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北条麗花  過去編1

注意!これは過去の話です!



 私は北条麗花。剣道部で、妙に周りに持ち上げられてレギュラーとなっていた。中学生の時全国大会で優勝争いに毎回食い込んでいたと言う実績があるからだろう。だがみんな最初に私と話した途端私を避けるようになった。私の態度がいつも無愛想だからだろう。中学の時もそうだった。だから私はいつも変わらず、一人で練習をしていた。そして、ある試合で団体戦に出ることになった。

 勿論私は大将として抜擢された。でも勝てなかった。原因は私らしい、他のみんなを全く信用せず、一人で戦おうとした、と。私にはその時理解できなかった。当時の私は周りのみんなと仲良くすることを拒んでいた。住む世界が違うのだ、かつて小学生の頃一緒に遊んでいた人たちとは誰とも会えない。皆遠くへ行ってしまい、私も例外なく住み処を変えさせられた。逆らえるはずもなかった。父上はトップランクの財閥のトップであり、幼い頃から母の言うことは絶対だった。私は再び友人を失うことが怖くて、自ら心を閉ざしてしまった。だからみんなとも仲良くはしないのだ。だがその行為がこういう結果を招いてしまった。私は悲しみにうちひしがれ、練習に出ない日が何日も続いた。

 そして今、私は剣道部の道場を再び訪れようとしていた。その道中、今まで無かった光景があった。相談部、と言う紙が貼られたドアだ。今まで空き室として使われてた場所だ。私はふと、道場に行ったときのみんなの反応を想像してみた。そのときの私にはみんなに罵倒される私のビジョンしか想像できなかった。そして再び、相談部と書かれたドアを見てみる。本当に困ってる人を助けてくれそうな、そんな気がした。そして私は、そのドアをゆっくり開けたのだった。

その中はなんの変哲もない、ども安心できる空気が広がっていた。長机を二個はさんで椅子が置いてあり、座ると丁度向かい合う形になる。向かい側には誰もいないので呼んでみることにした。


「あの、誰かいらっしゃいますか?」


すると部屋の奥から男の声がする。


「へ!?しばし待たれよ!」


言っておくが私は男が嫌いだ。話すときは下心丸見え、二言目にはメールアドレス教えてくんない?私は携帯電話を持っていないし正直言って寒気がする、虫酸が走る。コイツもそんな男だろう、そう思っていた。


「うあっと!っとっとっと」


 よろけるように奥のふすまを突き破って出てきたのは目を疑うような格好をした男だった。顔は美形の部類に入るだろう。だが頭はモヒカンだったのだ。しかもそいつは私の顔を視認した瞬間意味の分からない動きで爆ぜ、天井に突き刺さったのだ。失礼にもほどがあるだろう。だがそんな感情を表に出してはいけない。感情を抑制する方法など他の御曹司などを相手にするときによく使うのでマスターしている。

 そしてそいつが天井から落ちてきたときは普通のショートヘアーだった。モヒカンはカツラだったらしく、天井に埋め込まれたままだった。そいつは何事もなかったように瓦礫払い、席に着く。そして一度咳払いをした。


「少し取り乱してしまいました。私、この相談部の創設者および部長である富村祐二と申します。相談する内容によって以後お見知りおきするかしないかはあなた次第。そちらの名前は?」


