運命の赤い糸で結ばれてるのかも、なんて
高校生になって2度目の春。校舎に入ると、靴箱前に新しいクラスの名簿が既に掲示されている。だけど、なかなか現実を受け止めきれずにまだ新しい教室に行かない女子たちが友達と騒ぎながら集まってるので、ごめんなさーい通りまーすと人だかりをかき分けて、なんとか名簿の前まで辿り着く。
椎名日菜、椎名日菜っと。えーっとどこだ?A組から順に目で追って見慣れた自分の名前の文字を探す。
「ひーなー!何組?」
「どうしよゆかちゃん、わたしの名前みっけらんない…」
「えー?日菜留年なんじゃない?」
「そんなバカな」
どうしよう、てっきり2年生になれてるとばかり思ってたけどそんなことなかったりするのかな。でも1年生最後の学年末試験で今まで分かり合えなかった数IAと固い握手を握り交わしたはずなのに。
「あ、日菜の名前あったよ、ゆかと一緒じゃんクラス!」
一度でも疑ってごめん、数IA。
きゃーと飛び跳ねるゆかちゃんのミルクティー色の長い髪の毛がさらりと揺れる。きっと新学年に合わせて染め直したのだろう。かわいい。わたしもいつか派手な色にしてみたいって思うけどなかなか勇気が出なくて結局は地毛の黒のままで、胸の辺りまで伸ばしている。
校則が比較的ゆるいうちの学校でも派手めなゆかちゃんはいつも目立って目を惹く。対してあんまり目立たなくて身長も体重(これは宜しくない)も平均的で、よく言えば清楚、悪く言えば地味なわたしは一見相容れないようだけど、1年生の時に意気投合して以来わたしの大事な友達だ。でも、あともう1年素敵なお付き合いが続きそう。仲良しのお友達と2年間同じクラスって最高だ。
「朝の占いでわたしの今日の運勢1位だっただけはあるなー」
にまにましながらゆかちゃんと一緒に教室まで行く。
2年生は1年生の時から階が下がるから去年より楽ちんだ。なのになんだか春休み前より階段が辛く感じて恐ろしい。誰だ、階段の段増やしたやつ。
横を見るとゆかちゃんは指折り数えて、2年間同じクラスメイトをあぶり出してる。
「去年と今年で同じなのってゆかと日菜でしょ、なっちと優弥と、あと誰だっけ…桜井だ」
「あ、桜井?また同じクラスなんだ」
「また今年もかな一、日菜と桜井の怒涛の腐れ縁」
桜井とは桜井透馬のことで、わたしと桜井は1年生の時はとてつもない縁続きだったのだ。
どのくらいの強固な縁かというと、ルーレットで決まる毎月ある席替えでは何故か毎回前後左右のどちらかで、くじ引きで決まるグループワークも大抵桜井がいた。その度に顔を合わせて2人で「また椎名(桜井)!?」と言い合うのも、お決まりだった。
教室に着くと、出席番号順に席が決められていて、座席表を見ると桜井、椎名と名前が縦に並んでる。
やっぱり今年も桜井“運”は強そうだ。
***
席に着くとちょうど桜井も席に荷物を置いたところだった。2年生でも相変わらずの桜井だ。ほんのり茶色に染まってる髪の毛は猫っ毛でちょっとふわふわしてる。甘い顔立ちでカッコいいというよりもどちらかというと、キレイと称される顔だ。もし桜井が女子だったら絶対モテモテだ。ただ、わたしのタイプはもっと爽やかで体もガッシリしたスポーツマンなので、ちょっと違う。ごめん桜井。
「まさかまた椎名と同じクラスになるとは俺も思わんかった」
「んね、また1年間よろしくね」
「椎名は2年生になれてよかったな」
「ほんとにおっしゃる通りで」
「数IAには裏切られんかった?」
「一瞬裏切られたかと思ったけど大丈夫だった」
「やっぱ俺の教え方が良かったからかな」
「ぜひ今年もご指導ご鞭撻のほどお願い致したく」
「承知した」
そう、学年末試験は桜井に数学を教えてもらってなんとか赤点を免れたのだ。正直、桜井のおかげで2年生に上がれたと言っても過言じゃない。もう桜井に足を向けて寝れない。あとで桜井の家の方角聞いておこっと。
ゆかちゃんの席にいくと、ちょうどゆかちゃんと優弥が話してるところだった。
「まさか今年もこの4人が一緒になるとはなー」
「ゆかもまた優弥と同じとは思わなかった」
1年生の時、ゆかちゃんと優弥は同じ中学出身でもともと仲が良く、高校でゆかちゃんと仲良くなったわたし、優弥と仲良くなった桜井で、気づけば4人で話してることがたまにあった。でもわたしはあまり優弥と2人きりで話したことはない。
優弥って呼んじゃってるけど、あれ…優弥の苗字…なんだったっけ…もう顔見たらイコールで優弥しか出てこない。多分あれだ苗字とかないのかも、それか優が苗字で弥が名前なのかな。うん。
「ねえ優弥って優が苗字で弥が名前だっけ」
「唐突の疑問」
「え?俺ら去年も同クラだったよね?椎名ちゃんがオソロシイこと言ってる」
「いやー、ちょっと名前しか出てこなくて…」
「まあ俺のこと苗字で呼ぶやつあんまいないからなー、んーどうしよっかな、気になる?」
「あ、そこまでじゃないかも」
ちなみに後の出席確認で優弥の苗字は伊集院だということが分かった。解せぬ。
「でも桜井は、桜井ってみんな呼ぶよね」
「なに、呼んだ?」
「わ、桜井」
「何の話してたん」
「みんな桜井って呼ぶよねーって」
「いや俺ら男子は透馬って呼ぶよ」優弥がはいはーいと手を挙げる。
「確かに、じゃあ女子限定?」
「んーてか、ゆかが思うに桜井が女子のこと苗字で呼ぶからじゃない?」
確かに、そうかも。でも桜井がわたしのことを呼ぶ時、「しいな」じゃなくて「しーな」になってるのかわいいんだよなあ。思い出してちょっぴり口角が上がる。
「2年生になったから俺も下の名前で呼ぼっかな、親交を深める的な」
「え」
「俺ら腐れ縁じゃなくて運命の赤い糸で結ばれてるのかもよ、日菜さん?」




