祐一 in the 異世界 (祐二を救え) 2
いきなり新キャラが出てきます。
バトルシーンは苦手です。
僕はレイティ、少し魔法が得意なだけの平凡な学生だ。僕の朝はまず魔法書をいち早く学校の図書館によって読みふけることから始まる。ちなみに寮生活だから朝ご飯は学校で食べることになっている。
今日は「魔法学と物理学の矛盾」という本を読んでみた。確かに適確な指摘だが、適確すぎて世界観を壊しかねないので説明は省く。
「またここにいたんだ」
そう言いながら金髪ロングの女の子が歩み寄ってくる。女の子の名前はアルト。非常に美しい顔立ちをしており、学校では他の三人と一緒に美モテ四天王と呼ばれている。
勿論成績もとんでもない物で、トップ1は常にこの子だ。そして、あろう事か後ろから抱きついてきた。
「うわ!いきなり抱きつくな!」
一生懸命ふりほどこうとするがうまくいかない。
「そんな・・・いろんなところが擦れちゃいます」
やめろこいつ!誰か止めて!
あ、そういえば毎日のことだからこの後ミクリが来て助けてくれるはず。
「あ!またあなたレイティとくっついて!」
ついに来たかミクリ。毎回のことで、碧髪のショートカットのミクリが僕とアルトをはがしにかかってくる。ありがたい。
「あなたのような成績不審者に言われる筋合いはないわ」
「私だって毎回三位から二位をキープしてるわよ!そんなこと言われたくないわ!」
「あーら負け犬の遠吠えね、まったく・・・あなたのような女がレイティの妻になれるわけがないじゃない」
何で僕抜きでそこまで決めるんだ。僕の意思が介入する余地はないのか。
「・・・あの・・早く朝ご飯を食べたいんだけど」
僕がそう言うとアルトがバッグの中から包みを取りだした。・・・まさか。
「あの・・私お弁当作ってきたの。どうせ朝ご飯食べてないんでしょ?だから、コレ食べて元気出しなさい」
そう言って箱を開けたアルト。ミクリがあんぐり口を開けている。中を見ると・・・豪勢かつ美しい配置をしている。新たな才能を発掘したようだ。
「ほら、この卵。一生懸命練習したの。あなたに食べてもらいたくて・・・」
「やだなあ、まるで恋人みたいじゃないか。ハハハあり得ないけど」
僕がそう言ったらアルトがいきなり不機嫌な面になった。
「やっぱりもう良い。期待した私がバカだった」
アルトはそのまま早足で行ってしまった。残された僕とミクリ。だがそのミクリの視線も妙にいたい。
「私、帰るわ」
ミクリまで帰ってしまった。僕は何故か沈んだ気持ちになってしまった。ところで僕のどこがいけないんだ?
「井戸水の水質は大丈夫なようだ」
遠心分離器によって祐一は井戸水の水質を検査した。いくら頑丈だからと言って、腹をこわさないわけではないのである。祐一は、祐二の精製したボツリヌス毒15gをいたずらで飲まされたことがあるのだが、その日は下痢に悩まされたという話である。本人曰く「すぐに抗体を生成していなければ即死だった」
「グピッ・・プハ~」
祐一は飲んだ水でしめった唇を布で拭く。
「やはり向こうの世界とは違う・・・水も・・空気も」
祐一は感じていた。自らの体に生気が戻るのを。
「この世界が一番良い。がしかし、今はそんな悠長なことは言ってられないか」
祐一はさっさと水筒に井戸水を汲む。神月草のことはすでに村のみんなに聞いていたのだが、誰も存在すら知らなかった始末であった。
「さて、ここから東に125kmで大きな街があるらしいな」
祐二に残された時間は、長い。
