竹中春樹 過去編 7
僕は二階に上がる途中で思った。まずい、と。富村に単独行動をさせたら何をしでかすか分からない、と。
僕はドアを強く開ける。特殊部隊がドアを蹴り破るときのように。
「誰もいない?」
ほっとした。部屋をあさられてたらどうしようかと・・ついこの間あさられてたし。
「・・・まてよ?」
俺の部屋にはいない。と言うことは。
「まさか?春賀!?」
僕は一目散にかけだした。
「そういうことだね。周囲の人間をジャガイモとして顔をその芽だと思えば世間の目なんてただの毒素以下にしか映らないさ」
「ふむふむ」
何か春賀が変な講義されてる。
「だが毒素だからある程度自制も効かせないと死ぬからね。そのあたりの加減はその時によって決まるけど、それは本人が感じることだ」
「じゃあ別にトイレにうんちしに行くのは我慢しなくて良いんですね?」
「鈍感になれ、周りの人間の目など気にするな」
「分かりました!師匠!」
春賀が勝手に弟子にされてるし!
「じゃああと時間もないしさっさと準備して着替え・・上着脱ぐなお前!」
「あ・・・」
なに!?春賀のブラジャー姿を!?
「まあ、俺じゃなかったらやばかったな弟子よ。そしてさらば」
そう言う声がしたと同時に中からドアを開けて富村が出てきた。僕はしっかりとたまたま通りすがった感を出しながら口笛を吹いていたんだが。
「春樹、立ち聞きは良くないぞ」
と言われた。
と言うわけで、僕たちは準備を済ませ、車に乗り込む。一番右が富村、真ん中に春賀、僕が一番左だ。運転席と助手席には母と父が乗っている。
「竹中さん早くしましょう」
富村が親をせかす。おい、それが他人の親に対する態度か。
「おうおう、任せろ」
お父さんも普通に了解してるし。
すぐに車は動き出した。
しばらくして不意に春賀が富村の方を向いた。
「ねえ、富村さんって何歳なんですか?」
質問だったらしい。
「はちじゅ・・・16歳」
どこに間違える要素があったのか。
「趣味は?」
「暇つぶし」
普通暇つぶしに趣味を持ち込むんじゃなかったのか?
「なるほど・・・じゃあ彼女います?」
そういえば愛山とは付き合っているのだろうか。見たところ愛山が一方的にアタックしてたみたいだが。
「いない」
「・・やった」
妹が小さく呟く。だめだ、そいつなんかを初恋の相手にしてはいけない!
「やったじゃないっつうの。ほら、静かにしてて」
僕がそういうと春賀は大人しくなった。まだ一応僕の言うことは聞くようだ。
しばらくして突然富村が口を開いた。
「おい春樹」
少し眠くなってきた所で起こされた。
「なに?」
僕は少し怒りっぽく言う。
「春賀が寝てて寄りかかってくるんだけどお前の方に寄りかからせても良いか?」
どうやら春賀は富村のことが寝ててもお気に入りらしい。兄として心配だ。
「良いよ」
勿論僕は了承する。すると富村は春賀の肩を押して、春賀をそのままこっちに寄せてきた。
「結構きついもんだね。香りとか重みとか」
「そうじゃなくて単に不快だっただけだ」
それは絶対に春賀の前で言わないでほしい。僕は春賀が富村に惚れるよりも、傷つく姿を見る方がつらいんだ。いや、前者の方がつらいか?
「・・・そう。で、コレ返して良い?」
僕は富村に言う。春賀を支えてたら手がしびれてきた。
「絶対駄目・・・勝手に寄せるんじゃねえよ」
勝手に春賀を富村の方に寄りかからせる。ハハハ、甘いよ。
「お返しだ」
今度は富村が春賀を寄りかからせてきた。
しばらく春賀がメトロノームの如く僕と富村の間を行き来していた。妙に顔が青くてなにかうめき声を上げたが怖い夢でも見ているのだろう。僕たちに責任はないはずだ。結局春賀は最終的に真ん中にシートベルトで固定した。
そして車はいつの間にか高速道路を降りて、温泉宿まであと少しという所だった。