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竹中春樹 過去編 11

「温泉と行ったら温泉卓球だ。おまえの母さん達は部屋で楽しんでるようだが」


富村がそう言いながら疲弊して動けなくなった僕にさらなる追い打ちをかけようとする。ボールを高く上げ、一気にためたラケットをそれに対して振りかぶる。


「秘技!塵と消える球!」


「うわ!!」


ボールは消失した。いや、焼失した。何が起こったのかは分かるが、信じられなかった。


「これはどっちのポイントかな・・・?」


審判をやっている春賀が非常に困惑している。むりもない、普通あり得ないし。


「もちろん俺だろ」


そう言って当たり前のように胸を張る富村。どこにそんな確信があるんだ!


「なんでだよ!」


「いや、だってさあ、俺のサーブ打ち返せなかったじゃん」


確かにそうだけど今のは卓球として根本的に間違っている気がする。いや、確実に間違っている。


「打ち返せないのはフェアじゃないから無し!」


「ええ~~彩菜だと打ち返してくるぞ。あと彩音も」


「彩菜と彩音って誰だよ」


「俺の家族だ」


そうか、考えもしなかったが富村にも家族って言うのが居るんだよな。と言っても今の言動からして明らかにおかしいのは理解できるが。


「・・・まあとりあえず、一般人の僕には返せないから無し。次やったら負けね。それでいいかい、春賀」


「え?あ、うん」


そう言って再び卓球を再開。

 でも結局惨敗しましたすいません。





富村が春賀の分のオレンジジュースをついでやっている。こう見るとまるで兄弟に見えるな。春賀に言ったら怒られそうだし兄弟は僕だけど。


「ありがとうございます」


春賀は注がれたオレンジジュースを大事そうに飲む。


「Your welcome.」


富村はそう言って自分のアーモンドとビールを取り出した、ってコラコラ。


「子供はビール飲んじゃいけません!」


僕はそのビールを取り上げて怒鳴る。


「なんでよ~」


富村は子供みたいに口をとがらせてブーイング。


「駄目ったら駄目なんだよ!」


「なんでよ~」


「法律で決められてるの!」


「なんでよ~」


くう!しつこい奴め!


「まだ脳が成長しきってないから酒なんか飲むと成長の妨げになるの!」


「なんでよ~」


「アルコールがいろんな神経の働きを阻害するからだよ!」


「いや、アルコールはある程度吸収したら排出するように心がけている」


「なんだその体の構造!」


「富村さんすごいです!」


春賀がなぜか今ので富村をほめている。おい、今こいつはNOT人間宣言をしたんだぞ。


「そういうことだ」


富村はなぜか遠い目で一回ポンっと僕の肩に手を置く。何がそう言うことなんだよ。

 そしてそのまま富村は、トイレに行った。





「春賀。正直に問おう」


僕はみかんを食べている春賀に対し真剣な声で話しかける。


「なあに?お兄ちゃん」


春賀はこちらを向いてくる。勿論ミカンを食べながら。


「富村君の事をどう思っているか正直に言ってみて」


直球で聞けば自然と心に現れてくる思慕の心。春賀にはそれがあった。そして、富村に対して抱いていると言うこともよーく分かった。だが、僕は心を見るのではなく口から聞きたかった。


「え、ええーっと。あの!その!」


顔を真っ赤にしながら悶え出す春賀。とりあえず言ってしまえば楽になるぞ?


「待つよ?」


「ま、待たなくても良い!もうこの話題終わり!」


春賀はそのままうつむいてミカンを真剣に食べ出した。でも僕は語りかける。


「春賀がどう思っているか。分かるよ。でもあの人は難しいよ?」


僕は半ば忠告じみたことを言う。すこしきつい言い方だが、ここは心を鬼にして春賀の覚悟を聞くべきだと思う。

春賀は少し沈んだ顔で顔を上げる。ぼくはその一挙一動をしっかり見届ける。


「・・・でも、好きなの!あの人が!」


そこへぬっとやってきたのはあの人。


「どこかにいる人の恋話も良い。春賀」


富村が完全に硬直した春賀を自分の方に向かせる。


「あの人、とは誰だか知らない。だが恋の始まりがお前の門出と言うのならばこの富村、喜んで応援しよう」


あちゃーと僕は頭を抱える。まあ春賀のアプローチ不足もいけないんだろうけど。富村は絶対鈍感だ。あ、春賀が泣きそうだ。


「ひ・・う・・うぇぇん!」


結局春賀はそのまま泣き出してトイレに行ってしまった。取り残された富村は無表情でこたつに座り、言った。


「あいつ、俺が好きなんだろ?」


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