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「……私、退学する」
「大袈裟だなぁ。迷惑なんて気にしなくていいんだよ。なにもなくて本当によかった」
紫音が顔面蒼白で告げたのを、利都は冗談としか捉えず声をあげて笑った。
「体調を崩すことは誰にでもあるって」
的外れな慰めに紫音はますます屈辱で肩を震わせる。
「ところで、ふたりは知り合いだったのかい?」
しかし利都の問いかけに紫音は目を瞬かせた。
「知り合いもなにも、利都こそ……」
「ああ、俺は彼と大学が一緒だったんだ。就職組の俺とは違って凰理は研究者の道を選んだけれど、まさか同じ職場になるなんて思ってもみなかったよ」
明るく説明され紫音は悟る。利都は前世のことをまったく覚えていないのだ。
私だって今の今まで忘れていたんだから……。
寂しさを感じてしまうのは勝手だ。しかし、そうなると凰理との関係を説明するのは難しい。
「父方の親戚なんだ」
返答に悩んでいたら凰理がさらりと返した。「はぁ?」と言わなかった自分を褒めてやりたいくらいだ。突拍子もない話に、つい魔王を睨みつける。しかし相手は余裕たっぷりに微笑み返してきた。
「会うのは久しぶりだが、昔かなりからかったからご覧のとおり嫌われているんだ」
もちろんそんな事実はなく、紫音自身も初耳だ。
こんなためらいもなく息をするように嘘がつけるなんて……やっぱりこの男は魔王だ。
だが、中らずとも遠からずなのがまた憎い。
「久しぶりだな、紫音」
説明に説得性をもたせるためか凰理は紫音に声をかけてきた。
馴れ馴れしく名前を呼ばないでよ!
内心で訴えつつ、利都に納得してもらうためにはこの男に話を合わせるしかない。けれど冗談でも「久しぶり」とは返せず、紫音は返事をせずに顔を背けた。まるで子どもだ。
らしくない行動だと自覚はあるが、前世の関係と記憶が蘇った今、早々に切り替えもできない。
咄嗟の言い訳にしては無茶苦茶だと思ったが、凰理の言い分は利都を納得させるには十分だった。
「なら悪いが、紫音を任せてかまわないか? 俺、仕事を抜けてきたから戻らないと」
その証拠に、すっかり凰理を信じた利都がとんでもない頼みを口にする。




