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祐二、猫を飼う

春樹過去編が長くなりすぎたのでここら辺で一段落とします。


後にせいぜい続編を書くので再び現在編に入ろうと思います。ポキン

相談部に猫が来た。


「飼う」


富村はさも当たり前のように開口一番にそう言った。

 肩には猫を乗っけている。これだけで何を意味するか分かるだろう。


「祐二。学校で飼うのはまずいんじゃないか?」


北条麗花がそれをとがめ、猫を抱きたそうに手をそわそわさせている。現在彼らが居るのは相談部室休憩所。春樹、麗花、富村、綾瀬の四人が居る。

麗花が手を近づけても猫は飛び乗らず、逆に祐二の頭上に逃げてしまった。麗花はしょんぼりする。

この猫は祐二が昼休み学校の裏山を探索していたら見つけた猫で、首輪が付いてなかったから連れてきた猫だった。


「そうよ、あの生徒会長がそれを許すとは思えないわ。だってあれよ」


綾瀬みゆきが頷きながら神妙な面持ちで言う。


「校則には書いてない」


祐二は少しいらついているように言う。


「でもね祐二君。絶対駄目だと思うよ」


春樹も今回ばかりは反対側に回っているようだ。


「隠し通す」


祐二は頑として聞かない。


「祐二、ばれた場合を考えろ」


麗花がそう言うと祐二は顎に手を当てて考え出した。

 そして3分後、顔を上げる。その顔は何か決断したような顔だった。三人は諦めたのだろうとほっとしたのだが、


「許可もらいに行こう」


そう言って祐二は立ち上がった。やっぱり祐二は期待を裏切るのが得意だった。



「ゆ、祐二やめようよ!相談部が潰されちゃうよ!」


みゆきが祐二の足下にしがみつきながら怒鳴る。祐二は全く気にした様子でもなくヅカヅカと歩いて行く。すれ違った生徒は全て振り向いていくようなインパクト満載の光景である。

 ちなみに麗花と春樹もしがみついており、春樹は胴体にしがみついている。


「甘いな!俺は絶対に負けん!」


祐二は速度を上げる。


「わ・・私はここまでのようね」


みゆきが突然遠い目で呟き出す。


「大丈夫か綾瀬!死ぬなぁ!」


麗花がそう言うとみゆきはほほえむ。


「心配してくれる人が居るだけ、良い人生だったわ」


瞬間、みゆきの体から力が抜け、祐二の体から離れていった。綾瀬みゆき、停年十七歳である。


「み!みゆき~~~!」


春樹がみゆきを見ながら叫ぶ。彼女もまた強敵(とも)だった。


「みゆきが墜ちてしまった・・・麗花!?」


「春樹・・・私が死んだら母と父に言ってくれ。私は駄目な娘だった。申し訳なかったと」


そして、麗花の体から力が抜け、祐二の体から離れていった。北条麗花、停年十七歳である。

 だが祐二は止まらない、春樹は決死の覚悟で止めようとするも、もう生徒会室まで来てしまっていた。


「祐二・・あそこまで犠牲を出しても止まらないのかい?」


春樹が祐二に問う。祐二は真剣な顔で答える。


「俺は、ここで止まるわけにはいかないんだ!」


春樹は頭に疑問符を浮かべるがそれはさておき、祐二は生徒会室のドアをノックする。この生徒会室は全校生徒から聖域と呼ばれている。(常人では十メートル以内に近づくと内臓破裂を引き起こす可能性がある)


「ごめんくさい!」


祐二は返事を待たずにいきなりドアを開ける。元々外側に開くドアを内側に開けるものだから今から返事をして開けようとしていた生徒の顔面にドアが直撃してしまった。


「いやあすいませんwww」


祐二はそう言いながら生徒会室に堂々と入っていく。

 突然の来訪だが他の生徒会員は驚くがすぐに迎撃の態勢に入る。春樹は緊張しすぎて冷や汗だらだら。


「何ものだ!貴様」


木刀を構えた美男子の会員が祐二に問う。


「いかにも、富村祐二である」


すると部員に微妙にどよめきが上がる。


「あの富村か・・・」


「生徒会長を落としたって言う?」


「・・・・まじかよ」


いったんどよめきは落ち着き、一人の男が祐二に聞く。


「お前は両花院生徒会長と親しいあの富村か?」


「生徒会長と親しい?なんで?」


祐二は全く事情が分からないようである。


「・・・生徒会長の相談に乗ったという話を聞いたが・・・」


祐二は数分間考えて、あっと声を上げる。


「ああ、そうだ、確か乗った気がする」


そうすると部員の姿勢が軟化した。


「いやあ、あなたのおかげで生徒会長もやっと全員野球というものを理解したようで。今まで一人でこなしてた仕事をしっかり分配してくれるようになったのですよ」


「おお、やっぱりね。まああんな奴だけどこれからもよろしく」


春樹はやっと心が安まった。まるで取引先に謝りに行くような心境だったのが、我慢した後トイレに行くような感覚になった。要は幸せと言うことである。


「あ、ああ。任せてくれ。ところでだが、なんの要件できたんだ?生徒会員が怪我したんだが」


「それについては真摯に謝ろう。で、要件だが、猫飼って良い?」


生徒会室が凍った。突然動物飼って良いって聞くとは誰も予想しないだろう。春樹以外。予想通り、会員は男女かまわず硬直している。

 一人が動き出した。


「猫を飼っても良いか?そりゃ勿論無理に決まってるわよ」


「なんで?」


「なんでってねぇ、常識よ。猫アレルギーの人とか居るしそもそも学校の部活で独自に動物を飼うのは普通駄目じゃない」


「普通駄目なんだろ?普通じゃなければ良いんだろ?」


「あのね?無理」


「そこを何とかしてくれ」


「無理よ」


「じゃあいい、会長に掛け合ってくるわ」


そう言って祐二が勝手に突き進もうとするが会員がそれを阻む。


「いや、ちょっとね。今あなたが会長と会うと・・」


「なんだ?」


「絶対ね・・・」


なんかねちねちしながら祐二を包囲する会員。


「くどいぞこらあ!」


祐二は物理的に祐二を阻む会員をどかし、会長室のドアノブに手をかけるが、開かない。


「どういうことだ!開かねえじゃねえか!」


「さすがに鍵付いてるって祐二君」


春樹が突っ込む。


「ふっふっふ。会長室は絶対開かないよ。なにせタングステン合金でできた50㎝のドア・・・は?」


何故惚けた声を出したかというと、祐二がドアノブに手をかけ引っ張ると、ドアの横の壁にひびが入っていくからだ。段々とその亀裂は大きくなっていく。


「あ、ああああああ!」


「ああ、開いた」


がたがたとコンクリートが崩れる音がして、ドアが開いた。祐二はそれを不思議そうに見ながら春樹を伴って会長室に足を踏み入れる。


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