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富村祐二と両花院椿

両花院椿は富村祐二の正体を知りたかった。



最初はどんな男かと思っていたが・・・

生徒会長室。南側がガラス張りになっており、私、両花院椿は椅子を窓の外に向けながら座っていた。このデザインは先代の生徒会長が提案したものであり私自身気に入っている。


「相談部と言うところに入ってるのですか」


「はい。そして彼が相談部設立者であり現部長です」


無表情のまま答えるのは愛山優花。各部活のことに関してはもっとも詳しいのが彼女。生徒会諜報課長を担当しているのだ。少し読めない女性だけど彼女のおかげで様々な部活の横暴などが暴かれたからかなり頼りにしているのも事実。


「そう、得体の知れない部活だけど、あなたの目から見てどうなのかしら?」


私は聞いてみる。優花があの部活に入っているならそう答えるかは大体予想が付く。


「別に、潔癖すぎて困るくらいです」


ここの学校は生徒会の権力が異常に強い。生徒会長の一言で部活など一発でつぶすことが出来る。たとえそれが今まで続いてきた伝統ある部活でさえも。だからこそ優花はそう言う答えを言ったのだろう。


「そう、あなたが言うなら今回の件はこれで終わり。帰って良いわよ」


愛山優花は恭しく頭を下げる。そしてゆっくりと部屋を後にする前に一言だけこう言い残した。


「あの部活を潰すのなら私はここをやめます」


と。

私はあなたがそこまで肩入れする理由が知りたい。つまり優花は生徒会と相談部どっちを取るかだったら相談部を取ると言うことだ。それは暗に私よりあの男の方がついて行く価値があると言ってるようなもの。あの男を調べると短期間で様々なくせ者を相談部に入れている。しかも無理矢理でなく、自主的に。あの剣道部の北条をあそこまで変えたのがあの男だとしたら。


赤い夕日に照らされた会長室で一人呟く。


「あの男は絶対何か持ってるわ。私を越える何かを」


私にはその何かの正体が分からなかった。


帰りは送迎用の車。そして家に帰れば母父は居ない。いつも仕事で帰ってくるのは週末だけ。別に寂しくない、と思う。もう慣れている、だから今日も私は広い食堂で食べる。そして独りで。何でもない、とりとめのない話、私はそんなもの時間の無駄だと思う。だから私は必要なことだけ話し、その後部屋にこもる。外出は母が許さない。

私は学校にいるときがもっとも充実してると思う。確かに周りの愚民を見下ろすのも気持ち良い。でも本当は、会話をしている時間が一番好きだった。でも自分と対等に話してくれる人は居ない。ならば、対等に話してくれる人が居たらどうする?そんな人居るわけがない。一学年上の人たちも私とは敬語で話し、一線をおいていた。そういうのはもう慣れっこだ。もういい、最近毎日こんなことを考えてる気がする。なぜかは知らない。気を引き締めなければ、明日はあの男を見極めるのよ。お休み、自分。




思い立ったら吉日。翌日私は今相談部部室の前にいた。相談部とはどういうものなのか。そして富村祐二という男がどんな人物なのかを見極めるため。ただそれだけだ。


ドアをノックする。


「どうぞ」


中から声がかかる。

私はゆっくりドアを開ける。中は薄暗いが顔や輪郭ははっきり見える。窓から差し込む日が少し赤みを帯びている。中に入ると妙に肩の力が抜けてしまう。いや、無意識に抜いてしまうのか。自宅よりも自宅らしい雰囲気と言った方が正しいか?

長机を二つ挟んだ先に一人の、あれは女性だろうか?でも男子の制服を着ているが・・。


「僕は男だよ。」


心を見透かされたように言われた。読心術?


