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北条麗花過去編 2

この小説は過去編を除き、回を重ねる毎に時間は進んでいきます

母は厳しい。どう落とすか、それだけしか考えていない。アイツはあくまで例を出しただけだ。自らの力で切り開くことをアイツは望んでいる。ならば、自分で頑張らなくては。

 送迎の車が家に着く。そこで私はたくさんの使用人に挨拶されながら玄関へと向かう。母は相談事とかには乗ってくれるがいまいち普通の答えを出してくれない。というかすぐに婚約の話に持って行きたがる。だから今年で十五歳のメイドの春野(はるの)。とてもフレンドリーに接してくれて良い相談相手なのだ。主人と使用人が相談というのも不思議だが、私は疑問も持たない。むしろそう言う関係の方が自然なのではないか。

 玄関を開ければ春野がかけよってくる。

 

「お帰りなさいませ。麗花お嬢様」


そう言って私の鞄と上着を受け取る。毎日帰ってくれば最初に春野が駆け寄ってきて挨拶をしてくれる。まるで家族のように。


「いつもありがとう」


すると春野は笑顔で首を振る。


「いえいえ、このくらい。当然の義務ですよ」


確かに使用人としてはそうだ。だが私は春野とはこういう形では出会いたくなかった。


「そう、分かったわ。ところで春野ちゃん。少し聞きたいことがあるのよ。私は今からお母さんに帰宅の挨拶をしてくるから私の部屋で待っててね」


少し春野は首をかしげてから笑顔になり口を開く。


「分かりました。お部屋でお待ちしております」


と言って部屋の方にかけていった。さて、まずは挨拶をしなければ。私は幼い頃から母に挨拶の重要性を説かれてきている。これはすでに習慣になっている。


母親の部屋は和室だ。そして少しふすまを叩く。


「入りなさい」


中から声がかかる。私は中に入る。すると着物姿の妙齢の女性が待つ。これが私の母親だ。毎回思うのだが、やはり母親の纏う空気はひと味違う。だがこの空気は・・そう、富村も持っていた。だがアイツの空気は少し違う。何というか・・人を引きつけるような、うまく言葉にできない。だが母の持つ空気はそれと逆、人を突き放ち、なおかつ服従させる空気だ。独裁者質の空気と言えるのではないか。じゃあ富村は―――「用件は何?」しまった、ずっと考え込んでいたようだ。


「帰宅の挨拶をしに参りました」


すると母親がしかめっ面を解き、少し笑顔になる。


「さすが私の娘ね、うん。お帰りなさい」


母親は私には優しい。それ以外の人には優しくないらしく、もし私に男友達ができたときは、それはもうとんでもない事になるだろう。富村と母が相対したらどうなるのだろうか?いや、富村が友達になるとは限らない。あくまで相談相手であって、そう言うわけではない・・・はず。


「ただいま、お母様」


母親が私の顔を探るように見てくる。


「学校で、何かあったのかしら?」


ギク!!?まずい!?顔に出ていたか!!いやそれはない。うん、何もない。ただ相談部というのに興味が出て少し話をしただけだ。それが顔に出るなどあるはずが無い。


「な、何もありません。平常通りの運行です」


あれ?私は何を言っているのだ。


「?そう、ならいいけど。学校には両花院も居るらしいじゃない。トラブルは絶対起こさないでね?」


そう、うちと両花院は仲が悪い。次期生徒会長として有望視されているのが両花院家の一人娘、両花院椿だ。まあ会ったこともないし、これからもあまり交流をしなければそこまでの問題にはならないだろう。


