祐二のマネージャー
「ねえねえ彩音姉」
今日は日曜日。富村家の流れる時間はゆっくりだ。現在時刻はお昼頃。
テレビをみながら、彩花が彩音の裾を引っ張って耳打ちをする。
「ん?なんだ?」
彩音はテレビから目線を離し、彩花に向ける。
「お姉ちゃん出てるよ」
「彩菜姉はアイドルだから当然だろ」
「恋愛についてインタビューされてるね」
「ああ、まあ無駄なことだと思う」
「そうじゃなくてね、ほら」
「どこを指さしてるんだ?」
「ほらあのマネージャーみたいな人。少し顔が画面端に見える」
「それがどうした・・・ん?」
「ほらね?」
「ああ、確かにあれは兄貴だ!でもなんで?」
「分からないわ」
そこへ母親の彩子が来る。
「それはね?お兄ちゃんバイトやってるからよ」
「「なんの?」」
「一日マネージャー」
「ああ、納得したわ」
彩花がうんうんうなずきながら言った。
「な、何で姉貴なんかに兄貴が行っちゃったんだ!!」
対する彩音は必死そうである。そんな彩音をなだめるように彩子が言った。
「給料高いからだって」
「しかしまあ、彩菜は忙しいんだな」
楽屋で祐二と彩菜が話している。祐二は彩菜の髪をセットしながらで、その姿はまるで理髪師のようだった。
「アイドルなんだから仕方がないでしょ。この後笑っていいですとものリハもあるし」
「そうかそうか」
うんうん頷きながら祐二は高速で手を動かしていく。早い、見えるか見えないかの境目ぐらいだ。
「だからこうやってアイドルには休みの時間も重要なわけよ」
「それにしてはずいぶん楽屋が散乱してるじゃないか」
彩菜の楽屋は一言で言うと、夢の島だった。一歩踏み出せば何かを踏みつぶしてしまうような状況だ。つまり彩菜は、自堕落なのだ。
「しょ、しょうがないじゃない。何か文句でも?」
「ナッスィング」
「よろしい」
その受け答えの後数分の時が流れる。そして髪の毛をセットする音のみが楽屋に漂う。
不意に彩菜が口を開いた。
「祐二も祐二で何でそんなにパーフェクトなの?」
「パーフェクト?俺はそこまで凄い人間じゃない」
どの口が言うのだろうか。と言う突っ込みが入りそうな祐二の一言。
「・・・十分凄いわよ。大体あんたどこでこんなセット方法とか習ったのよ」
「独学」
祐二は天才であることが分かった。いや、前から分かっていたが。
「・・・ますますパーフェクト度が増してきたじゃない。かなりうまいし」
「そりゃどうも。でも俺にだって苦手なものがあるぞ?」
「はいはいピーマンでしょ?」
「当たり」
ドンガラガッシャーン!!と彩菜が椅子から大きくずっこける。祐二はとっさに手を引いたので大惨事にはならなかった。
「当てずっぽうって言うか、半ば冗談で言ったのにまさか本当だとは!」
彩菜は倒れた椅子を直しながら驚愕の表情を浮かべる。
「十何年も共同生活してるのに知らなかったのか。妹たちは知ってるぞ」
「・・うーん負けた気分」
しゅんとうなだれる彩菜。祐二はその方をぽんぽんと叩く。
「彩菜だって良いところはあるさ」
「ええ!?どこどこ?」
彩菜は祐二の胸ぐらを掴み壁まで追い詰めながら必死の形相で殺す勢いで祐二に問い詰める。
「グフッ!!な、内緒だ・・・あう!」
「内緒とは良い度胸ね」
祐二の胸ぐらをさらに強く絞める彩菜。
「わ、分かった言う言う言う!!」
「よろしい」
祐二がそう言うと彩菜は素直に掴んでいた手を離す。
「ええーっと」
いきなり深く考え出す祐二。おそらく適当に言ってしまったんだと言うことが読み取れる。目が泳いでるから。
「ええーっと?」
「あと五分でリハが始まるところかな」
祐二が挑発的にそう言うと彩菜は腕時計をすぐまくる。
「うわ!急がなきゃ!」
そう言って彩菜はすぐに楽屋から飛び出していった。
「がんばれよ」
祐二はその背中を見ながら一言呟いた。かわし方が実にうまい。
とりあえず過去編はアイデアが思いつかなかったので現代編になります。