「違うよ、こういう性質なんだよ。相手の心が大体読めるんだ。意識せずともね」


手を机の上に置き、組みながら自嘲気味に言う。その顔がやけに寂しくみえる。つい名前を聞いてみたくなる。


「春樹、竹中春樹だよ」


ここまで来ると不気味になってくる。もしかしたらそういうことで周りから孤立してたんじゃないか?さっきの自嘲気味な笑みもそれのせいで―――。


「違うよ、今は違う。昔はそうだったけどね。でも祐二に会って変わったよ。おっと、これ以上は長くなるからね。また今度があるか分からないけどまた今度。そちらの用件を聞かなくちゃ。僕は心が読めるけどその人その時思ってることしか分からない。だからちゃんと言ってくれないと駄目なんだ。言うことで幾分か気も楽になるって言うしね」


竹中は私のことを知っているのだろうか。いや、この学校で私のことを知らない人間は居ないはずだ。


「なぜ敬語を使わないのですか?」


竹中はさも当たり前のように言った。


「敬語は使わないことにしているんだ。祐二からの言いつけで。確かに敬語だと言いたいこともいえなくなるだろうしね」


あ、当初の目的を忘れていた。富村祐二を呼んでもらわねば。


「富村祐二を呼んでもらえるかしら?」


「え?あ、うん分かった」


少し意外そうに竹中は返事をし奥のふすまを開ける。


「祐二君。御指命だよ」


「ええー、まじでか?」


奥から富村らしき声が返ってくる。


「うん」


「ちょっと待ってくれー。今ビリーズブートキャンプを・・・おい消すな」


「祐二君がやっても意味ないでしょ」


「こういうのは精神的な問題だってのに」


そしてふすまの奥から富村が現れる。そう、この男にはどんな力があるのだろうか。一応御曹司や実業家の善し悪しを見極める目は持っている。それで計れるかどうかは分からないが。


「ふぅ~」


ため息をつきながらどっこいしょと座る。一応私は両花院家の人間ですわよね。ここまでなめた態度を取られたのは初めてだ。


「今年も花粉症が酷くなりそうだ。困るよね~」


いきなりよく分からない話題を提示してきた。どう答えればいいのだろうか?私はよく使う「とりあえず肯定」を使うことにした。


「そうですわね」


「ところでさぁ、春樹」


突然後ろを向き竹中に話を振る。さっきの問いは何が目的なのだろうか。


「この人誰だっけ?」


愕然とした。まさか私を?この両花院を知らない?


「りょ「両花院椿ですわ!!!」


あ、ついかっとなってしまいましたわ。あまりにもこの愚民が私を愚弄するからよ。私は悪くない。


「凄い剣幕だなおい。まてよ?両花院って生徒会長か?」


ふふん、気付いたみたいですわね。私がどの程度の人物か。


「そうですわ。まさか私を知らない人が居るとは思いませんでしたわ」


「あ、そう」


あれ?リアクション薄い?


「驚かないんですの?何で生徒会長たる私にそんな態度を取っても平気なのですの?」


「態度とかどうでも良いじゃんね~。あともう一つ、知らないってのは嘘だ」


この男むかつきますわ。


「嘘ってあなた私をなめてますの?!」


「知らないってのは嘘だっていうのも嘘だ。つまり知らなかったと言うことだ」


これはマジで切れてもよろしいのでしょうか。


「あなたいい加減に・・・ハッ!?」


「ん~?いい加減になんだ?」


よく考えるのよ私。私は今までこんな怒りかたをしたことがない。怒る必要もないし、なにより相手が怒らせるようなことをしたことがないからだ。だがこの男はどうだろう、全く遠慮無く煽ってくる。私のことを何一つ恐れていない、全く対等な立場で話している。しかも何かひらめいた顔になっている。


