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「私と、ですか?」
「そう。福島くんの従妹で、まさか凰理とも親戚なんて。ふたりとも紫音ちゃんを通して繋がっているのね。だからってわけじゃないけれど、私も勝手に縁を感じたというか……名前も同じだしね」
正確には繋がりがあったのは前世を通してだ。けれど、そんな事情を話すわけにはいかない。
嘘をつくのが好きでも得意でもない紫音だが、ここは凰理の言いだした設定に合わせる。
「ぐ、偶然ですよ。利都は母方の従兄ですが、まっ、風間先生は父方の遠縁であまり交流もなくて」
「そうなの?」
詩音の切り返しにドキリとする。なにかまずいことを言ってしまっただろうか。
誤魔化す意味もあり、今度は紫音から別の話題を振る。
「詩音さんは、風間先生と付き合っていたんですよね?」
口にしてからしまったと思った。いきなりプライベートなことに切り込み過ぎただろうか。
「うん。そうそう」
ところが詩音は、まったく気を悪くした感じもなく、また触れてほしくないわけでもなさそうな様子で明るく返事をしてきた。
そのときケーキと紅茶が運ばれてきたので、会話を一時中断させる。
綺麗な層になっているミルクレープの先端に紫音は慎重にフォークを縦に入れた。
そっと口に運ぶと、生地のしっとりした食感と生クリームとホイップクリームのほどよい甘さが口内に広がり、幸せな気持ちで満たされる。
「付き合ったのは大学院の修士課程のとき。私から告白したの」
さらりと先ほどの話を続ける詩音に、ミルクレープが喉に詰まりそうになった。対する詩音は、優雅に紅茶のカップを持って懐かしそうに語りだす。
「同じ学部で何度か話したことはあったのに、凰理は私のことをまったく認識してなくて。告白したら返事の前に『お前、誰だ?』なんて言われたの。ひどい話でしょ?」
感情をあらわにして同意を求めてくる詩音に、ここはどう返すべきなのか。
曖昧に微笑んでいた紫音だが詩音がふっと息を吐き、打って変わって穏やかに笑ったので、その彼女の表情に目を奪われる。
詩音は静かにソーサーにカップを置いた。
「だから、まさかOKもらえるとは思ってもみなかったわ。付き合ったら意外と大事にされるとも」
愛おしそうに呟く詩音に紫音の心は波打つ。なにかが胸に詰まって、息を吸うことも吐くことも上手くできない。
ふたりがどんな付き合いをしてきたのかは、まったくわからない。
けれど詩音にとって凰理と過ごした時間や彼との関係がかけがえのないものだということは痛いほど伝わってきた。
「……なぜ、おふたりは別れてしまったんですか?」
聞きたい、聞きたくない。相反する気持ちが紫音の中でせめぎ合う。
自分にとってこの話題は毒だ。それなのに、どうして自ら踏み込んでしまうのか。
「理由は簡単。私は修士で卒業して就職したのに対し、凰理は博士課程に進んで、すれ違いが多くなったからよ」
詩音の声はすっかり明るさを取り戻していた。学生カップルのよくある別れの原因のひとつとはいえ、経験のない紫音からはなんとも言えない。