「承知しました。では、これにて」


そしてすーっとふすまを閉める。ふぅ、これでやっと一息付ける。あの独特の空気はあまり好きではない。さあ部屋に行こう。



「で、携帯電話がほしいと言うことですか?」


私は自室で春野は私の部屋を整理しながら話している。


「そうなんだがどうにもあの母がそれを許してくれるとは思わないんだ」


絶対そう断言できる。それは今までの経験から導き出した答えだ。


「それで持つにふさわしい理由を作りたいと」


春野も考える。この子は実はすでに大学の修了過程を全て終わらせているのだ。いわば天才なのだ。


「誰に言われたんですか?そんなこと。今までのお嬢様ならそんなことは言わなかったはずです」


はて?私はそこまで現代機器が嫌いそうだったか?しかも富村のことを言うのは少し恥ずかしい。


「私はそこまで現代機器は嫌いではない。私は自分で考えた」


少し強く言うが春野も表情を崩さない。


「そうではありません。お嬢様があのお母様にものを言うなど私には考えられません」


確かに今までならそうだ。でも私は、それでもほしいのだ。母に従ったままではこれからも何もできないし、もしかすると私は自分で何かをした証がほしいのではないか。


「母に逆らったところで失うものは何もない。それに、私は自力で何かをしたいと思っている」


私はこれまでにない信念を込めていった。春野はこれにはさすがに驚いたようで目を見開いている。


「・・・私は今まで仕えてきて、お嬢様がそこまで自分を強く出したところをみられたのは初めてです」


私もそうだと思う。多分今までもいろいろ噛み殺してきた覚えがあるし、最も近い春野にはそれが分かっていたのだろう。


「怒ったか?」


春野がまだ驚いたままなので少し焦る。


「いえ、うれしいんです。少しだけ、素のお嬢様を見ることができた気がして」


今まで見せたことのない笑顔で春野は言う。まぶしすぎてとてもじゃないが直視できない。


「そうか。それは良かった」


うれしいのか。いや普段の私はそこまで隠してないと思う。逆に私は悲しいよ。


「私も頑張ってお嬢様の初めての自立を支援したいと思います!!」


腕に力を入れて張り切る春野。そこまで張り切られても困る。


「ま、まあ頼む。まずはお母様を丸め込む方法か・・・・ハードルが高い」


いきなりお母様が相手なのはよく考えるときつすぎる。だからといって他の方法はない。


「良い理由を考えました!!」


手をぽんと叩き、こちらに顔を向ける春野。悪いことにしか感じられない。


「い、言ってみてくれ」


「ボーイフレンドができた、はどうですか?」


いきなりそれは駄目じゃないのか?あの人にそんな報告をするのは火に油を注ぐと同義語な気がする。大体ボーイフレンドなんて誰も考えら・・いや、それは違うな。うん。大体あの人に言ったら会わせなさいと言うに決まってるし、それで分かれなさいって言うに決まってるし、いやアイツなら・・・なんでアイツが出てくるんだ!!


「お嬢様、さっきから赤くなったり悶えたりしてますが大丈夫ですか?」


は!私はそんなことを・・・。


「だ、大丈夫だ」


すると春野はこちらを見ながら考え込む。そして顔を一気ににやけさせる。


「お嬢様、好きな人でもできましたか?」


突然の言葉に私は手も足も出ない。


「べっべべつに、そんなことは内蔵」


これは墓穴を掘ったに違いない。


「へ~~~~~~」


春野は引くほどのにやけ顔でなおかつしめたという顔をしていた。この顔はまずいな、なぶられることを覚悟しておこう。


「な、なんだ?」


「お嬢様もそう言う歳ですよね~じゃあその人なんていう名前なんですか?」


興味津々といった感じで顔をのぞき込んでくる。だが困る、私には好きな人なんて!!!何でお前が出てくるんだ!!!・・・・そうか、久しぶりにしゃべった人だから強く印象に残ってるだけさ、平常心平常心。


「別にいないぞ」


私は至って冷静に答える。完璧だ。


「いや、それは嘘ですね」


何でそうなるんだ!!


「私は初対面の奴を好きになるほど惚れやすくはない!!」


ん?何か叫んだか?とんでもない事を叫んでしまったような、あれ?春野が真顔だ。


「初対面って・・・まさかその人が・・これは調べる価値がありそうですね。早く名前を言ってくださいさあ早く!!」


いきなり迫ってくる春野。だがこれだけは譲れない、話題転換を使わざるを得ない。


「さて、お母様をどう説得するか、だったな」


咳払いをしながら話題転換をする。だがそれだけでは春野は止められないらしい。


「話題転換はさせませんよ~~~~?」


そこまで気になる事なのかは知らないが、アイツのことを言っても大丈夫なのか?いやだって別にボーイフレンドとかじゃないし、ていうか今はお母様を何とかしなくては。


「ボーイフレンド案は却下。お母様が許すはずがない」


春野は無視されたことに腹を立てているようだ。顔がふくれている。


「お嬢様の意地悪、名前くらい教えてくれたって良いじゃないですか」


ほらほらいつまでもいじけてちゃだめ。未来を見よう。


「とりあえず私は良く社交会に出るから、そういった方達との連絡のためってどうかしら?」


こう考えるとアイツの案はかなり良い線まで行ってると思う。


「それも良いですね。あとはお母様といつでも連絡ができるように、とかはどうですか?あの人結構そう言うのには弱いですし」


もうさっきの話題は無駄だと判断したのかさっきまでのふくれっ面は取り払われている。


「たしかに、現代機器の使い方を知ってないと北条家の娘として恥ずかしいなどでも良いな」


おお、案がどんどん出てくるな。これならお母様を説得するのもそう難しくないようだ。





「携帯電話がほしいということ?」


私は母と一対一で向かい合って座っている。プレッシャーが凄い、剣道の試合よりも緊張する。


「はい」


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


母がしゃべらない。こういうときは何かしゃべってくれた方がありがたい。冷や汗が止まらない。


「・・・・・・・・」


こうなったら我慢比べだ。こっちもずっと母の目をそらさず見てやる。


「・・・・・・・・・」


「・・・・・・・・・・・・・」


息が切れてきた。


「・・・・・・良いでしょう」


「・・・ぶはぁ!!へっ?」


つい素っ頓狂な声を出してしまった。まだ用途も言ってないのに、丸め込む必要がないとは予想外だ。


「ただし条件があります」


そう思っていた。


「あなた自身で買ってきなさい。私はついて行きません」


そんな簡単な条件で良いのだろうか?いやしかし、私はそんなことしたことがない。大体社交的でないことを見越して言っている。つまりこの方は暗に駄目だと言っているわけだ。だったら良いではないか、買ってお母様に一矢報いてやろうではないか。だがそのやり方が分からない。











「だから、俺の所に来たわけ?」


私は再び相談部室のドアを叩いていた。そして昨日と同じ富村の顔を見てほっとしていた。私は昨日の内容をしゃべり、今に至る。富村はアーモンドを一口食べ、ゆっくり咀嚼し、飲む。相変わらず怠そうだが、それが逆に安心する。


「そうだ、やり方を教えてくれ」


コイツなら絶対に知っているだろう。何でも知ってそうな雰囲気を持っている。


「口で説明すると時間がかかる。今日は金曜日か・・・決めた」


何を決めたのだろう。富村はこちらを向く。


「明日駅前で待ち合わせだ。携帯を買うぞ」


次は現代編です

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