彩音と富村 1
ついに富村の家族が日の目を見る。
日曜富村
「・・・・んん」
祐二の朝は早い。日曜にもかかわらず七時きっかりに起きるという私から見ても早い朝だ。
時刻はまだ六時。だから祐二はゆっくりと眠っている。なぜパジャマがペンギンプリントなのかは私にも分からない。はっきり言うと可愛い。日曜日の午前を静寂が埋め尽くす。だが祐二がゆっくりと寝返りを打ったとき、
「兄貴~!」
部屋のドアが開け放たれた。否、ぶち破られた。ドアの留め金があたりに転がっている。そして土煙の中入ってきたのは富村祐二が妹、富村彩音であった。ドア周辺の壁もことごとくボロボロになっているが、それはギャグ補正ですぐに直りますよ。ほら直った。
「・・・誰だ?」
寝ぼけ半開きの目で上体を寝かせたまま怠そうに祐二は呟く。そんなことお構いなしに彩音は一気にベッドへ駆け、その小柄な体で祐二のマウントポジションを取る。その動作は軽く、ベッドはほとんど音を立てなかった。
彩音は顔を祐二の耳に近づける。何をする気だろうか。
「起きろ~!!!!!!」
祐二の部屋の窓ガラスが割れた。これが噂のソニックブラスト?
「GYAAAAAAAAAAAS!!!」
祐二はネイティブな異種族語でのたうち叫ぶ。だが彩音のマウントポジションは生半可な力では取れないようだ。祐二は手足を大腿に挟まれたままである。
「起きろ~起きろ~あはははは~」
祐二の胸板をバンバンたたきながら起こそうとする彩音。そろそろ祐二の肋骨にひびが入りそうだ。
「起きてるぞ!!!!!」
祐二は彩音の大腿から手を抜き、彩音を抱き寄せる。二人の顔は互いの息がかかるほどの距離にある。
「あ、兄貴・・・今日は積極的だな・・・」
顔を赤らめてさっきまでの態度を覆す彩音。
「ああ、今日の俺は・・・積極的だ!!」
抱き寄せたままベッドを転がり、回転の力を使って一気に彩音を突き放す祐二。彩音の軽い体は一気に壁にたたきつけられる。凄い痛そうだ。
「おー痛い痛い。紛らわしいことしやがって、一瞬本気にしたじゃん、兄貴」
だが彩音は全然大丈夫そうに立ち上がる。ここに化け物がいるぞ。
祐二との差を詰める彩音。祐二は布団を持って構えている。
「紛らわしい?何のことだ?まあいい、かかってくるがいい、小娘」
迫る彩音を挑発する祐二。彩音のツインテールが一瞬ふわっとなびく。そして次の瞬間彩音の姿が視認できなくなる!数秒経ったあとに
「小娘っていうな~!!!」
と叫びながら祐二の目の前から突然現れる彩音。部屋の広さが八畳なもんだから、出てくるまでに何をしていたのか気になるところである。アニメでは良くあること。
「フッ。そおい!」
だがそれを予知していたかの如く祐二は彩音の力を受け流すように布団でくるむ
「もごごごごご!!」
じたばたと暴れる彩音。それを無理矢理祐二は押さえ込んで周りを鎖で縛る。彩音はビニールひも程度だと千切ってしまうのだ。
「おとなしくしろ、ボンレスハム。ヒャハハハ悔しいかぁ?まだまだひよっこだぁぁ!」
なおも挑発を続ける祐二。だがこれは挑発ではなく一方的な言葉責めである。
「ん~~~~~~~~!!(はずせ~~~~~~~!!)」
「ん~~なになに?」
祐二は布団に耳を付け、聞くふりをする。
「ほうほう、もっときつくしてほしいか。でもそれ以上やると危ないからここら辺でセーブしないと駄目なの。しかし彩音にはMの素質があるようだ。お兄ちゃん悲しいわ。涙が出ちゃう、だって男の子だもん」
その言葉を聞きさらにもがく彩音、祐二はそれを無理矢理抑え込み担ぎ上げる。
「とりあえずリビングに行くか。おとなしくしてないと解かないぞ」
祐二がそう言うと彩音はおとなしくなった。
「産地直送できたてほやほやの彩音が珍しく日曜朝六時に起きてしまった、いや起こされてしまった俺によって届けられました~っと」
祐二はどさっと、カーペットの上に彩音布団を落とす。中からあうっ、と言う声が聞こえたのは気のせいか?