この地上最強なるモンスターが存在するという話を僕は聞いた。ブラックドラゴンだ。普通のドラゴンはこちらから危害を加えたりよほど不機嫌じゃない限り襲いかかってこない。だがブラックドラゴンは全く違う性質を持っている。時たま眠りから覚め、周辺を破壊し尽くして満足すれば再び寝る。そのフォルムは四つ足と大きな翼、そして長いしっぽによって構成され、地上移動の時はその四つ足で俊敏に、空中移動の時はその翼で軽やかに飛ぶ。鈍く輝く鱗は灼熱の中でも輝きを失わないという。
そう言う生物なのだ。恐ろしいね。
「まーた一人でこんなの読んで。今は昼休みなんだから・・・」
モンスターに関する文献を読んでいると横から声がかかった。校内一位を争う美形で、蒼髪ツインテールの女の子。名前はルイ、という。
「いいじゃないかい。僕は少なくとも昼休みらしくない行為はしていないと思うのだけれど」
「・・・あなたは何でかしらね~~」
ルイは少し情けなさそうに呟く。僕の答えに応答したんじゃなくもう少し別の意味で答えている気がする。
「何が?」
「鈍感すぎるのよ」
・・・そう思っている。
「僕もそう思う」
「じゃあ直しなさいよ。だからこんなに尽くして・・・」
「なんていった?」
「うるさいわね!何でもないわよ!」
一体何だったのだろうか。そう言いながらルイはどこかへ行ってしまった。
あともっと大変な事態がある。ブラックドラゴンの周期的に今日が目覚める日なのだ。3000年に一度のこの日が。
「おや?何か馬車が襲われているぞ・・あれは・・・ドラゴンか」
祐一はとりあえず行ってみることにした。
「ギャアアアアアアアス!!」
「なんで?」
祐一は一度唖然とした。普通のドラゴンだと思ったらブラックドラゴンだったからである。
「くっそ!」
祐一は見ているわけにも行かないので、助けに行くことにした。何十列もいるので、どうやら相当な貴族のようだ。
「王女様の馬車はお逃げください!!」
どうやらその馬車列は王女の列のようだ。祐一的には神月草の情報が欲しいので助けに行くのだが。
「ああ!王女様の馬車が!!」
ドラゴンのかぎ爪でどうやら王女様の馬車がやられたらしい。全く役にたたん衛兵である、と祐一は思った。
「何かお困りですかー!」
祐一が馬車列に近づいていく。すると、ドラゴンがついに王女の馬車を破壊しようとしていたので素早く炎魔法を出す。
「燃えろ!」
直系50cm位の火球が音速でドラゴンに迫り、まさに王女馬車に攻撃しようとしていた足に直撃した。
「おお!救援ですか!」
衛兵の一人が駆けつけてきてくれた。
「旅の者だが・・神月草のことは知っているか?」
「ええ!?そっちの話題ですか?事が済んだらいくらでも話しますので今回はあのドラゴンを撃退するのに協力して下さい。急がねば王女様が」
「無理だ。お前らでは足手まといになるだけだ」
「何故ですか?」
「俺の火球で死ななかったと言うことは、常人では倒せないと言うことだ」
「・・我々とて逃げるわけにはいきません!」
「王女を守るのがお前らの役割だろ?行ってこい。足手まといになりたくなければな!」
祐一がそう言うと衛兵は直ぐさま戻り、馬車引き上げの準備に入った。
「おいドラゴン!相手は俺だ!」
祐一は馬車に被害がない所までドラゴンを誘導する。しかし、ドラゴンはその程度では止まらなかった。
「まずい!王女の馬車が!」
祐一は今度、魔法で牽制しながら王女の馬車に近づいていった。そして、その付近にいる衛兵の所へ行く。
「あなたは一体何者です?」
「そんな話はどうでも良い。お前らはさっさと引き上げろ。全速力で」
祐一がそう言うと衛兵は少し苦い顔をしたが少し速度を上げて逃げていった。
馬車の数は最初に見かけたときの1/3程度であった。
「さあて、お前がかの有名なブラックドラゴンか」
