祐二を救え final
祐一はその光景に唖然とした。
「・・・まさか」
祐一の頭の中である仮定が生まれた。
1.祐二が目を冷ましたが暗黒面の祐二だった
2.さっき消えたドラゴンが実はこっちに来ていた
3.トイレ行きたい
「2か?1か?」
祐一はとりあえず祐二の姿を探すことにした。
「おい!あいつ火を噴くぞ!」
彩音が全力疾走で祐二の屍を担ぎながら叫ぶ。並立走行している彩菜は後ろを向きながらしゃべる。
「異世界の生物なんだからそのくらいのことはするわよ!」
飛んでくる火球をかいくぐりながら逃げ続ける二人、いや三人。火球の犠牲になった家々が後ろに残る。風よりも早く二人は駆ける。
「とりあえずあのドラゴンは兄貴がお気に入りらしいぞ!」
ドラゴンは祐二を執拗に狙っているようで、それを担いでいる彩音にも必然的に攻撃が集中する。
「・・・・くっ!」
彩菜が途端に飛び上がり、ドラゴンに飛び膝蹴りを当てる。しかしドラゴンは全く効いていないらしく、鼻息をフンッと漏らすと一気に横回転をし、しならせた尻尾で彩菜を一気に地平線の彼方まで飛ばした。
「姉貴~~~~っ!」
彩音が叫ぶ。ドラゴンは再び彩音に照準を絞る。
「まずい!!」
その時、一本の閃光がドラゴンをかすめた。地平線の先から出てきたわけじゃなくて彩音の自宅からである。
「ギャアアアアアアアス!」
ドラゴンが一気にそちらに反転する。その先には光の矢を持った祐一がいた。
「は?あいつなにやってんだ?」
彩音は弓を持った祐一に疑問を抱く。
ドラゴンが周囲の家を吹き飛ばしながら一気に祐一との距離を縮める。
「まだまだひよっこだぁ!」
祐一はそれを空中回転しながら避け、同時に彩音に調合した薬を投げ渡す。そのスピードは音速を超えている。
「早!」
彩音はそう言いながら薬のビンを片手で受け止める。彼女も人間じゃなかった。
祐一はドラゴンの攻撃を躱しつつ剣を召喚して、躱しきれない攻撃は受け流しながら距離を取っていく。
「まずいな・・・祐二が起きてくれないとジリ貧なんだが」
祐一はそう呟きながら攻撃を流す。
「腕がしびれてきた・・・うお!?」
ドラゴンのかぎ爪が祐一の頭上を通り過ぎる。祐一の髪の毛が良い感じにカットされた。
「後で髪を直さないとな・・・・」
祐一は再び、流して躱す作業に入った。
「兄貴!兄貴!」
薬を口に無理矢理流し込んでなおかつ上半身を一秒間で15回揺さぶっている彩音が祐二を起こそうと呼びかける。
「ふぅ・・・・っ!」
祐二が少し呼吸をし始めた。
「・・・兄貴?」
「・・・・・??」
祐二は無言で立ち上がる。そしてあたりを見渡す。
「今日は、なかなか非常に良い天気だこと」
祐二はそう言いながらのびをする。
「兄貴!今はそんな暇じゃないって!」
彩音がそう言うと祐二は少しため息をついてからブラックドラゴンの方角を指す。
「あれだろ?」
彩音はコクコクとうなずく。
あたりは住宅が倒壊し、ギャラリーも集まらず皆一目散に逃げていった。ただ、やっぱりそこにもテレビクルーは来るらしい。
「さあて・・・・」
祐二は左膝を付き、右手をドラゴンに向けて真っ直ぐ伸ばす。そして、左手を顔の前に持って行き、人差し指と中指を立てて目を閉じる。
「インパクト!」
祐二がカッと目を見開くと同時にそう叫ぶ。すると祐二の左手から目で見てとれるほどの空気の歪みを発生させる空気塊が射出された。同時に祐二の体が少しアスファルトに沈み、後ろの瓦礫がぶっ飛び、あたりをふるわせる爆音が起きる。
空気塊は異常な速度でドラゴンに迫り、気がついたときにはドラゴンがバランスを崩して落ちかけている所だった。
「ギャアアアア!」
ドラゴンは何とか体勢を立て直そうとするも上から祐一が迫っていた。
「天空落とし!ジェノサイドver!」
そんなことを言いながら剣を頭に突きさし、地面まで急速に降りていく。音速を超えたときに起こるソニックブームが発生し、近所のガラスが割れていく。周囲の空気はかき回され、突風が吹き荒れる。
「うおおおおお!」
強力な風圧を受けながら祐一は一気にドラゴンを地面に向かって落としていく。
「グギギ!」
ドラゴンは何とか羽ばたこうとするも強すぎる風圧のせいで羽が思うように動かない。
「あばよ」
祐一はそう言ってドラゴンを一気に地面にたたきつけた。周囲に地震のような震動が起こり、広範囲の地面が盛り上がる。同時に大きなクレーターができ、同時に爆音が周囲に届いた。
「あれが兄貴の兄貴か・・・・」
彩音は少しばかりぼうっとしながらその戦いを見ていた。とても現実的なことだとは思えないのだ、まるで映画であるような戦い。それが目の前で行われていたらそう感じるだろう。
「いやぁ腹減った」
祐二はそう言って壊れた自宅の方までひとっ飛びする。すでに祐一の姿はなく、死んだドラゴンは粉状になって消滅した。
「・・・・・夢か」
彩音はそう考えることにして、祐二が向かった方向に歩いていった。