確か富村祐二と言えばあの富村彩菜を姉に持っていることで有名だった気がする。あと定期試験で毎回2位を取っていることでも有名だった気がする。


「北条麗花と申します」


そう言うと富村ははぁ、とため息をつく。さっきから人に対して迷惑なのではないかと思う。いきなり敬語を取り払うし。


「やっぱり見間違いじゃないよね。最初の相談者がこのお方とは予想もしなかったぞ。」


普通なら後半の言葉は聞き取れないが私は天性の勘で聞き取れた。


「最初の相談者というと?今まで誰も来なかったんですか?」


そう言うと富村は眉間にしわを寄せた。


「ああ、そうだ。もしかしたら一生来ないかと思っていたがな。いきなり最初の相談者があの北条麗花だとは誰も予想はしていなかった」


やっぱり私は孤独な人間だと思われてるのだろうか。そう思うと、少し悲しくなった。


「なぜ、私が来てびっくりするのですか?」


富村はやれやれと首を振った。

「孤高の女騎士と呼ばれている。誰も寄せ付けないし頼らないあなたがここへ来ることだ」


「そのあだ名は嫌いです」


そんなあだ名で呼ばれたことがある。確かに生き方だけ見ればそんな感じだろう。何せ心を閉ざしているのだから。

 祐二は言葉を紡ぐ。


「あのあだ名は、俺が流したんだけどね」


あっさり衝撃的な事実を知った。同時に今まで悲しみしかなかった私に純粋な怒りという感情か生まれてきた。あのあだ名を呼ばれるたび涙が出そうになっていたのだ。


「そう、あなたが流したのね」


何とか声を荒げることなく返事をすることが出来た。いきなり怒るというわけにも行くまい。


「ずっと一人でいるしさ、なぜか話しかけようともしない。人間が嫌いなの?」


へらへらとしながら最後にはそんな言葉を私に吹きかけてきた。許さない・・・私の生き方を勝手に決めつけてそれを笑いの種にするのは許さない。


「そんなことじゃない!!人間が嫌いなわけがないだろう!」


つい声を荒げてしまった。名誉を傷つけられた。


「じゃあ何で避けるんだ?端から見たら嫌いとしかーーー」


「私はそんな風になんて思ってない!私はな!失うのが怖いんだよ!大切な友情を!だからこそ周りを寄せ付けないようにして距離を置いたんだ!もう・・・あの悲しみは味わいたくないんだ!!!・・・・でも、もう」


つい相手の言葉を遮ってしまった。でも何でだろう、誰にも明かさなかった言葉が洗いざらい出てくる。後半は涙まで出ていた。ここのアットホームな雰囲気と、富村がそうさせたのだろう。富村はさっきのヘラヘラした笑いから、優しい笑みでこちらを見つめていた。ずっと見つめてくるから恥ずかしくて目をそらしてしまった。


「済まない、心の声を聞くために少し実験をさせてもらった。少しは予想していたがここまでの激情をもっているとは。ほれハンカティだ」

渡されたハンカチで軽く涙をぬぐう。無臭だ、どこまでも。

今までの言葉は全て嘘だったらしい。でも、いろいろ打ち明けたら何かすっきりして富村に対する警戒も感じなくなっていた。


「・・・少し取り乱してしまった、すまない。祐二君」


言った後には遅かった。私が富村のことを名前で呼んでしまった。人の名前を、しかも男の名前を名前で呼ぶなんて初めてのことだ。むずがゆい。

 別に富村はそんなことは気にしてないようだった。少しは気にしてほしいところだ。


「さて、本題へ参ろうか」


アットホームな雰囲気は残しつつ、真面目な空気に変わった。今思ったが、この男はただ者ではない。


私はとりあえず相談してほしいことを言うことにした。


「私は剣道部の部員と再び練習をしたい。前のように一人だけではなくてな。そして

、次の団体戦で勝ちたい。そのためにはどうすればいいのかが分からない。仲間と協力というのも分からない、多分私は部員に嫌われている。だからこそ、解決してくれそうな雰囲気があったからここを訪ねた」


どこからか取り出したアーモンドをポリポリ食べながら富村は驚く仕草をする。


「そんな雰囲気なのか?ここ?」


計算済みではなかったのか?コイツのことが分からなくなってきた。最初は何もかも知っている空気だったのだが。


「さあ、計算済みではないと?」


私の質問に富村は腕を組む。


「もしかしたらな、俺がそう思ってるからだ。本当に困ってる奴を助けたい気持ちがあるからだろうな。かつて俺が助けてもらったときのように」


コイツにもそんなことがあったのだろうか。気になる事限りなし。


「聞かせてはくれまいか?」

「長いからだめ、あとで」


そう言って富村はこの話を打ち切ってしまった。そしてまたアーモンドをポリポリ食べる。


「そうだな、まずは一緒に道場にでも行くか?」


富村がそう提案してくる。勿論私だって道場へ行きたい、でも脳裏に浮かぶのは部員から迫害される自分のビジョン。それはいやだ、苦しい。


「今日は良いよ。うん、ほんとに。周りの奴にも迷惑だろうしね」


「違うな、お前は他の奴と会いたがっている。でもお前は会うことが怖い、なぜなら周りの奴から再び迫害されるのが怖いから、違うか?」


なんて奴なんだ。読心術でも使えるのか?

