祐一 in the 異世界 (祐二を救え) 5
一行の馬車は急ぎ足で進んでいた。
「ねえ」
ルイが祐一の肩を叩く。ぐっすり眠っていた祐一は少し大儀そうだ。
「何用だ?」
「レイティのことなんだけど・・・」
ルイが祐一に耳打ちする。
「なんで俺に聞く?」
「だって、仲よさそうだったし」
「知り合って三十分だ」
「・・・・じゃあ答えられる質問に答えて」
「分かった」
「レイティは私たちの中で誰が好きそうなの?」
「誰も好きじゃない」
「即答・・・と言うことは事実らしいわね」
「それ以前にお前らの好意に気がついていない」
「鈍感にもほどがあるわね。ありがとう」
そういってルイはまた自分の席に戻った。この馬車、意外に広いらしい。
「あなた」
アルトが祐一の肩を叩く。ぐっすり眠っていた祐一は少し大儀そうだ。
「なんだよ」
「聞きたいことがあるのですけれど」
「レイティは誰のことも好きじゃないぞ」
「・・・分かりましたわ」
アルトは大人しく自分の席に戻っていった。
「あの・・・」
ミクリが祐一の肩を叩く。
「レイティは恋をしてない・・・」
眠ったまま祐一は答えた。
「レイティ」
今度は祐一がレイティに話しかける。隣の席だから一瞬で話しかけることができる。
「なんだい?」
「後何秒で着くんだ?」
「それは後何時間で着くと聞くのが適切なんじゃないかな?」
「で?」
「後三時間ぐらいだね」
「待つのもめんどくさい。俺は走っていくぞ」
「それだと向こう側と友好的な取引ができないんじゃないのかな?」
「脅す」
「それはまずいでしょ・・」
「確かに人道的には問題だが合理的な方法だ」
「分かったよ早くするように言えば良いんでしょ?」
「半分の時間で着かせろ」
そう言って祐一は寝た。
「騙しやがって・・・予定通りに着かせやがって。もう人は信じないぞ」
眠そうな祐一は王都の中央通りを歩いていた。人々は行き交い、華やかな雰囲気が街を覆っている。後ろにはレイティとその愉快な女達がくっついている。その様子は周囲の人々にも奇怪であった。女性皆が美人であるからだ。勿論言い寄る輩もいた。
「どうでしょう私と一杯飲みませんか?」
紳士的な格好をした男がルイに話しかける。ここでは紳士的じゃないのでナンパ厨、とでも呼ばせてもらおう。
「え・・あの・・」
レイティがナンパ厨からルイを救うために取ったさりげない行動。
「ちょっと離れてもらおうか?」
レイティはナンパ厨の肩を強引に引っ張って引きはがす。
「何をするんだ君は!失礼な奴め!!」
「あなたの方が失礼でしょう?」
そう言うとナンパ厨は笛を吹く。
「集まれ我が部下達よ!」
瞬く間にナンパ厨の部下達が集まってきた。
「人数で僕を押せるとでも?」
「なんだと!きさま私をこけにする気か!やっちまえ!」
ナンパ厨のかけ声と共にやろうどもが祐一達に襲いかかる。周囲の人物達もその様子を見守っていた。
「遠慮するな、レイティ」
祐一が自然体の状態でレイティに言う。
「分かっている」
レイティの目が変わった。
「インパクトウィンド」
突然レイティの周りに風が渦巻き始める。女子は少し混乱している。
「訂正、やり過ぎるなよ?」
「分かっている」
レイティの風は自由自在に当てない人と当てる人を選別し、必要行動を取った。
「飛べ」
やろうどもは瞬く間に吹き飛ばされ、ある者は屋根に、ある者はゴミ置き場に吹き飛んだ。
「なかなかの制御だ」
祐一はそうとだけ言ってその場を後にする。レイティ達もくっついていった。女子達の影が薄い。
「コーヒーは無糖でな」
祐一は王宮の応接間の椅子にどっしりと腰を座らせながらそう言った。レイティ&女子達とは別々の部屋になっている。
