愛山優花過去編 1
過去編が過去編につながります
私は愛山優花。現在は一年で生徒会の部活動調査部隊に所属している。この部隊は美人揃いが多い、理由は男子を籠絡して部活の陰謀を暴くというものだ。とても楽しそうでしょ。この活動内容でたくさんの女子が脱落していったが、今の二年と三年の人は私より、お男子の扱いを心得ている。俗に言う悪女ね。
新しく相談部という部活ができたみたいで、会長によれば得体の知れない部活だそうで、私に調べてほしいそうである。部長は男子でどういうことか一人の部活なのでそれは本当に得体の知れない部活みたい。部長のデータをもらったのだけど、不明な点が多すぎて話にならないわ。とりあえずいつも通りに、騙すわ。
私は廊下をゆっくりと、いつも絶やさぬ笑顔で歩く。周りの男子は私を振り返る。私は自分の美貌に自信を持っているわ。だからこそできるのよ。こういう仕事が。
そして、相談部という紙が貼られたドアの前に立つ。ボクシング部の男はかなりしつこかった。俺とやれ、と言われたときは無意識に股間を蹴り上げた覚えがあるわ。あれは良い思い出だった、うん。
そしてノックをする。
「すいませ~ん。ちょっと相談事があるのですけど・・」
私は客を装う。こうすればいちいち警戒されなくて済む。他の運動部とかはマネージャーになりたいだとか好意をちらつかせたりして釣り上げた。今回は客として奴を、富村を釣ることにするわ。
「ちょっと待ってろ、今片付けをす・・・何入ってんだおい」
片付けをする・・すなわち隠したいものがあると見た。それだけかと思っていた。だが富村が持っていたのはそんなチャチなものじゃなかった。
「な・・な・・何を持って・・!!」
だってさあ、日本刀をそのまま持っていたら普通はびびるよね。
「富宗」
らしい。多分なんかの漫画かなんかのパロディだろう。いやそうじゃなくて、これは立派な銃刀法違反じゃないのか?それは気にしないのがこの小説なのかしら?
「・・・そうですか~凄いですね~」
頑張って(無理矢理)作ったぎこちない笑顔でしか対応できなかった。キャバクラの女性はこれをもっと上手にできるという。精進しなきゃ駄目ね。
「片付けるのがめんどくさいからこのままでいいや、早く用件言って。あと名前も」
相談部、だよね?私は再び外のドアに貼ってある紙をみる。その通りだった。中の人はその通りじゃないみたいだけどね。
私は椅子に座る。落とすと言ってもこの男をどうやって落とそうかしら。やっぱり色目?客として接するなら、いや、いきなりアプローチでもいいかな?まあまずは人柄を把握しなくちゃね。
「愛山優花といいます~」
わざと伸ばしながら言う。こういう性格にしておけばみんな油断して懐を見せてくれるのだ。
「ほほう、それで?」
富村はさほど興味を持ってないように答える。大体の男子はえ!?だったんだけど。つまり現時点では私のことを知らないということね。手ごわいわ、でも面白い。
「別に用件はないんです~。少しお話がしたかったと・・いうかんじです・・」
わざわざ頬を染めてもじもじしながら言う。大体の男子はこれでノックアウトなんだがこの男はどうだろうか。
「ふ~ん」
「そう」
だとさ。私にはまったく興味がないんだとさ。持たれるのも癪だけどもたれないのはもっと癪なんだけど。趣旨を変えて身体的プレッシャーにしようかしら。
私は長机の脇を通り抜け、富村に接近する。それを富村は怪訝な顔でずっと目で追っていた。私が今からやろうとしているのは膝乗りだ。女子に密着されれば男子は大体それを忘れられない。それを利用するのよ。少し危ない店の女の子がよく使う手段らしい。
「おい、何のつもりだ。ひええ、くるなぁ!」
わざわざ大げさに言っても私は止まらないわよ。
私は無言で富村の膝の上に乗る。富村はそれも無表情で見つめていた。
「ねえ、私といいことしない?」
もう仮面をかぶる必要はない。直球ストレート。できる限りの技でこの男を落とすしかない。しかし何をムキになっているのだろうか私は。なんだか当初の目的がどうでも良くなってきたわ。
「いいことしない」
どこまでも冷静な男。なんという・・・ほかの男とは違う・・。
「本当に?」
「・・・背伸びをすると火傷するぞ」
かわし方を良く心得ている。まさか経験ありとかそう言うオチ?
