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「紫音?」
訝しげに尋ねる利都の顔を紫音はまじまじと見つめた。童顔でいまだに学生に間違われることもある従兄はこの三月まで学生支援課に所属し、学生からの信頼も厚かった。
優しく人のよさそうな面差しで、笑うとえくぼができる。ひそかにモテるのだが、浮いた話のひとつ聞いたことがない。
四月から財政課へ移動になったため嘆く女子学生も多かったんだとか。見慣れている従兄の顔が、記憶の中の仲間のひとりとかぶる。
『シオン、無理していませんか?』
「……リト」
次の瞬間、紫音は衝動的に上半身を乗り出し利都の背中に腕を回した。
「どうした?」
不思議そうに抱擁を受け入れる利都の声を聞き、紫音は胸が締めつけられる。
僧侶としてシオンのパーティーに加わっていたリトは、若いのに落ち着き払っていて、どんな状況でも笑顔を絶やさず仲間を見守っていた。熱くなりすぎるシオンをときには諌め、ときには励まし、そばになくてはならない存在だった。
どうして今の今まで気づかなかったの? 思い出せなかったんだろう。
懺悔にも似た苦い気持ちと懐かしさで目の奥が熱くなる。
「熱でもあるのか? それとも貧血?」
ゆっくりと利都が紫音の腕をほどき心配そうにうかがう。
「私……」
なにを、どう伝えればいいのかわからない。そのとき。
「なんだ、たいしたことなさそうだな」
紫音は目を見張り硬直した。自分でも利都のものでもない第三者の声が部屋に響いたからだ。先に反応したのは利都だった。
「凰理」
おうり、オーリ。
利都が口にした名前で紫音の記憶はさらに触発される。魔王オーリ。やはり彼は紫音の宿敵だ。紫音は凰理を睨みつけるが、相手はまったく意に介さない。
「ほら、さっさと離れろ」
あまつさえ手の甲を向け面倒くさそうに指示までしてくる。
「なんでおまっ、あなたに命令されないとならないの?」
極力感情を抑え込み、冷静に返す。対する凰理は顔色ひとつ変えない。
「ずいぶんな口の利き方だな」
「そうだよ、紫音。彼が倒れた君をここまで運んできてくれたんだ」
「はぁ!?」
利都の説明に紫音は目を剥く。信じられない情報だが、事実だとすると卒倒しそうになる。
周りにどう思われたのか想像するのも憚れる。よりにもよって宿敵に情けをかけられるなどありえない。




