引きこもりを何とかしろ1
相談部室:今日は春樹しか居ない。つまり今スタンバイしているのは春樹だけだ。春樹はほおづえを突きながらゆっくりとあくびをする。とても男とは思えない愛らしさがあるが、男である。そんな春樹の元に今日も来客者はやってくる。
私は金子渚。内気であまり人としゃべらない女子、で通っているのでいいのかな。昔からそうだったけど、まあ普通に友達もいるし、高校生活はうまくいきそうかも知れない。と、そんなことを話している暇はない。今私は『相談部』と書かれた部室の前にいる。あまり得体の知れない部活だが、活動はしてるらしくここの生徒会長も一目置いているらしい。その要因は部長でもある富村祐二という男にもあるらしいが、あくまで聞いた話だしましてや男相手にあの生徒会長が一目置くはずがない。だが、それほど実績があるというならば、もしかしたら解決してくれるかも知れないと私は踏んだ。先生でもどうにもならず、私の言うことも聞かずに一年の中期から始まった姉の引きこもりを。成功か失敗になるかは分からないが。
ドアを叩く。かなり緊張してくる。まるで他人の家を訪ねる感覚だ。
「どうぞー」
中から声がかかる。そして入ると、アウェイな感覚は全て消えた。代わりに自宅のような感覚、それに近い何かが部屋から流れ出す。その感覚に少し身を任せていると、前に座っている人から声がかかる。女性のようだ。それも美少女といえるレベルの。しかし、一つ気になる点がある。なぜ?なぜ男子生徒の服を着ている?まさか富村とやらに強制されているのか。
「あ、どうぞ座って」
前の人はそんな頭で勝手に妄想してる私を少し怪訝な顔で見てから私を座るように促した。
「あ、僕は男だよ」
「ええ!!?」
「やっぱりそうだよねぇ~・・・」
これは驚いた。確かにそうか、胸は硬いし、くびれも女子ほどはないし。そう考えると納得できる。前の人が凄い勢いでうなだれてる。あ、自己紹介をしておかなくては。
「私の名前は金子渚といいます」
そう私は自己紹介をしておく。相手に聞こえる程度の声で良い。相手の人は顔を上げ軽くうなずき、口を開いた。
「金子渚ちゃんね。僕は竹中春樹。この容姿のせいで良く女と勘違いされるんだ、ははは・・・・。さて、本題の用件はなにかな?」
とても気さくだし、今までのがっつくイメージの男子とは大違いだ。付き合うならこんな感じの人も良いかな。中学の時失敗したし。さて本題。
「うちの姉を何とかしてもらえませんか?」
単刀直入に言う。するとずっと微笑を浮かべていた竹中さんも少し目を見開く、すぐに表情を戻す。そして聞いてきた。
「姉を何とかしてほしいとはどういうことかな」
要点を話し忘れた。あの姉はこのままではまずい、ニートになってそのまま社会のゴミとなってしまう。それだけは避けたい、あんな人でも私は尊敬しているのだ。
「1年目の中間からずっと不登校で・・・先生も家庭訪問とかに来たんです。でも部屋にすら入れてくれなくて、それでずっとずっと部屋にこもったままで・・・このままじゃニートになってしまいます!!どうかお姉ちゃんを家から引きずり出してください!!」
私は竹中さんに頭を下げる。姉は私にとっての目標でなければならない。生まれたときから天才と呼ばれ、苦労もせずにテストでは上位を取り、家では大きい態度を取っていて、性格はアホで、美人なのにモテなくて、家事が全て駄目で、取り柄がゲームと勉強だけで、それ以外は全く持って愚図で、バカで、アホで、ドジだがそれでも私にとっては目標だった。いや、それが目標で良かったのか今更気になってきた。
頭を少し上げると竹中さんは思案顔になっていた。そうだよね、やっぱり先生とかでも無理なら一部活にできるとは思わないもの。そう考えるとやっぱり相談しなければ良かったかな、迷惑だもんね。あんなアホな姉助けたくないよね。
「大丈夫。多分アイツなら解決できるかも知れない」
竹中さんは多分と言っているが確信している響きがあった。
「良いんですか?家庭内の事情ですよ?あとアイツとは?」
相談した私が言うのもばからしいが、ホントに良いのだろうか。
「大丈夫だよ。そのアイツは今日居ないから明日また寄ってくれる?」
満面の笑みで返される。多分この人が絶対の信頼を置く人ならきっとそれは何でもできる人なのだろう。
「分かりました。では失礼します」
外はすでに赤く夕日に染まっている。あの人が絶対の信頼を置く人はやっぱり富村とやらなのだろうか。かなり親しいみたいだし勘違いされたらどうするんだろうね。あの人はもう女で良いんじゃないかな?