祐一がブラックドラゴンと向き合う。ブラックドラゴンの興味は完全に祐一に向いており、足下を通る馬車は完全無視していた。ちなみに全長23mはあるだろう大きさだった。
「ギャアアアアアアアアアア!!!!!!」
咆吼と共に強大な爆風が祐一を襲う。
「黙れ」
祐一はそう言うと風で乱れた服を整え、臨戦態勢に入った。
「地獄の炎を超えた熱を味わえ!」
祐一がそう言いながらブラックドラゴンに対して白炎魔法を放つ。白い炎というのは、もっとも熱い温度の炎なのである。
祐一の炎が放射状に、密度を保ったまま放たれる。そして、一気にドラゴンの鱗の表面の一部を重点的に焼き尽くす。周囲20mの地面の草は溶け、陽炎で大気がゆがんでいる。生半可な物は消えて無くなる温度であった。しかし、
「ハン」
ドラゴンには全く効いていなかった。逆にドラゴンが間を置かずに黒炎を放ってくる。ドラゴンの炎は普通の炎とは違う。当たれば、表面ではない。中をやられる。普通の炎とは違い、放射線を発するのだ。
「チイ!」
祐一は高く飛び上がり、風魔法で体制を整える。ドラゴンの炎で焼かれた地面、その周囲三十メートルは黒こげとなっていた。しかも放射線を発しているため、足場にもできない。
祐一は大気中の見えない壁を蹴る。何もないが、剣を持つような形で右手を振りかざす。そして、ドラゴンに一直線で突っ込んでいった。
「グオゥ」
ドラゴンは再び祐一に向かって黒炎を吐く。それに対応するように祐二は左手から白煙魔法を出して相殺する。だがしかし、祐一の魔法では止めきれず、祐一の体を黒炎が襲うはずだった。しかし、その炎は祐一の右手に瞬時にあらわれた長剣によって吹き飛ばされていた。
そして、祐一はそのまま剣を突き立て、ドラゴンに肉薄する。だがドラゴンは体をしなやかに動かし、羽で祐一をはたき落とす。祐一は地面で受け身を取り、大きく蹴って直ぐさま反撃に移る。
「風よ、切り刻め」
祐一がそう言うと剣が薄緑に輝き、その延長線上少しに大気の歪みができる。見るからには、射程が伸びたと考えても良いだろう。そして、その剣には周囲の風が集まっていく。
「死ね」
祐一はその風を纏った剣を振り下ろす。同時に無数の刃音が起き、爆風がブラックドラゴンを襲う。その威力はまるで村一つ、いや、町一つを吹き飛ばすような勢いだった。地面は剥がれ、地平線の先まで放射状にクレーターができる。
「グギギ・・!」
ドラゴンも少しダメージを受けているようで、鱗の反射にわずかに傷が付いている。だが、どんな爆風でもブラックドラゴンは地面から離れないようだ。
「並の人間なら消えて無くなる威力だが・・・コレは凄い。父を殺した存在というのはここまで凄い物だったのか」
祐一はそう薄い笑顔で呟く。
「ギャァァァァァァオ!!!!!!」
ドラゴンは今度は大きな風魔法を発生させてきた。さっきの祐一の魔法を超える勢いで。
「ぬわにぃ!?」
祐一は直ぐさま防御魔法を発生させる。前方に大きな魔方陣を発生させ、さらにその魔方陣の手前に魔方陣を発生させる。
「全ての災厄を退けろ・・・・!」
祐一の魔方陣にすぐに爆風が襲いかかる。ドラゴンと祐一の間の全てが文字通り消えた、そして、魔方陣にたどり着くと魔方陣は大きく揺れる。
「ギャァァァス!!!!」
さらに、ドラゴンは黒炎を吐いてきた。しかも今までのよりも遥かに濃いものである。
「なに!?」
祐一はまずいと思いさらにもう一段水属性の魔方陣をしく。そして、その魔方陣を維持しながら少しづつ後退していく。
地面は魔方陣に守られている範囲以外は全て削り取られていた。
「塩素水よ!我が頭上にあらわれよ!」
祐一はそのまま魔方陣を維持したまま・・・直系300mぐらいの水球を生成する。
