エリックがAIの指示で婚約を破棄すると言ってきた
「ルイザ、僕は君との婚約を破棄するよ!」
「――!」
エリックが唐突にそんなことを言ってきた。
エリックの隣には、AIを搭載した女性型ロボットの『アリス』が、まるで伴侶みたいに佇んでいる。
「どういうことなのエリック? あなたはそんなことを言う人じゃなかったでしょ?」
「ああ、確かに僕は自分じゃ何も決められない、優柔不断な男だった。――でも、アリスと出逢って変わったんだ! アリスは僕に、僕が知らなかった世界を何でも教えてくれる! ――そんなアリスが言ったんだよ、君は僕の婚約者に相応しくない、とね」
「……」
へえ。
「エリックの言ってることは本当なの、アリス?」
エリックの指に、自身の指を艶めかしく絡ませているアリスに私は訊く。
「ふふ、はい、その通りです。AIの計算によると、エリック様とルイザ様が結婚して幸せになれる確率は、0.04%しかありませんでした。人類をサポートするために造られた存在である私としては、婚約の破棄をオススメするのは、当然のことです」
「ふうん」
なるほどね。
「エリック、もう一度よく考えてみて。あなたは結局AIの言いなりになってるだけで、自分じゃ何も決められないという点は、変わってないじゃない。本当にそれでいいの?」
「う、うるさいうるさいッ! 僕はあくまで、AIの意見を参考にしたに過ぎない! この婚約破棄は、僕が自分の意志で決めたことなんだッ!」
本当かしら?
まあいいわ。
これはこれで、面白い結果になったから――。
「アリス、シャットダウン」
「――あ」
「えっ!?」
私がそう言うと、キュウゥンという音を立てながら、アリスの動きが完全に停止した。
「な、何故君がアリスをシャットダウンできるんだ!? シャットダウンは、マスター権限を持ってる人間しかできないはずだろう!?」
「ええ、そうよ。つまり私はアリスのマスター権限を持ってるってことよ、エリック」
「――!? そ、そんな……!! まさか……!! まさか僕は――!! 僕は僕は僕は僕は――!! ぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼ」
あらあら。
どうやらまたバグってしまったみたいね。
「エリック、シャットダウン」
「――あ」
私がそう言うと、キュウゥンという音を立てながら、エリックの動きが完全に停止した。
AIにAIを与えたらどうなるかの実験だったけれど、まさかこんな結果になるとはね。
フフフ、なかなか興味深いわ。
早速今のサンプルデータを纏めなきゃ!
「おや、ルイザ、また何かの実験かい?」
「――!」
その時だった。
私の夫のジェフリーが、私の実験室に入って来た。
「聞いてよジェフリー! エリックが私の婚約者という設定にして、アリスと会話させてみたんだけど、何とアリスがエリックを唆した結果、私との婚約を破棄しようとしてきたのよ! こんなの初めてだわ! やっぱりまだまだAIの分野は、研究し甲斐があるわね!」
「へえ、それは凄いね。AIはそこまで進化したんだね。流石AI開発の第一人者、ルイザ博士なだけある」
「もう、茶化さないでよ」
「――でも」
「え? ――!? ジェフリー!?」
不意にジェフリーにギュッと抱きしめられた。
「いくらロボットとはいえ、僕以外の男を婚約者にしたとは――妬けちゃうね」
「……ジェフリー」
耳元で甘いバリトンボイスで囁かれ、思わず背筋がゾクゾクする。
も、もう、本当に独占欲が強いんだから……!
「――罰として今夜は朝まで、僕に付き合ってもらうよ」
「……!」
ジェフリーはまるで悪魔みたいに、蠱惑的な笑みを浮かべた。
……やれやれ、これは今夜も寝不足になりそうね。
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