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転生したらタワシだった件 ~貧弱な俺と、硬すぎる親友~


「い、痛ぇ……っ! 水圧が凶器すぎる……ッ!」

ここは異世界、俺たちの拠点にある立派なキッチン。

俺こと獅子王凱ししおうがいは、現在『昼食後の皿洗い』という命がけのミッションに挑んでいた。

蛇口から出る水の抵抗力だけで手首を捻挫しかけ、陶器の皿の重みで指の骨がミシミシと悲鳴を上げている。相変わらず、俺の体は究極の虚弱体質(存在感は空気以下・常時瀕死)だった。


「凱さま、無理なさらないでください! 私がやりますからっ!」

「ダメだ……! 俺は料理係として、片付けまでやり切らな――指が、指が折れるゥ!」

「無理しないで! スポンジの摩擦係数でも火傷しちゃう皮膚なんだから!」

ヒーラーの少女がハラハラと見守る中、俺は決死の覚悟で皿を洗い続けていた。


ポンッ。

その時、シンクの横に何かが唐突に出現した。

丸みを帯びたフォルム、たわわに実ったヤシの実のような茶色い繊維。

「……ん? なんだこれ、新品の『亀の子タワシ』?」

異世界には似つかわしくない、あまりにも見慣れた形状のオーガニック洗浄器具である。


『おう! 久しぶりだな凱! 相変わらずひ弱そうだな!』

「うおっ!? タ、タワシが喋った!?」

驚きのあまり、俺は持っていた皿を落としそうになり、その反動の風圧で右肩が脱臼した。

『だっさ! 空気抵抗で肩外れてんぞ! つーか俺だよ俺! 前世で同じクラスだった剛田健太ごうだけんただ!』

「……健太!? マジかよ、お前も転生してきたのか!?」


剛田健太。それは前世での良き友人であり、レオンと共にバカをやっていた筋トレマニアだ。

「なんでお前、よりにもよって『タワシ』に……?」

『前世で事故った時にな! 女神様に「次は絶対に傷つかない、世界一硬くて丈夫な体が欲しい!」って願ったら、なんかこうなったんだよ!』

健太は自慢げに繊維を揺らした。なるほど、確かにタワシの防御力と耐久性は神がかっている(物理的に)。


「マジかよ、お前まで転生してきたなんて……! よし、せっかくだ。積もる話もあるし、久しぶりに一緒に出かけようぜ!」

『おう! いかにも異世界って感じの街を案内してくれや!』


というわけで。

俺はタワシ(健太)を連れて、王都の賑やかな大通りを歩いていた。


「……なぁ凱。すっげぇ見られるんだけど」

「まあ、俺が『紐で結んだタワシを犬の散歩みたいに引きずって歩いてる』からな」


タワシには足がない。

俺が抱きかかえるという選択肢もあったが、防御力カンストの繊維が俺の貧弱スキンに直接触れると、カスっただけで複雑骨折を起こすため断念した。(実際、持とうとして左手の指先が粉砕した)

結果、泣く泣くタワシの金具部分にリード(紐)をくくりつけ、ガラガラと地面を引きずって散歩するスタイルに落ち着いたのである。


「でもお前、世界一硬い体を手に入れたんだし、石畳に擦れても痛くないだろ?」

『痛くはねぇけど……なんかこう、アスファルトや石畳の汚れが俺の繊維に絡まりついて、めっちゃ「掃除させられてる」感がすごいんだが?』

「気のせいだろ。ほら、石畳がピカピカになってるぞ。ご苦労さん」

『俺はルンバじゃねぇ!!』


ズザザザザッ!

タワシが怒って跳ね回ると、凄まじい摩擦音が響き、石畳が削れて火花が散った。

「あぶなっ!? 健太、静かにしろ! その火花が俺の服に引火したら、俺は全身火ダルマになって消し炭になるんだぞ!」

『お前相変わらず虚弱すぎだろ! 静電気レベルの火花だぞ!?』

「俺にとっては地獄の業火なんだよ! ――あっ」


その時、散歩ヒモを持つ俺の腕に、限界以上のテンション(張力)がかかった。

石畳の小さな窪みに、タワシ(健太)がガッチリとハマってしまったのだ。

「健太! お前、段差に引っかか――ッ!!!」


パキィィィィィィン!!

限界突破した俺の手首の骨が、タワシの引っ掛かりによる急ブレーキの反動で、いとも容易く砕け散った。


「ぎゃあああああああああああっ! 手首があああああっ!」

『おい凱!? ちょっと窪みに引っかかっただけで手首粉砕すんな!! 歩行速度時速三キロだぞ!?』

俺は激痛のあまり白目を剥き、王都のど真ん中で壮大に転倒した。

ズシャァァァッ!! (※転倒の風圧で肋骨も三本折れた)


「おい凱! 街のど真ん中で何血を吐いて倒れてるんだ!」

薄れゆく意識の中、城から抜け出してきた最強の覇王・レオンが現れた。

道路でピクピクしている俺と、リードに繋がれて窪みにハマっているタワシを見て、レオンは一瞬で状況を察した。


「……なるほど。お前が健太か。俺はレオン、前世でお前とつるんでた覇王だ」

『お、おお! お前すげぇオーラだな! つか凱のヤツ、相変わらず弱すぎだろ!』


意識が遠のく中、俺はレオンに向かって血まみれの震える指をさした。

「頼む、レオン……。そこにハマってる、石畳より硬い健太タワシを……助けてやってくれ……。俺じゃ、重くて引っ剥がせなかった……」

「任せておけ! 凱の作った激美味スープの恩返しだ! 健太、お前の硬さ、試させてもらうぜ!」

『おう! 来いよレオン! 俺の防御力はカンストしてるぜ! 窪みごとき引っこ抜いてみろ!』


レオンはマントを翻し、タワシ(健太)のリードをガシッと掴むと、恐ろしい膂力で上空へ向かって引き抜いた。

ズバァァァァァァァァン!!

覇王の最強パワーと、聖なるタワシの究極硬度が見事にフュージョンし、石畳ごと大地が半径五メートルに渡ってクレーターのように抉り取られた。


『おおおおお! 最高だぜ! 全然痛くねぇし、なんか俺の摩擦力で石畳の裏側の汚れまでガンガン落ちて行くッ!! これが俺の天職かァァァッ!』

「はっはっは! 良い洗浄力だ健太! お前、最高のスポンジ(タワシ)だぞ! 『覇王の国営清掃局』長官はお前に決まりだ!」

『俺のチートスキル(洗浄力)で、この国の汚れを全て削り落としてやるぜェ!!』


穴の空いた道の横で、駆けつけたヒーラーの少女から「ヒール! エクストラ・ヒール! ああっ、両腕の出血が止まらないっ!」と必死の治癒魔法を受けながら、俺はその様子を遠い目で見つめていた。

(……よかったな健太。お前、タワシとしての生きがいを見つけられたみたいで……)


貧弱な俺と、最強の親友たち(覇王&タワシ)の異世界ライフは、今日も賑やかで、そして致命傷と共に続いていく。


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