで歩いてくると鼻で笑いながら挑発。勿論彩音の闘争心に火が付き、祐二の挑発にまんまと乗る。だがこれは祐二の仕組んだ罠だった。


「良いじゃねえか。よし、正攻法でいってやんよ」


そして彩音はボールを念入りに拭く。レーンに立ち、完璧な姿勢で構える。


「行くぞ。これで終わりだ兄貴!!」


彩音が完璧な角度で完璧なスローをする。誰もが彩音のストライクを予測した。だが結果は180度違った。ガーターだった、回転をかけたボールが突如ガーター側にはじき出された。ように見えた。

彩音は呆然としている。微動だにしない、その肩に祐二の手を置かれてからはっと気がつく。


「説明しよう!!彩音、俺がさっきの一投で投げたボールは何だ?」


「え・・・っと、オイルショック?」


祐二は人差し指を立てる仕草をする。


「その通り、じゃあどのように回転していた?」


彩音は少し考えて答える。


「凄い回転だった。しかも遅かったな」


「そうだ、そしてストライクゾーンを見事に通っていた。そしてこれが種明かし、ボールを見てみろ」


自分のボールを見る彩音。その整った顔が驚愕に染まる。


「油が・・・付いてない?」


「そう、つまりレーンに油がしかれてなかった?違うな、油を拭き取られたんだ」


ボール取り出し機っぽいのに寄りかかりながら祐二は言葉をつなげる。


「俺がさっき投げたボールを見てみろ」


さらに彩音の顔が驚愕に染まる。


「油だらけ・・・だ」


「そう、これが禁断の技オイルショックの真実。ストライクゾーンの油を拭き取ってしまうんだ。だから次に投げる奴のボールは油の影響を受けない。つまり回転による摩擦力がもろにボールに影響する。よってボールは回転する方向に弾かれるように行ってしまうわけだ。弾かれるレベルの強さで回転をかけたのはお前だが。この勝負、俺の勝ちだな」


彩音は片膝を突き、微笑を浮かべる。


「参ったぜ兄貴。さすが私の兄貴だ、さあ最初に決めた「負けた方が勝った方の言うことを聞く」を執行してくれ・・・・・。そのだな、アレなこととかは・・・ああっ!!」


いきなり顔を赤くしてもじもじし出す彩音。まず勝敗の条件から突っ込みを入れたい。祐二は少し悩み、明るい笑いを浮かべる。そして口を開く。


「そろそろ昼食だな。だから奢れ」


彩音はその要求に少し拍子抜けしたのか、片膝立ちのバランスを崩しかけるが、なんとか立て直す。


「そんなんで良いのか?もっと無理な要求をしても良いんだぜ?」


祐二は彩音にいきなり顔を近づけ、有無を言わせない態度で言う。


「勝った方の要求が聞けないのか?」


本当に有無がいえなかったので彩音はコクコクとうなずくしかなかった。


「じゃあ俺はたっぷり奢ってもらうからな~!」


祐二はそのままフハハハと言いながらボウリング場をあとにしてしまった。

一人残された彩音はため息をつき


「やっぱり兄貴は意地悪だよ」


とだけ呟いた。とても楽しそうな笑顔で。


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