私は口を開けてぽかんとしていたらしい。


「じゃあ剣道部でお前に対して一番きつい態度を取っていたのは?」


その言葉で私は我に返った。だがきつい態度というか、相手にすらされてなかったと思う。


「誰もそこまで酷い態度は取らなかった。ただ、誰も私に声をかけてはくれなくなった」


富村はふむふむとうなずき、何かひらめいたように口を開いた。


「おまえ、友達がほしいんだろ」


それは私でも気づけなかった私自身の願い。コイツはそこまで見破った。今まで封印していたのに。


「そうなの・・・かも知れない」


実際友達が出来るとどうなのだろう。小学生の頃と同じように話せるのだろうか。人と話したことが最近あまりないから出来るかどうかも不安だ。何より、離れることが怖い。


「離れることが怖いか?」


「ああ、そうだ。二度と会えないんだぞ?怖いに決まっているだろう?」


「じゃあさ、携帯電話持ってるか?」


そうか、それなら離れていたも連絡が取り合えるではないか。いやちょっと待て。私は携帯電話を持っていない。親に言っても多分買ってもらえないだろう。家が厳しいし。


「携帯電話は持っていない。しかもこれからも買えそうもない」


富村は腕を組み考える仕草をする。


「あれがないときびしいからなー」


富村は椅子に大きく寄りかかる。


「しょうがないだろう。親が厳しいんだ。うちの家のことは知ってるだろう?」


「説得しろ」


「無理に決まっている。あんな頭の固い母親が私にそんな物を持たせてくれるものか」


「いろんな理由を付けることは可能だ。例えばお前の母親が帯びつきそうな話題。社交パーティーには出席したりするか?」


「ああ、だがみな酷いんだ。誰も私じゃなく私の家しか見てくれない」


私はあの目が嫌いだ。金、玉の輿。そう言うことしかみんな考えていないんだ。


「分かるぞ。北条家と言えばかなり名が知れてるからな。でもそれが理由になったりする」


人差し指をくるくるさせながら富村は言う。


「つまりどういうことだ?」


「そう言う人たちとメールアドレスの交換をする。と言う理由はどうかね」


ふむ、確かにそれは理由になりそうだ。あの頑固者も結婚に関することなら許してくれるだろう。


「確かにそれは良いな、やってみよう」


 途端に富村はホワイトボード(A3)に文字を書き始めた。何をするのだろうと思っているともう書き終えたのか面をこちらに向ける。

そこには「北条麗花を集団生活に戻すための方法」と書いてあった。そしてその下に矢印を織り交ぜてこんな事が書いてあった。


携帯電話を買う→友達になってメアド交換→それを剣道部のメンツとも→団体戦優勝→将来安泰



コイツが本当に分からなくなった。


「こんな簡単なのか?まず私に友達が出来るかどうかも心配だ。ここ最近家族以外と話した記憶がない。人に話すのは勇気がいるんだぞ?」


「そのときはそのときだ。まあ今はこのステップの最初つまり、「携帯電話を買う」を実行してもらう。理由付けはいろいろある。俺はいつでも暇だ、もし必要なら相談部として手助けをしてやろう。明日結果を報告してくれ。今日はもう俺も帰りたい」


そうして富村は大きくあくびをしてから私に手で出ていけとジェスチャーをする。どこまでも失礼な奴だ。私の世界でそんなことをすればどうなるか分かっているのだろうか。


「わかった。じゃあ明日」


そうして私は学校を後にした。



 一人になると寂しい。いや、今までその感情を封印してたからだろうか。富村は私を様々なことに気付かせた。明日はあいつに朗報を伝えなければなるまい。私は送迎の車に乗りながらそんなことを考えていた。


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