竹中春樹 過去編 10
「神は非情だな。女どころの騒ぎじゃなかったという」
富村が哀れむような顔で僕を見ながらそう呟く。すっごく心に刺さるんだコレが。
「もう言わないでくれ」
僕は浴衣姿でコーヒー牛乳を飲みながら抗議する。話は遡る。
「ヒャッハー!湯だぁ!」
富村はドアを開けて室内風呂に向かって突っ込む。
「うぉ!?」
そして石畳の床に足を滑らせて豪快にこける。アホだろ。だがその後そのまま浴槽の角に頭をぶつけてしまった!
「大丈夫!?」
コレはシャレにならないんじゃないか?と思ったらすくっと立ち上がった。
「はしゃぎ過ぎちゃった」
と言って自分の頭をコツンとする。
「あんたがやっても何も感じないよ」
その後浴槽の角を見ると綺麗に頭の形に砕けていた。富村ならダイヤモンドにも勝ちそうだ。
「でさあ春樹」
「なに?」
僕がシャンプーを手に取った所で富村が聞いてきた。
「おまえなんで隠してるんだ?」
・・・なんで指摘する人がいるんだろうね。男同士だってのは分かるよ?でもね?やっぱり隠したいものは隠すべきだと思うんだ。
「いや、だってさあ。ねえ?」
「ねえ?っていわれたら俺はさらにはぎ取りに拍車をかけることになるが良いか?」
「良くないよ!」
「じゃあれっきとした根拠を教えてちょうだい」
何でこんな目に遭わなくちゃいけないんだよ。神様何とかしてくれよ!
―――やだ―――
なんで返事か来るんだよ!しかも何故かやだだし!
「・・・・生えてないから」
「なあにぃ~~~?きこえんな~」
「毛が生えてないからだよ!!!!!!!」
ヤバイ。でっかい声で言いすぎた。
春賀は覗こうとしていた。しかし、突然中から兄の大声が聞こえてきた。
「え?お兄ちゃん毛生えてないの?え~~~~~~!?」
春賀はこれ以上ここにいる自信がなかったので、逆のぞきイベントはここで終了となった。
「生えてない?・・・・・ヒャハハハハハ!!」
「うるさい!!!」
案の定富村は大声で笑ってくれたよ。何でこういうときだけ期待を裏切らないのかなこの人は。
結局そのあと露天風呂に入り、良い景色を堪能しようとしたら暗くてよく見えない罠にかけられ、風呂から出た。実に不快だった。