「へえ、ここまでされて全く寄せ付けないんだ」
私はいったん膝から降りる。富村の表情は硬い。私女として自信がなくなってきたわ。
「ビッチを愛する趣味はない。さてと、コーヒーでも淹れるか。要る?」
「あ?ええ。」
富村はうなずくと椅子から立ち上がり、ふすまを開けて奥の部屋へと入っていった。
何だ、全く興味がないわけでもないんだ・・じゃなくて私がビッチ?一応未経験なんだけど。いや行動を見れば確かにビッチにみえるけどさ。好きでやってる訳じゃないのよ。いや騙すことは好きだけどさ。じゃあそうなると私はこういうことが好きな女?いやいやそれはないはずじゃないのかな。
奥の和室で富村がコーヒーを淹れている。和室とコーヒーって言うのも妙だがなにげにマッチしている。うーむ、これは富村だからじゃないのか?なかなか整った顔立ちだしそれだけではなく纏う雰囲気が一般人のそれとは違う。
「あっつ!」
あ、お湯が手にかかってしまったらしい。なんだ、可愛いところもあるじゃない。完璧ってわけでもないんだ。どれ、ちょっと驚かそうか。
「ちょっと見せて?」
私は富村に近づく。富村はコーヒーを淹れながら指だけを差し出す。なるほど、少し赤くなっているここがその指ね。なぜかついいたずらをしたくなってしまった。
「えいっ・・カプ」
「ぅ!?」
私は富村の指をくわえる。するとさっきまで冷静だった富村が微妙に声を出し、すぐさま指を引く。だが同時に一瞬お湯をテーブルに垂らしてしまった。顔は変わらないがほのかに赤みが差している。
これは、可愛い。普段があれだからこういう所を見るのはめちゃくちゃ面白いわ。
「あら、ごめんなさい」
私は適当に謝っておく。さっきまで私をないがしろにした罰だ、とでも言っておくわ。富村はきっと睨んできたが、諦めたのか再びコーヒーを淹れ始めた。
「善意でやったにしろいたずらでやったにしろ、困るんだよ。次やったら南極送るぞ」
富村は少しうっとうしそうに話す。きっとこの男は感情の起伏が少ないのだろうかね。後南極はやめてほしい。
「やらないわよ・・・あなた以外には」
わざわざ妖艶に話す。そういえば当初の目的はなんだったっけ?ああ、富村を落とすだっけ?一応手がかりはつかめたが長くなりそうだ。長期戦になるかも知れない。
私は座っている富村の肩に手を回し、密着する。これにはさほど反応しない。うーむ、富村の照れる基準が分からないな。静寂の中に、湯を注ぐ音だけが響く。
「できたから離れろ。砂糖は何本だ?」
私は実は苦いのが苦手だから基本五本入れている。だが今回は少しは大人と言うことで三本で我慢してみようと思う。私は密着しながら指を三本立てる。
「了解」
と言って富村は五本入れてきた。喧嘩売ってるのだろうか。
「ねえ、三本って言ったんだけど」
「だめだ、ガキにはまだ早い」
「ガキじゃないわよ!!」
「いいや、ガキだ」
「祐二!!ケータイに新しい友人が・・・は!?」
ん?誰の声なのかしら?方向的に入り口なんだけど。富村は新聞を読んでいる。
声の主の方を向くと、なんとまああの北条麗花ではないか。
「あ、こんにちは~」
富村に密着したまま私は挨拶をする。北条はそれを見ながら口をぱくぱくさせて数十秒。突然木刀を持って襲いかかってきた。
「不潔!!!!!!!」
大声で叫びながら襲いかかってくる。と言うかもうすぐそこなんだけど。そんなことを考えていると富村が動き出した。
富村がちゃぶ台の上のスイッチを押す。するとコンビニの入店音がなると同時に北条の下の畳が抜け落ちた。ああ、落とし穴ね。一瞬で姿が見えなくなっちゃったよ。と言うか、なんで北条麗花がここに来るんだ?
「なんで北条麗花がここに来たの?」
祐二は軽くこちらを見ながら言った。
「前のクライアントだからだ」
それにしてはあの瞳、恋する乙女の瞳だった。この男はなにげに競争率が高いと言うことなのかしら?まったく、他のヒロインを蹴落としてこの男を手に入れるのも悪くないわね。
部活動調査とかは二の次でいいわ。
なぜなら私は富村に、惹かれてしまった。
これからはこの女の過去編になります。




