竹中春樹 過去編 8
「どこにこんな凄い旅館に泊まる金があるのか聞きたいよ」
ホントに凄い旅館だ。山の中にあるが、知る人ぞ知る超高級旅館って感じだ。
「コネ」
僕の問いかけに対して富村はさも当たり前のように返してきた。コネ!?
「・・・凄いね」
僕はそれしか言えなかった。
「部屋は二つ確保してるんだが女子部屋と男子部屋で良いか?」
富村がフロントで全員に聞いてきた。たしかに男子と女子同じ部屋はまず
「子供部屋と大人部屋が良いと思います!」
妹が突然血迷った発言をしてきた。やめろよ、お前が富村に惹かれていくのを見る兄ちゃんはとってもつらいんだぞ。成長したって言う実感もあるが。
でも兄ちゃんは妹の言うことをかなえてあげるのが仕事なんだよ。だから、
「・・・そうだね。それでいいかい?」
僕は富村にそう聞いた。
富村は少し悩んだ末首を縦に振った。
部屋は、凄かった。二十畳間の和室が二部屋あって、窓から見る景色は大自然の滝を眺めることの出来る景色となっていた。
「・・・おお」
僕が感嘆の声を上げる。すると富村は突然もう一つの部屋のふすまを開け、ベランダの方へ歩いて行ってしまった。
「・・あ」
妹はそう小さくいってそちらの方に付いていった。何だろうと疑問に感じながら僕も付いていく。
ベランダには家族風呂のようなものがあった。家族風呂と言っても広さが明らかに普通の温泉施設の露天風呂のそれだ。しかも壮大な自然を見ながらゆっくりと浸かることが出来るようになっている。
「コレがこの旅館の醍醐味だ。この旅館は元々大浴場とか言う俗なものはないんだよ。こうして一人でのんびり入り、ゆっくりと疲れを癒す。結構有名な人も来たりしてるんだぞ」
富村が淡々と話す。でもさ、そんな所にコネを持ってるのは凄すぎると思わない?
「誰とコネを持ってるの?」
僕は聞いてみた。
「ここの館長さんとね。ついこの間いろんな大企業の社長が集まる集会でたまたま経営について少し話したことがあってね。それで仲良くなったんだよ」
まずその集会に参加した経緯を知りたいがあえて聞かないことにした。
「富村さん凄い。でもここって中から丸見え・・・」
妹の考えてることが分かってしまう。でもね、春賀。それは犯罪なんだ。そりゃまあ僕たちがするのは犯罪だけど一応春賀でも犯罪なんだ。
「丸見えだがな春賀」
富村が神妙な面持ちで言う。
「・・・なんですか?」
「俺はのぞきなど俗なことはしないぞ?」
それをしようとしているのは春賀なんです。
「・・・・・ぃぃ」
「ん?」
小さく春賀がそう呟いたのを富村が聞き返す。
「ああ!いやいやなんでもないです!」
春賀が一生懸命ごまかす。あれ?春賀ってこんな明るかったっけ?そのまえに春賀。覗かれて良いなんてどんだけ惚れてるんだ。
「ならいいか」
富村はさほど関心もなさそうに答えた。そしてそのまま中へ入っていってしまった。




