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なにかが額に触れた気がして、紫音はうっすらと目を開けた。相変わらず体中に熱がこもっていて、頭が重い。
「大丈夫か?」
低い声が耳に届き、紫音は驚きで目を見開いた。
「なん、で?」
小さく返したものの動揺が全身に広がり混乱を呼ぶ。とっさに夢か現実なのか判断できない。
どういうわけか、すぐそばで珍しく心配そうな顔をして紫音を見下ろしている凰理の姿があった。
「利都から連絡があったんだ」
端的な回答があり、紫音は眉根を寄せる。
利都は……この男を信用しすぎじゃない?
部屋の中にいるということは、利都に預けているスペアキーを渡されたのだろう。
いくら親戚設定とはいえ、女性の一人暮らしの部屋に男を寄越すのはどうなのか。
けれど利都に諸々を許して頼りにしている身としては、文句も言えない。
利都は自分と同じく、凰理は紫音を異性としてまったく意識していないと思っているのだろう。
その考えに至り、納得する一方で苦いなにかが染みていく。
ゆっくり上半身を起こす紫音を、さりげなく凰理が支えた。大きな手がパジャマ越しに触れ、紫音の心臓が跳ね上がる。
「利都に言われたものを一応、買ってきた」
先ほど送ったメッセージで、ゼリーやスポーツ飲料、レトルトのお粥などを頼んでいた。自分はすぐに行けないだろうから、凰理に頼んだのだろう。
これからは体調を崩したときのため、あらかじめ買い込んでおこうとひそかに今回の教訓にする。
「……ありがとう。できれば冷蔵庫に入れてもらっていてもいい?」
相手が魔王とはいえ、変に突っかかるのはやめる。突っかかる気力がないのが本当のところだ。
それを凰理も理解しているのか、余計なことは言わず紫音の指示に従う。
「病院に行くか?」
紫音は力なく首を横に振った。
「平、気。寝てれば治る」
あとひたすら横になってなんとかするだけだ。
「無理してもいいことはないぞ」
「してない」
すげなく返す紫音に凰理は軽くため息をついた。
「利都も心配していた。詩音も」
凰理の最後の言葉に紫音は目を見張って硬直した。なぜ詩音まで体調を崩したことを知っているのか。
おそらく利都から連絡を受けたとき、凰理と詩音は一緒にいたのだろう。だから、なんだというのか。
『でも、凰理に久しぶりに会ってわかったの。あのときは、やっぱりああするのがベストだったんだって』
立場や環境が変化してすれ違ったのなら、改めて同じ社会人同士になった今のふたりはどうなのだろう。
少なくとも詩音は完全に凰理を吹っ切った様子ではなかった。凰理だって……。
関係ない。私には……関係ないんだ。
紫音は奥歯をきゅっと噛みしめる。
「じゃぁ、大丈夫だって戻って伝えておいて、利都や詩音さんにも」
凰理の顔を見ないまま告げると、気配で彼が肩をすくめたのが伝わってくる。
「お前な、まだ熱があるくせに」
「触らないで!」
たしかめるように手を伸ばされ、紫音は反射的に凰理の手を払いのけた。凰理は目を丸くし、紫音も感情的な自分の行動に驚く。