「な、なんですの?」


富村は袋から一つアーモンドを取り出し、親指と人差し指でつまむ。


「お前煽られたことがないだろ?」


確かにそうだ。誰も私のことを煽るまでしたことがない。


「うるさいですわ。黙っててください。あと馴れ馴れしいですわ、お前とはなんですの?」


「だってお前のこと煽る奴居ないもんな。怖くて。生徒会長である以前に両花院家の一人娘だぞ?そりゃ怖い、ああ~怖い怖い」


「うるさ「聞いてあげて」」


私が怒って横やりを入れようとしたそれを止めたのは意外にも竹中だった。

富村はしゃべり続ける。


「お前は心から感じようとしない。相手を心から信じない、そんなこと相手から見れば分かるものだ。お前も最初に俺が質問したときはとりあえず肯定したろ」


ちょっとついて行けない。いきなりの話題転換をされても少し困る。


「しましたわ」


「俺花粉症じゃないんだよ。そしてお前も花粉症じゃない」


どこで見抜いたのだ?私はそんなこと一度も言ってないはずだ。


「そんなこと私は一度も言ってないですわ」


「え、そうなの?」


何でそこでうろたえるんだこの男は。


「い、いやその通り私は花粉症じゃないですわ」


「よかった、続けるぞ。つまりだ、お前は否定をしなかった。ああいうのは社交辞令だろうけど友人の間ではノーだ」


知らなかった。でも否定をすれば反感を買うのでは?私はそれが怖いのだ。生徒会の仕事としては理論的に否定は出来る。そこに私の心はない。


「心だ。ハートだ。お前は誰かと対等に話したいんだろ?」


かなり痛いところを突かれる。でもそれを否定することは出来ない、当たっているのだから。だがこの男はどこからそれを導き出した?


「なんでそんなこと知ってますの?私はさっきここに来たばかりですわよ?」


「お前はかつての春樹と同じ目をしていたからだ。コイツはな、その能力のせいで誰からも交遊を断たれていたんだ。そりゃそうさ、誰だって心の中を見られるのは気分が良いものじゃない」


私は竹中を見ている。だがその顔には寂しさはなかった。


「まあそれはおいといて、お前もまた孤独に見えたからこんなことを言い出したんだよ。さらにもう一つは、お前が寂しそうだったから。迷惑ならやめるが?」


さっきから崩さぬ微笑で問いかけてくる。確かにいやだ、心にずかずかとはいってくるようで。だがそんなことをしてくる人間はコイツだけじゃないか?そう思える。その感覚は決して気持ちの良いものではないが、うれしくもある。本当に理解してもらえている気がする。だから私はこの感覚をもう少し味わいたかった。


「続けなさい」


「ふ、命令形か。まあいいかな、お前は周りの人間が距離を置くことを家のせいにしている。生徒会長というポストのせいにしている。じゃあ言うが、俺がこの馴れ馴れしい性格のまま生徒会長になってお前みたいに何かと遠慮されると思うか?俺は遠慮無くたくさんの突っ込みを受けることになるだろう。だからな、おまえ自身が変わらなくちゃいけない。お前は周りの人に遠慮しなくて良いんだ。家なんて無視していけ」


「遠慮・・・しない?」


「そうだ、そうすれば周りの態度も変わってくる。まあそれだけじゃ駄目だ、今まで積み重ねてきた印象というものはどうにも払拭し辛い。そのやり方は千差万別。お前自身で考えろ、昼食を誘うでも良い。お前のイメージをひっくり返す何かを考えるんだ」


富村は再びアーモンドをつまみ、口に放り込む。


「そうか、ならいい。まあ俺の言ったことは全てアドバイスだ。あとはお前がどう動くかだ。またここに来ても良い。ただの世間話をしたいならそれでも結構。ここは相談部だからな」


そう言う富村の顔がとても優しく見えて、つい顔をそらしてしまった。


「わかった。そうさせてもらうわ。では」


「じゃあね~」


 富村の声を背に受けながら私は逃げるように相談部室を去る。もうすでに迎えの車が来る頃だった。そして私は当初の目的を思い出す。そうだ、富村祐二がどんな人物なのかを見極めるのだった。最初はどんな男かと思ったがあれなら他のくせ者がついて行くのも頷ける。強いて言えば富村自体くせ者だ。あの部は優花の言うとおり潔癖すぎて困るぐらいだった。これからもたくさんの人を救うことになるだろう。

 後半は逆に私がアドバイスを受けることになってしまった。生徒会の面子に今まではあまり深く関わらないようにしていたが、それも今日まで。少し肩の力を抜いて接してみよう。

 私はゆっくりと充実感にあふれながら車に乗った。学校が初めて楽しみな場所になった日だった。





「俺決まってたか?春樹」


「まあね、少しかっこつけすぎだけどね」


「しょうがないだろ。あのしゃべり方が一番性に合ってるんだ」


「祐二君らしいよ」


「じゃあ帰るか、後片付けは俺がやるよ」


「わかった、じゃあね祐二君」


「バイ」


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