相談部の肝試し 1
猫の活躍の時です
夏休みでも何でもない休日に何故か田中康宏の誘いで相談部員は街で有名な幽霊屋敷の前に来させられていた。壁にはツタが絡まり、所々変なシミがある。壁の下の方には立ちションの染みもある。皆さんやめましょう。
それで、呼ばれて来たと言っても祐二と春樹と綾瀬だけだった。麗花は剣道の練習で、愛山はシカトだった。金子に至っては康宏の携帯にスパムメールを返してきたらしい。
「さぁて・・・あんま揃ってねえじゃねえか!!」
開口一番康宏はそう言う。一番迷惑かけている男なのに。
「お前が何で文句言うんだよ。こちとて新技の開発に忙しいんだよ。俺の時間を奪ったのだからそれ相応の代償がないと玉切り取るぞ」
富村がものすごいオーラを出して言う。ちなみに肩には先話で手に入れた猫が居た。名前はジャミング。
「べ、別に祐二が来るから来た訳じゃないんだから!!」
綾瀬はふんぞり返りながら言う。
「眠いよ・・・」
春樹は大あくびをしている。
「い、いやあ済まん!とりあえず、ここに来たのは相談されたからなんだ」
康宏がそう言うと祐二が目を光らせる。
「どういうことだ?」
「まあ聞け、最近この館に遊びで潜入した女子高生が居てな。で、こんな狭いのに中は何故か迷路のようになっていて、所々で変な歪み見たいのがあって、しかも人影を見たと言うんだ。血の跡もたくさんあったという」
「や、やめなさい康宏!」
綾瀬が体を押さえながら怒鳴る。
「やだ。それで、やっと出口に出たと思ったら、一人いない。でも、その女子高生達はまた入るのが怖くて、その女の子をおいて行ってしまったらしい」
「ひぇぇぇぇぇ!!」
「みゆきうるせえ!」
祐二が怒鳴ると綾瀬は大人しく縮こまった。
「で、いつの話だ」
「昨日」
「どこでそんな新鮮なネタを手に入れたんだ」
祐二がそう聞くと康宏は途端に頭をかき始めて、
「いやあ、喫茶店でいつものように女子高生の話盗み聞きをしていたらたまたま聞いちゃってさあ。相談に乗ろうか?って話で承っちゃったってわけ」
「死ね」
祐二は瞬間移動で康宏の頭をわしづかみにした状態であらわれ、幽霊屋敷の壁になすりつける。
「いてててててて!悪かった!悪かったって!」
一通り康宏をあらゆる方法でいじめると祐二は満足げに落ち着く。綾瀬と春樹は祐二のそのイジリっぷりに戦慄していた。
「んなもん警察に任せりゃいいじゃない」
「だめだろ!こういうのは俺達みたいのがやるって言うのが相場なんだよ!」
「わーったわーった。で、その女子高生を助け出せ、と言うことか?」
「そう言うことだ。そういえばあれ以来、洋館には鍵がかかってるそうだ。合い鍵を使っても開かないらしい」
祐二が思い出したように顔を上げる。
「そういえば俺の猫、ジャミングって名前になってさあ。ああ、俺の肩にいるやつな。こいつ日本語話せるんだぜ?」
祐二がそう言うと一同を笑いが包む。瞬間、
「黙れお前ら!俺を笑って良いのは祐二の旦那だけだ!」
猫が怒鳴った。
「「「えええええええええ!?」」」
屋敷に入る前に絶叫が響き渡るのだった。
「で、どう入るかだったな。開けられないと言うことは、心霊的に閉められている可能性が高い」
「じゃあどうする?」
康宏が聞く。
「これを使う」
そう言って祐二が取り出したのはC4と書かれた爆薬。
「・・・?物理的じゃね?それ」
「あえてこれで行く。早速設置だわっしょい」
と言うことで、富村は洋館のドアの外側の隙間にC4をちょびちょび詰め込んでいき、最後に信管を刺す。
「離れましょうみなさん」
安全第一ヘルメットをカぶりながら祐二が警告する。全員塀の影に非難していた。
「発破!!」
