北条麗花過去編 3
もう分けるのが面倒なので麗花過去編を一気に進めます
いきなり街へ出ろと言われた。母には剣道の練習だと言って家は抜け出した。心臓はばくばくだし大体いきなり女の子にあんなこと言うな。全くあいつにはデリカシーがないのか。多分無いな、絶対無い。あんな顔をするやつにあるわけがない。さっきからどうにも周囲の視線が気になる、私の服が悪いのだろうか、何かおしゃれしなくてはいけない気分になってとりあえずいろいろ頑張ったのだが。春野には相談していない、あれに言ったら絶対ボロが出るまで問い詰められるに決まっている。だが今となれば相談した方が良かったかなあ、なんて思ったりしている。くそう、こんなつらい気持ちになるのは全部あいつのせいだ。昼飯でも奢らせてしまおう、いやいやもっと制裁を。
うん?後ろから物音が、いや、ただの駅前の花壇だな。いや、あんな所にカリフラワーのでっかいの・・・あれはない!!絶対無かった!
「曲者!!」
私は木刀をカリフラワーとおぼしき物体に振り下ろす。すると中から二つの手がずるっと飛び出し、両手のひらで止める。ほほお、私の剣を止めるとはコイツ、ただ者ではないな。
「姿を現せ!」
カリフラワーがパカッと割れる。まさかカリフラワーから生まれたカリフラワ朗!?ではなく祐二だった。しかし体育座りの窮屈な姿勢で鉄でさえ貫通する私の木刀を良く止めたものだ。
「ぬん!!」
祐二がかけ声をあげ手のひらを一気にひねる、あり得ない。こんな力がこやつに隠されていたなど・・・!私の木刀は簡単に祐二に奪われてしまった。
「甘かったな、気配を感知する能力は認めよう」
あんなところでカリフラワーの変装をしているやつを見破れてもうれしくない。
「だが、マダマダと言うことだ」
そのまま祐二はハッハッハと笑いながら花壇を降りていく。周りの目が凄いが祐二はそんなこと気にした様子でもなく軽やかに飛び降りる。よく考えたら私もこんなところで突っ立ってるのはおかしいんじゃないか?祐二に向けられていた目が私に向けられる。違う!断じてそうではない!!世間とは非情である。・・おい祐二、お前まで同じ目を向けるな、さっきまで仲間だったんじゃないのか!
祐二をとりあえず完膚無きまでにボコボコにしてから私たちは携帯ショップに向かうことにした。祐二のファッションは至ってシンプルだ、黒のTシャツ、黒のスラックス、そしてなぜか飯ごうを肩にかけている。指摘したいのだが、どうにも指摘できないのがつらい。私たちはかなり注目されているみたいで周りの目がこちらへ向いている。男子のなめるような目線が気持ち悪い、祐二の目線はあくまで分析するような目線だったからいやではなかった。祐二も祐二で女子の視線を奪っている。私から見てもかなりかっこいいから仕方がないが・・・何かむかむかするのだ。よく分からない感情だが、今まで感じたことはなかった。これも全て祐二のせいだな。大体私の服を見て感想の一つもないのか、女心を理解してくれ。後さっきからちょくちょく後ろを見てるし、何が気になる?
「なんでちょくちょく後ろを向くんだ?」
聞いてみた、祐二はこちらを向かない。・・・何だろう、殴りたくなってきた。祐二は代わりに後ろの電柱の影を指さしながら言った。
「尾行、電柱の影。お前が来たときからずっと尾行が居た」
言いながらこちらを向いてくる。何かを問いかける目だ・・しかし尾行なんて付くようなことは・・・まさか、な。
「少し待っててくれ、行ってくる」
私はそう言っていこうとすると祐二も付いてきた。
「なぜ付いてくる」
少し上を向き、考えてから祐二は言った。
「心配だからだ」
いつも通りの微笑から放たれたその一撃は私の心臓を的確に狙撃した。心臓が止まると思った、祐二の口からそんなことが・・・はっ!いかん!尾行者を確認しなければ。
「じゃ、じゃあ一緒に行こうか!」
もう目も合わせられない、祐二はどこまで私を困らせる気なのだ!
「イエスマム」
祐二も軍隊の挨拶をしながら後を追ってくる。その顔はずっと微笑に包まれている、だがそこから祐二の心境を推し量ることはできない。
電柱のうらに居た、居たと言っても予想通りの人物で驚くことはなかったよ、春野だし。まずい、祐二と一緒にいるところを見られたのはまずい・・・。今はまだ私の接近に気付いてないみたいだしいっちょ驚かせてみよう。
「春野、後ろだ」
私の声にびくっとなって後ろをゆっくりと向いてくる春野。その顔は蒼白、ではなくいきなり近づいてきた。顔が近い、近すぎる。そして春野はコンビニで立ち読みしているおっさんと窓の外からコミュニケーションを取っている祐二を指さして言う。まて、突っ込みどころがありすぎてどうしたらいいか分からない。もういい。
「彼氏居ないってのは嘘だと知っていましたよ、名前を教えてくださいフヒヒ」
下卑た笑い声だな。どこからこんな声だしてるのだろうか。
「彼氏ではないが、彼は相談部という所の部長だ。いろいろ相談に乗ってもらっている、きょ、今日は携帯電話を一緒に買ってもらうことになっただけであって・・・・」
「顔が真っ赤ですお嬢様」
ホントか!!まずいな、こんな顔見せられん!!
「嘘ですよお嬢様」
今度は後ろから男の声で誰かがしゃべってきた。とっさに後ろを向く。祐二が耳元でささやいたらしい、顔が近いが全く祐二は気にしてないようだ。いきなりだがもうびっくりしない、もう慣れたものだ。春野は少し驚いているようだ。
「なんだ、お前の知り合いか」
腰に手を当ててつまらなそうに言う祐二。危ない人間だったら面白いのかこの男は。春野が耳打ちをしてくる。
「予想の斜め上の人でした。顔からは想像できませんね」
誰もがそう思うに決まっている、本当にコイツは予想ができない。ん?祐二はどこだ?あ、もう先に行こうとしてる、レディをおいていくとはエスコートではNGだな。
「さっさと行こうや、えっと・・・」
「春野です」
「春野はどうする?」
何で春野に聞く、コイツは私の知り合いなだけだぞ?そんな顔で春野も悩むんじゃないって、何で私をちらちら見る。
「いえ、良いです。後は若いお二人さんにお任せします」
そう言って春野は帰って行った。ふう、ってなんで安心してるんだ私は。別に春野と話しただけで何を全く・・・。
「おーい」
「うわあ!!」
祐二は目の前で手をパタパタさせていたようだ。つい考え事を・・私の悪い癖だな。
「そんなに驚くなよ、悲しくなっちゃう」
祐二は凄く悲しくなさそうな顔でそんなことを呟く。
「ま、まあ良いじゃないか!!さあ携帯ショップまで案内してくれ!!」
私は何をごまかそうとしているのだろうか、今まで無かった何かが私の中に膨れあがってくるような・・・そんな感じだ。まあいいか、祐二について行くとしよう。




