北条麗花過去編 5
「は?友人を作るのを協力してほしい?何を甘いこといってんだお前。俺は保護者じゃないっちゅーの」
ええ~ここまで来て断るのか祐二よ。いや確かにそこまで頼るのは良くないけど・・・でも初めて誰かに頼りたいと思ったのだからそのくらいは許してくれないのか。
「しかしだな!私は一人で声をかける自信がないのだ。第一印象が悪いと友達になるハードルが高まるじゃないか」
祐二はペンをいじりながらやる気なさそうに答える。
「いや~そこまではちょっと・・・」
酷い!乙女心を弄んだのね!うう・・こうやって女とは棄てられていくのか・・。
「おい、泣くなよ・・俺が悪い事してるみたいじゃん・・」
おやおや?祐二の様子が。
「うう・・・グス」
祐二がハンカチを差し出してくれた。そして言った。
「一回だけだぞ!」
祐二の扱いが分かってきたよ。
とりあえず祐二は祐二のクラスに案内してくれた。多分先入観の少ないここを選んだのだろう。祐二はこう見えて気遣いがあるところが本当に良い。もしかしたらモテたりするのかも知れない。いや、そうに違いない。
「そうだな。あそこ、中央で三人で飯を囲んでる眼鏡の女だ。田村と言って委員長をやっている。大概の性格の人と気さくに付き合ってくれるから難易度の低い人物と言えるだろう」
どこで調べたんだそんなこと。まあいいか、とりあえず第一声が大切だ。ええーっと発声練習、と。
「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛あああ!?」
何でこんな声が出るんだよ私は。祐二も化け物を見るような目で私を見つめないでくれ。
「お、お前って奴は・・」
祐二がぷるぷる震えている。そしてがばっと抱きついてきた。抱きついてきたあああああああ!?
「お前もボケる事が出来るのか!!」
・・・そっちかよ。周りも見てるし引きはがすか、と思っていると祐二が勝手に離れた。
「と言うことで、はいじゃあ行きましょうか。じゃなくて行ってらっしゃい」
祐二に背中を押されてクラスに入る私。ああ、さっきまでも注がれていた私に対する視線がさらに濃く!!ぐう、耐えられるか?いや、祐二が見ている前で下手なことはできない!
私はゆっくりと田村という生徒の席まで近づく。田村集団の視線が集中する。私がしゃべろうとすると、いきなり田村さんが立ち上がり、私の手を取って言った。
「あなたがあの祐二の彼女さん?かねがね噂を聞いているわ!」
え?どういうことだ?祐二を見ていると顔を手で押さえている。
「い、いやちが――」
「あの誰とも関わろうとしない祐二を変えてくれたのがあなたなのよ!」
祐二が誰とも関わらない?どういうことだ?全く話に追いつけん。
「祐二は普通にしゃべりまくるんじゃないのか?」
私がそう言うと田村さんは目を大きく見開く。
「え?彼そんなしゃべるの?」
どういうことだろうか。私が会ったときはズバズバ言ってきたものだが。
「ああ、初対面の私にいきなり挑発的な言葉をかけるレベルだ」
田村さんはそれだけ聞いて勝手に頷く。そして祐二の方につかつかと歩いていく。ものすごく後ろ姿が怖いのは気のせいだろうか。
「祐二君、ちょっと来なさい」
祐二はなすがまま教壇の中央に立たされる。その姿はさながら逮捕されてうつむいている容疑者のような顔だ。
「ここで、私は今まで嘘をついていました、と言いなさい」
嘘って何?祐二は何を嘘ついてたのか?
「私はあなたがみんなと仲良くしゃべるように一生懸命試行錯誤したわ。でもあなたはそのことごとくを無視。私の苦労を返しなさいよ!!」
ついに怒り出す委員長田村。ああ、逆恨みか。
「お前に謝りゃ済む話じゃん」
胸ぐらを捕まれて揺さぶられたまま祐二は抗議する。全然余裕そうだ。
「だって・・・面と向かって謝られるなん・・てさ」
あれ?委員長顔が赤い・・・まさか!!
「待ちなさい!!」
私の意思じゃない。体が勝手に動いたんだ。そうだ、危機感を感じたんじゃない。
「なにかしら?」
さっきとは打って変わって敵意むき出しな顔でこちらを睨む田村。ふふん、怖くないねえ。
「さっきから祐二に対して怒ってるようですけど、あなたの勝手な思い込みで勝手に振り回されて勝手に恨みを抱くって言うのはあまりにも理不尽だと思いません?」
いってやった。田村は顔が真っ赤だ、ふふん、祐二の前でこんなことを言われたのだから膝をつくほどのダメージでしょう。
「へえ、良いでしょう。ならば言いますと私は祐二と一緒にご飯を食べたことがあります」
なんだってーー!?私でさえご飯は一緒に食べた覚えはない!!いや、一緒に出かけたぞ。
「私は一緒に出かけましたがなにか?」
田村の顔が驚愕に染まる。ふふ、飯を食った程度で上に立ったと思わないでほしい。最後の追い打ちだ。
「あなたなんか祐二に何とも思われていないんでしょう?ね、祐二?あれ?」
祐二がいないぞ?田村も祐二を捜している。確かさっきは居たはずだが・・・逃げたか?
「どこへ行ったのでしょうか?」
田村、私に聞かないでほしい。
「逃げたものには制裁を加えなければなりませんね」
私はそう言って田村に同意を求める。力一杯の縦振りで対応してくれた。私と田村の間には不思議な絆が生まれようとしていた。