祐二がそう言った途端、洋館のドアの目の前は爆風に包まれる。ドアは見事に砕けていた。祐二がすぐにドアの前に立つ。
「さて、入るか」
祐二は全員が来るのを待ってから中に突入した。
「暗いな。現在地が分からないぞ」
祐二はそう呟く。とは言ってもその言葉に不安というものはない。
「な、なんで祐二はそんなに楽そうにできるの?」
綾瀬ががたがた震えながら聞く。
「もしものことがあったら上から逃げりゃいいじゃん」
と言うことらしい。だから祐二は全く怖くないというのだ。
「お前なあ。呪われたらどうするんだよ」
康宏がとがめる。屋根壊したら普通は何かしらここの怨霊の裁きがくるに違いないからだ。
「自力で消す」
「どうやってだよ」
「気力と体力で十分だ」
「・・・おいおい」
「大丈夫だ。祐二の旦那は霊力も強い。そこら辺の霊なんか近寄ることすらできんよ」
ジャミングがしゃべる声がする。
「俺も初めて聞いたぞ」
祐二が怪訝な顔をして聞く。とは言っても周囲の人間には暗闇でよく見えないが。
「猫は霊感が強いのである。特に余はな」
「余ってお前ずいぶんお高くとまること」
康宏がそう言うとジャミングの毛が逆立つ。
「下郎が。余に口出しを・・・!」
「お前、ちょっと待て」
祐二が怒ったジャミングをなだめる。
・・・ギシッ。と言う音が祐二の耳だけには聞こえた。
「何であろうか」
「前に気配がする」
その言葉を聞いた瞬間、綾瀬が叫ぶ。
「け~~~は~~~い~~!?」
「ギョワンギョワンといちいちうるさいおなごだ。この時代のおなごは慎みというものを知らないのか?」
ジャミングがいやそうに呟く。その気配はすでに消えていたのだが。
「あいつは特に慎みを知らないんだよ」
祐二が続いて同意した。瞬間、空気が変わる。
「祐二ぃ・・・」
綾瀬の声がする。
「やば、綾瀬が怒った。あいつこの暗闇の中でも!?うわ!!」
綾瀬が祐二を殴ったかと思うと、祐二の姿が突然消えた。
「ええ!?祐二君どこ行った!?」
春樹が口をあんぐり開けて驚く。だが祐二の気配は全く感じられなくなってしまった。
そして、ジャミングと康宏と綾瀬と春樹が残った。突然祐二が居なくなった綾瀬はそこに立ちすくむ。
「え!?祐二!?どこ行っちゃったのよ!!出てきなさいよ!」
「大分奥の方にとばされたようだ。祐二を何者かの手によって」
ジャミングが渋い声で言う。綾瀬と康宏はほぼ絶望の淵にいた。いや、やっと常人の心霊探索になったという所か。春樹は春樹でいきなり考え出してしまった。
「さあ、ともかく我々の目的は女子高生の救出だ。さっさと行くぞ。危険は余が知らせよう」
ジャミングはそう言うと祐二に付けられた発光ダイオードの明かりの付いた首輪を光らせ、歩き出した。祐二の発明品である。春樹は少しうなずいてからそれに付いていった。
アイツラ、ワタシヲミステタ・・・
「・・・何か変な声聞こえてこなかった?」
綾瀬がびくっと震える。
「き、気のせいだろ」
アンナニナカガヨカッタノニ
だが聞こえてしまった。
「「ギャアアアアアアアアアアア!!」」
「「うるさい二人共」」
ジャミングと春樹が呆れたようにとがめる。
ゼンブコワシテヤル
「だそうだってさ」
春樹が祐二的な口調で言う。
「・・・私たち死ぬのかしら」
綾瀬が言う。
「まだ死にたくない。まだ、みちかを残しては死ねん」
康宏が頭を抱えながら呪文のように繰り返す。みちかとは康宏の彼女である。
コロスコロスコロス!!
マアマテ
ナンダオマエハ
綾瀬達は殺す、の言葉を聞いてびっくり縮み上がったが、途中に入った聞き覚えのある声を聞いて何故か頭が疑問で一杯になってしまった。
ゼンブコワシテヤル。アノオンナドモ!
ソノマエニマズオレノハナシヲキケ
ナゼワタシニハナシカケラレル!?