彩花が怪訝な顔をして巻かれた布団を見る。
「何それ?」
祐二が鎖を解きながら答える。
「彩音」
中からツインテールがぴょこんと現れる。
「あ、ほんとだ」
ツインテールをちょこっと引っ張ってみる彩花。
「離れてろ、爆発するぞ」
鎖をもう少しで解き終わる祐二が彩花に警告する。
「爆発?」
「良いから離れてろ。よし解き終わった」
鎖をカチャリ、と解き終わった瞬間それは起きた。
「ああああああああああああああああああああ!!」
布団が一気に四散して同時に彩音のブラストボイスでリビングのものがいくつか吹き飛ぶ。そして大の字のポーズをした彩音が現れる。
彩花は祐二の影に隠れ、混乱している。
「兄さんと彩音は何をしていたの?」
祐二が後ろを少し向いて一言
「じゃれあい」
彩花はため息をつくしかなかった。
「兄貴~!買い物に付き合え!」
経済新聞を読みながら、コーヒーを飲む祐二のリラクゼーションタイム「侯爵の優雅なティータイム・イン祐二」を邪魔された祐二は不機嫌そうだ。祐二は彩音をビシッと指さし、険しい顔でこう言った。
「人にものを頼むときは?」
彩音は口に手を当てて考える。
「敬語?」
「そうだ」
再び彩音は祐二に向かって言う。
「よし・・・・お兄様。買い物に付き合ってください」
すると祐二はコーヒーをゆっくり口に近づける。そしてゆっくりとのどに流し込み、一度ため息をつく。この間二十秒。
「断る」
そこまでして断るのか!
「ええ~~~!?」
期待を裏切られた彩音は至極悔しそうだ。
「兄貴頼むよ~~。兄貴に来てもらいたいんだよ~」
祐二が間髪入れずに問いかける。
「なんでだよ」
すると彩音は少し考える。
「兄貴は私が暴漢に襲われたらどうするんだよ」
これも間髪入れずに答える。
「暴漢を助ける」
「ふぇぇぇぇん」
すると彩音は泣き出してしまった。これには祐二も大慌て!
「わ、分かった分かった!行けば良いんだろ行けば!」
すると彩音はケロッと泣き止む。
「ありがとう兄k「嘘だ」」
祐二はどこまで鬼なのだろうか。
「意地悪しないで兄さん行ってあげればいいじゃない。ねえ彩音」
彩花の言葉に高速でうなずきまくる彩音。
「二人がかりとは卑怯だな。僕泣くよ?ほら泣くぞ?」
「私に嘘泣きは聞きませんよ?兄様」
祐二が泣く泣く詐欺を試みるがどうやら効果はないみたいだ・・・。その間に彩音は祐二の後ろに回り込んで、そのまま祐二の背中に飛びつく。
「行ってくれるまで離さないぞ!!!」
しかし回した腕は首に巻かれていて、祐二は息が出来ない。
「あ・・・が・・・」
解いてやれよ。だがそれに気付かずさらに彩音は強くしめていく。
「どうだどうだ~~~!」
だが彩花がそれに気付いた。
「彩音!あなた首を絞めてるわよ!!」
祐二は白目になりかけている。この力にこれだけ耐えるのも凄いものだ。
「え、マジで!?」
彩音はやっと気付いて締めていた手を離す。
「さっきの・・・仕返し・・か・・?」
うずくまりながら呼吸を整える祐二。顔が明らかに青い。
「い、いやあごめん兄貴。そこまで行くとは思ってなかったんだ」
背中をさすりながら謝る彩音。
「もう分かったよ。買い物は行ってやるよ」
ツンデレ祐二だった。
次話:祐二と彩音 2