「あなたが娘を救ってくれたそうで」
王、レオナルドは祐一にコーヒーを淹れながらそう言った。
「救ったんじゃないよ。たまたま居合わせただけだよ」
「娘があなたのことを話していましてね。まるで勇者と言っておりました」
「そうですか。いやはや。まあそれは後で話しましょう。ちょっと今私はある重大な任務を抱えてましてね」
「なんですかね」
「他言しないでくれ?その任務のためには神月草が不可欠なんだよ」
「なんと・・・神月草を・・・あれは禁術の類に使われる草ですぞ?」
「少し変わった使い方をする。薬は使うべきときにしか効能は得られない」
「つまり?」
「呪縛された魂を正常に戻す」
「それは・・・確かにそうですね。しかし神月草は強すぎるのでは」
「弱める素材もある。と言うことでだ・・・在処を教えてほしい」
「教えたら・・・ここを離れると?」
レオナルドは少し後退する。
「娘さんにはよろしく。あったこともないけど頑張れよ、とだけ伝えておいてくれ」
「一回は会っていって下され」
「何故?会って別れる方が哀しみは大きいぞ。・・・・・父か」
「ふ、親とは弱い者です。子供の願いなら何でもかなえたくなる。今ここに娘を連れてきました」
そう言うと扉を開けて少し幼めな、しかし美しい女性が入ってきた。ロリではない。
「あの・・・助けてくれてありがとうございます!」
開口一番にお辞儀をしました。
「連れてきちゃ駄目でしょ」
祐一がそれを指さしながら言う。
「来ちゃった者はしょうがないですぞ」
王様が渋い顔で言う。
「わたし・・迷惑ですか?」
涙目になって王女様が呟く。祐一はそれを見て、
「迷惑じゃない。ただ都合が悪いだけだ」
と言った。
「やっぱり迷惑なだけじゃないですか!」
「あまり俺に過度な想像はしない方が良い」
「はぁ・・・もっといい人だと思ったのに・・・」
「親近感わいたか?」
「わきましたよ!憧れは消えましたけど!」
「それは良かった。ではレオナルド。目的は果たしたんだから場所を教えてくれ」
二人のやりとりを生暖かい目で見つめていたレオナルドは突然話しかけられてすこしびっくらこいた。
「もう終わりで良いのですか?」
「話を変な方向に持って行きたそうな顔をしているが、悪いが俺にはそんな感情を抱けるほど余裕はない。さっさと居場所をいえ」
一瞬出された祐一のオーラにレオナルドはたじろいたが、汗を流しつつ答えた。
「ロウザンの森の奥深く。そっちの方に生息しております」
「そこをしらみつぶしに探せばいいって事ね?」
「そう言うことでございます」
「ねえお父様」
王女がレオナルドに話しかける。
「あの危ないロウザンの森にあの人何しに行くつもり?」
「それは娘であるお前にだって言えない。非常に危険だからね」
「まさか・・・神月草?」
「知識とは時に邪魔をするか・・・そう、神月草だよ・・あっ言っちゃった」
まだ取り返せる所をまたこの男は。
「駄目です!あなたは悪に手を染める気ですか!?」
「おい、こいつに言ったろ」
「運が悪かっただけです」
「お嬢ちゃん」
「お嬢ちゃんじゃありません!」
王女はその小さい体で胸を張って誇張する。
「いいよもう。俺はそんなに悪い事に神月草を使うわけじゃないんだ。分かる?」
「駄目です!あの草は危ないんです!」
祐一はやれやれといった感じで五円玉を取り出し、穴に糸を引っかけ、振り子のように振り出した。
「あなたは眠くなーる......」
「ふぇ?・・・zzz」
一瞬で眠った。
「何をしたのですか?」
レオナルドが王女をソファーに寝かせながら聞く。
「技、だ」
そう言って祐一は部屋を後にした。