ヨークミエルゾ、ソノシタギモナ。イヤ、シタギハケヨ。メニドクダ
「・・・祐二?」
綾瀬も気付いたようだ。そう、霊の怨念の響く声に混じって祐二が何か言っているのだ。とりあえず綾瀬達はその声に近づくことにした。
「まず下着をはけ。とは言いつつもその体はボロボロか」
「うるさい!!好きでこうなった訳じゃないんだよ私は!そもそもお前!何で私には見えないのよ!」
「見えないようにしてるから。ところでお前、何故ここにいるんだ?」
「一昨日の話・・・・アイツラヲコロス」
一瞬で人らしい声から響く声に変わる。
「まあ待て。お前じゃここから出られないんだろう?」
「ソ、ソウだけど。・・・・私はアイツラに見捨てられた!」
どうやら現時点で話は半分くらいしか通じないようだ。
「経緯は分かっている」
「・・・そういえば今気付いたのだけど。私今自我を持っているわ」
ついに幽霊の声が人の声に入れ替わった。
「それがどうかしたのか?」
「いや、起きた感じかな・・・あなたの話してると何故か人間としての私に戻れるの。何故なのかしら」
「そうなっているからじゃないのか?自然は神秘で一杯だ。
ところでだが、お前がこうなった経緯を詳しく教えてほしい」
祐二の声はなぜか余裕に満ちていた。
「・・・話すわ」
そして一呼吸。
「私は小野 陽子というの。あるとき・・・一昨日、私と友達が一緒にコこの館を肝試し程度で立ち寄ったノよ。そしたら突然視界ガ消えて、私は何がどうなっているのか分からなかった。そのあと、気配がするから後ろを見たら・・・もう思い出したくなイ」
「襲われた、と」
「そう、私は多分ここに封じ込められてしまったのよ。この館から一歩も出られないわ。そうだ、あなたたち早く逃げた方が良いわよ。私を襲った存在がまだ居るはずだから」
「そいつはどういう姿をしているんだ?」
「・・・・実体があるような無いような・・何かの存在よ」
「タチ悪すぎだろ」
「だからこそ早く逃げた方が良い。あなたは大丈夫かも知れないけど他の人たちは私のようにとらわれてしまうかも知れない」
「そいつはどこにいるんだ?」
「分からないわ。この館は奥に行けば行くほど闇に沈むようになっているの。そして最後には後ろから襲われるわ」
「じゃあさあ。屋根開けても良いよね。いざというときのために」
「・・・・は?」
幽霊の陽子には分からなかった。突然この館の屋根を開ける?何を言って・・・・。
ドッガーン!!
上の方で何かが爆発する音がした。
「ヒャッハー!ご機嫌だぜ!」
陽子は祐二(本体)が爆発に巻き込まれる位置にいたのに無傷で太陽の光を浴びているのが視認できた。屋根が瓦礫となって落ちる。
「まぶしい。・・・太陽」
陽子は何百年ぶりとでもいった感じで日光に当たりに行く。しかし、
「え?あつ!」
二日ぶりの太陽は陽子を拒絶した。陽子は、そのボロボロの体を地面に横たわらせた。泣き出しそうだが、その涙はすでに涸れていた。
「どうやら太陽はお前を嫌っているようだな」
そこへ現れるはジャミング。陽子はしゃべる猫を見て驚く。
「何者・・・!?」
「まあ気にするな。お前のその体。すでにお前のものではないのだろう?」
「・・・・・・」
「沈黙は肯定と受け止めよう。お前を解放するために我々は来たのだ」
ジャミングに続き、綾瀬と康宏が姿を現す。太陽のおかげで館の生臭い空気は取り払われていた。
「祐二、壊しちゃったわね」
綾瀬が呆れたように呟く。昨期までのヘタレっぷりはどうなったのだろうか
壊した屋根付近から闇が抜けていき、今まで異常に広かった館の中は何故か突然外からの見た目通りの大きさになってしまった。
「何故お前はここにいるか。それは聞かなくても余には分かる。その存在の正体も余は知っておる」
ジャミングはさっきの言葉に続いてそう告げる。
「どういうこと!?」
陽子は驚き、問う。
「あの時逃がさなければ良かったか・・少なくとも小野陽子、お前の体はむしばまれ、いつかゾンビそのものになる。お前のようなまだ大丈夫なケースは珍しいが、どうだ。今なら魂の移植をしてやっても良いぞ」
「・・・魂の・・・移植?」
「体と魂は直結している。体がゾンビ化すれば魂もそれに続いてゾンビとなる。そうなればお前の自我は本格的に消滅し、二度と生きては帰れなくなる。だが魂を移植すれば・・・助かる見込みは優にある」
「お願い!!やってちょうだい!」
「日差しの近くでないとできない。旦那が天井を開けたことに感謝するがいい」
そう言ってジャミングは横たわった陽子の体の上に乗り、何かを呟く。すると、陽子の体が光り、中から何かがあらわれた。
「・・・これが私の魂」
「そうだ、幽体離脱したアレみたいな奴だ。とはいっても、お主は人間には見えないがな」
「このまま生きられるの?」
「厳密には死んでいるが・・・その状態なら死ぬことはない。不老不死だが、何も感じることができなくなるぞ」
「このままで良いわ。なんか復讐なんてどうでもよくなっちゃった」
何と陽子はそのまま祐二の方に飛んでいく。そして、見えてないのを理由に、祐二に近づこうとするが、
「甘いな」
祐二に首根っこを捕まれてしまった。
「なんと、旦那は霊体に触れることまでできるのか」
ジャミングはその猫目を見開いて言った。