竹中春樹 過去編 13
「と言うことで俺はちょっと館長に会ってくる」
「妹には言っとくよ」
そう言うことで祐二は部屋から出て行ってしまった。何で会いに行くのかは分からないが、何故か会いに行くのだろう。
そこで春賀が現れた。不安な顔で聞いてきた。
「富村さん行った?」
とてもおびえている。と言うか分からないが心は悲しみに満ちている。おお、かわいそうに。
「行った。今は居ないよ」
春賀は少しほっとした顔になる。
「・・・私のことは・・・聞いてないよね?」
「・・・・聞いたよ」
春賀はそこで目を見開く。
「な、なんて言っていたの?」
春賀はおそるおそる聞いてくる。言うべきか、言うべきだ。
「・・・・きっと・・だけど」
「うん」
「無理・・・だってさ」
僕がそう言った途端、春賀は突然泣き出して僕に抱きついてきた。
「お兄ちゃん・・・ぐすん・・お兄ちゃん・・・・」
ここで一人の女の子の恋が終わったのだった。
「ぐすん・・・お兄ちゃん・・・ぐすん・・・お兄ちゃん・・」
「ぐすん・・・」
あれから三十分。そろそろ鬱陶しくなって参りました。
「春賀・・・」
「グスン・・・・」
もう我慢なりません。
「甘えるなぁ!!」
僕は春賀を大きく突き飛ばす。春賀は唖然とした表情で僕を見ている。
「お、お兄ちゃん?」
「兄にばっか甘えるな!いつまでもくよくよするんじゃない!」
「お・・兄ちゃん?」
春賀は依然として状況が分からないようだ。まあいつも甘やかしてるし、この位言わないといつまでたっても春賀は子供のままのような気がした。なにかが僕の中で変わろうとしている。
「春賀はたった一人の妹だ。だからこそな、幸せになってほしいんだ。分かるか?」
春賀に諭すように語りかける。春賀はすこしため息をついている。
「・・・」
「僕に甘えていればいつまで経ってもお前は子供のままだ。それじゃあ駄目なんだ。春賀はちゃんといい男の人と付き合って、甘えたければその人に甘えりゃいい。もちろん僕にだって一向に甘えてもらってもかまわない。でもそれじゃあいつまで経ってもお前は成長しない。おまえは、そろそろ変わらなくちゃいけないんだ」
春賀のめには涙が浮かんでいる。すこし言い過ぎたかな?
「う、うん」
「分かったならちゃんといえ」
「・・・わ、分かった。お兄ちゃんのいうとおり・・・私も・・・もう少し・・・甘えないで・・・・グスン」
・・・・・ふ。
「だからな、今日だけはいくらでも甘えて良いぞ」
最後にしっかりフォローを入れといてやる。春賀はその一言で笑顔に変わった。やっぱり春賀は笑顔が似合うよ。
「うい~っす」
あ、富村が帰ってきた。うん?顔が赤くてふらついている。少し酔ってるのか?
「いやぁ~あの人も酒が強いのなんの、まあ俺には勝てなかったみたいだけどなフハハハハハハ」
なんかずいぶん酔っ払っているぞ。まあこいつの場合普段から発想が酔っ払っているが。
「高校生なのにお酒飲んじゃ駄目でしょ!!どのくらい飲んだ?」
富村はすこしふらつきながらソファーに座る。
「おぅ・・・え~と、まあドラム缶一つぐらいじゃないか~?アハハハハハ」
「飲み過ぎというレベルを逸脱している」
未成年は絶対お酒は飲んじゃ駄目ですよ。
「きにするなぁ!」
富村はピッと親指を立てる。気にしないと死ぬレベルだけどね。
あとさっきから話題に出ていない春賀だが、富村に対する態度が少し変わった気がする。いつもは顔を真っ赤にして穴があったら入りたい、という感じだったが今は普通にミカンを食べている。女は強い。それをしみじみ実感した。
「じゃあそろそろ寝よう、春賀、ふとん敷こう」
「うんわかった」
春賀はミカンを急いで食べきり、皮をゴミ箱に捨ててから布団を敷く作業に入った。それを富村は生暖かいまなざしで見つめ、働いていなかったので一喝したら働いた。
真夜中、春賀が僕の布団に入ってきた。これは何かのフラグだろうか。
「お兄ちゃ~ん」
そういってフフッと笑いながら春賀は布団から顔を出してきた。可愛いから結構きついんだぜ、これ。
「何のつもりだい?」
僕がそう言うと春賀はすこし顔を赤らめる。
「だって・・お兄ちゃんは今日だけは甘えても良いって・・・」
そういうことね。仕方ない、妹を喜ばせるのが兄のつとめだ。
「でも十二時までだよ」
「ええ~~意地悪~」
「冗談冗談」
その夜は、暖かかった。でも富村の寝相の悪さで僕と春賀の居る布団に潜入したあげく、僕に抱きついて来やがった。そっちはメチャクチャ暑かった。