「濁流よ!彼の者を飲み込め!」
水球が一気に形を崩して祐二の後方に落ちる。そして、ある程度まとまったと思うと一気に波となってドラゴンと祐一に向かって加速する。そして、祐一の部分だけは避け、高さ60mの大きな波がドラゴンを襲う。黒炎に蒸発させられ、爆風に吹き飛ばされながらも水は瞬時にドラゴンを包む。しかし、やはり風魔法が強いらしく、水はうまくドラゴンを避けるように突き進んでしまっていた。
「失敗か・・・」
祐一は少し落胆するが予定通りだった。ドラゴンはある程度水をどけているとはいえ、飲んだり、かぶったりはしているはずであるからだ。
あたりには水が散乱し、水気の多い湿地のような状態になっている。また、塩素による濃い刺激臭があたりを包んでいる。
「ギャァァァァォ!!!」
そして咆吼を上げながらドラゴンが魔法をやめ、その四つ足で突っ込む。祐一の魔方陣、魔法には強いが物理には弱い。さらにドラゴンは、その体に風魔法を纏っていた。当たったときの威力を何倍にもしてぶつけようという考えである。
「甘いな!」
祐一は青白い魔方陣を召喚する。防御用の者ではなく攻撃用のものだった。そしてその魔方陣を地面付近に水平に設置、祐二はいったん距離を取った。
とてつもないスピードで迫っていたドラゴンは祐二が後退した直後に魔方陣を踏む。するとあたり全体に電気が走り、地面全てが青白い光に包まれる。
「ギャァァァァァァァァ!」
ドラゴンが悲鳴を上げる。無理もない、内臓を焼かれているのだから傷みがない方がおかしい。
「さて」
祐一は右手の剣を振りかざす。そして、
「力と光。そして風よ。大地をも切り裂く力を与えよ」
祐一の剣が一気に青白く光り出す。同時に爆風が剣から発せられる。祐二の周辺の草はただでさえさっきまでの戦いでギリギリなのにさらにダメージを加えられている。
「グ?」
ドラゴンが祐一に気付く。祐一はその瞬間、剣を一気に振り下ろした。
雷鳴、爆音、全ての大音量が混ざった音と共に青い衝撃波がドラゴンまで射出される。その衝撃波が通った地面は割れていた。
「グググ!!」
ドラゴンはとっさに避ける。だが右翼の先がわずかに切り落とされた。そして、後ろの切り立った丘が綺麗にスパンと切れる様子が見て取れた。
「やれやれ、一筋縄ではいかないか」
「ギッギャアアアアアアア!」
ドラゴンが空高く飛び上がる。祐一もそれに続いて飛び上がった。
「空中戦は専門外だ」
ドラゴンがいきなり向きを変え祐一に急襲する。
「何!?」
ドラゴンのかぎ爪が祐一の脇腹をかすった。それだけで祐一の脇腹の肉がかなりそがれ、血があふれ出す。
「いてて」
当の祐一はさほど痛くなさそうにさすってるだけだった。
「水よ、我が体を癒せ」
祐一がそう言うとさする手が青白く輝き、みるみるうちに傷が治っていった。落ちながらの作業にしてはかなり冷静な方である。
「さあてと・・・・」
祐一は風魔法で空中に静止する。ドラゴンも同じ高さに静止した。
「ドラゴン。こっちにもいろいろあってな。そろそろ戦うのが難しくなってきそうだ」
「ギャ?」
ブラックドラゴンは災厄の象徴であるが、知能も他のドラゴンと同じく人以上あるのである。
「命を落とすのだけは勘弁だ」
祐一はその瞬間、光魔法を発動する。あたりは閃光に覆われ、ブラックドラゴンはとっさのことに対応できず視界を奪われる。
「ぬん!」
祐一は上空に風魔法を一気に放ち、方向転換をする。そして、頭から地面に突っ込んだ。
「慣れないぜこの感覚!」
そのまま祐一はドラゴンを差し置いて、地面を進みながら次の町まで向かうのであった。
ミスがあればお願いします