北条麗花過去編 4
「どのケータイにするかはお前の自由だ。デザイン、性能。どちらを追求してもかまわない」
祐二と私は現在ケータイショップの中にいる。祐二がこんなことを言っているが私は自分で選ぶのが不安で仕方がない。というわけで
「祐二と同じケータイが良い」
私はこんなことを言う女だったかな?あれ、自分で自分が何を言っているのか分からなくなるぞ最近。特に祐二関連。
「・・・そうか、でも俺のケータイは展示はされてないぞ。ほしいならここじゃなくて本社に行く必要があるな・・・」
祐二はそんなことを言って考え始める。かなりレベルの高いことを考えているのは大体分かる。祐二は少し考えた後こちらを向いていった。
「本社に行く。そこで社長と会わなきゃ俺のはもらえない。言っとくが社長は一筋縄ではいかない、北条家だから遠慮とかそう言う古い考えは一切持ち合わせていない。酒は好きだがな」
本社?何をいったい・・・?ホントに何者だか分からなくなってきたぞ。アホなのか天才なのか庶民なのか財界人なのか小物なのか大物なのか。とりあえずコイツは私の知らないところで生きているようだ、疎外感。
「ま、まさか社長に会うって言うのはホントなのか?」
困るって。私は口べただしそんな人を前にしたら何をしゃべるか分かったもんじゃない。そうだ、祐二得意の嘘なんだな。そうに決まっているじゃないか。
「当たり前だろ」
嘘じゃなかったよ。
「え、富村祐二さんですか?予約は?」
祐二と私は携帯電話会社の本社に来ていた。まあこういう壮大な作りには慣れているが、それでも何か落ち着かない。祐二はカウンターの女性と話し合っている。カウンターの女性は困っているようだ。
「予約はない、とりあえず彼に取り次いでもらいたい」
祐二、女性が困っているぞ。本当に知り合いなのか?
「ですから富村様、予約がないと・・・ひ!」
「取り次いでくれ」
祐二からものすごいオーラのようなものが出る。あ、膝が震えてきた。母の持つオーラの数倍濃い。女性もびびっている。
「分かりました・・・では取り次いでみます」
女性は折れた、今の祐二のオーラは消え去った。しかし、祐二にはこんなオーラは似合わない、いつもの明るいオーラが一番良い。だがしかし、祐二の本性があのオーラな気もするのも事実だ。
「おい社長、祐二だよー」
祐二は女性から受話器を受け取り、突然フレンドリーに話し始める。やっぱり祐二の正体がつかめない、つかみ所はあるのだがつかめない。
祐二はしばらく社長と話し込んでる様子で五分が経った。
「わかった、ありがとう」
だいぶ話は進んだようで相手からOKが出たようだ。
「行くぞ」
私は祐二に連れられるままビルのエレベーターに乗った。
「・・・このケータイは君だけのものだ。もらうとき言ったよね」
なんだかとんでもないところに連れてかれた気がする。大体祐二も社長も出してるオーラがあり得ない。これは友人とかそう言う関係ではない気がする。社長は若い、私たちよか年上にみえる。だが、容姿端麗でいかにもやり手と言って感じの印象だった。
社長はデスクを挟んで祐二と私を見ており、対する祐二は深くソファーに腰掛け、足を組みながらいつもの微笑を浮かべている。私はソファーであるにもかかわらず、背筋を伸ばしている。大体ここで大きな態度を取るのは無理にきまっている。
「はて、そんなこと言ったかな?」
先ほどの社長の問いかけに惚けたように答え返す祐二。私が死ぬぞ。
「祐二はいい。あのケータイは持つ人間を選ぶ。あの機能を使いこなせるのは祐二ぐらいだろう。だからこそ君に渡したんだ。そこの女の子が使いこなせると言うのなら話は別だけどね」
よく分からないけどかなり複雑なのか?祐二のケータイは。
「こなさせて見せよう」
祐二は毅然とした態度で言い放つ。こういう所だけはかっこいい・・・そんなことは思っていない。
「無理だ、あの形態は常人には使えない、仕えない。それは君も知っているはずだ」
話が見えない。祐二のケータイがとりあえずものすごいと言うことが分かった。社長も怖いことが分かった。
「・・・一度持たせてみれば満足するか?」
「できるのならね」
慎重に聞く祐二に笑いながら言い返す社長。祐二は社長から一つのケータイを受け取り、それを私に渡すため、差し出してくる。
「・・・どうすればいい?」
「お前はもっていろ。ケータイがお前を認めれば電源が付くはずだ」
それはどこの緑色の勇者の設定ですかと問いたくなる。緑色の勇者って誰だ?
「わかった」
差し出したてにそっとケータイが乗せられる。同時に祐二の手が触れる。祐二の体温が伝わる、祐二の手が私の手に―――――じゃない!
「念じてみろ」
念じてみろとはどういうことだ?とりあえず集中すればいいのか?
「・・・・・・・・・」
私はひたすらケータイに意識を集中する。その間、祐二と社長の間の会話が少し聞こえた。
「お前何見栄張ってクールな雰囲気醸し出してるんだよ」
明るい祐二の声、社長も同じく笑う。
「久しぶりにあった友人が俺よりも先に彼女を作ってたら少しはいじりたくなるだろう?」
社長も明るい声で答える。さっきとは印象が全然違うんだが。
「彼女?全く違うよ。ただの依頼人さ」
・・・なんでお前はそんな簡単に・・・お前が今まで私にやってきたことはやっぱり相談部だからなのか?相談部としての義務がなければ切り捨てているか?
「お前を見るとどうも彼女に対して普通の感情を抱いていないように見えるが?」
・・・え、祐二がそんなことを思っていたのか?って・・集中できないぞ~!
そんなことを考えているといつの間にかケータイの電源が入っていた。
「おーい祐二~。ケータイの電源が入ったぞ!」
私は祐二を呼ぶ、祐二はすぐに駆けつけてきてくれた。奥の社長もその様子を見て笑っている。
「おお、よかったな!おい、これで良いか!!」
祐二が社長に付いたケータイを見せながら言う。祐二がそんなにうれしそうにしてくれると私もうれしい。
「祐二、ありがとう」
いきなりの言葉に驚いたのか祐二は少しこちらを見て硬直したが、すぐに笑顔になり言った。
「・・・・当然の義務だ、お前のためにやったんだ」
その後のことは覚えてない、あまりにも衝撃的すぎて。とりあえず祐二とメアド交換を済ませ、帰路についた気がする。