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集中講義はその名の通り、数日間で学期分の単位をもらえるので、ほぼ一日缶詰め状態で受講する。
さすがに教える側も大変だろうと内心でねぎらいつつ、紫音は真面目にノートをとって講義に臨んだ。
そして数日間の講義を経て、いよいよ明日が最終日となった。最終日は試験のみで論述式となる。
講義資料とノートは持ち込み可能なので、紫音にとっては可否ではなくどこまでいい点数をとれるかだ。
少しだけ勉強したほうがいいかな?
「紫音ちゃん?」
キャンパス内を歩いていると不意に声がかかり、紫音は声のした方に意識を向けた。
「あっ……」
そこにはスーツ姿の詩音がいた。先日マンションのエントランスで会ったときとはまた印象が違うが、詩音はにこやかに紫音に近づいてくる。
どうして彼女がここにいるのか。しかしその質問は先に詩音から投げかけられる。
「今日はサークルかなにか?」
「いえ、集中講義だったんです」
紫音の答えに詩音は納得した面持ちになった。
「それで夏休み中なのに、学生さんがけっこういるのね。紫音ちゃんもお疲れさま」
「……詩音さんは?」
やっと紫音が尋ね返す。もしかして言っていた通り凰理に……。
「大学の就職課に用事があってね。ここの卒業生もうちに多く入行してくれているから」
「そうなんですか」
なぜか詩音の回答に安堵している。続けて「紫音ちゃんもよかったら是非!」と詩音から明るく勧誘され、苦笑した。
しかし、大学に来ているということは利都や凰理のところに顔を出すのかもしれない。もしくは出した後なのか。
そこで変な間が空いてしまい、紫音は挨拶をして家路につこうとした。
「ねぇ、紫音ちゃん。もし時間があったらお茶しない?」
「え?」
ところが、詩音からの意外な提案に目を見張る。相手の意図が見えない。理由なく誘うほど自分たちは親しくないはずだ。
そんな紫音の思考を遮るように詩音は強引に続ける。
「ね、せっかくだから少しだけ」
詩音の勢いに圧され、紫音はぎこちなく頷いた。
結局ふたりは大学の正門を出てすぐ近くのカフェに足を運んだ。
一階は学生御用達の全国チェーン店の居酒屋が入っており、その二階に位置するカフェは、どちらかといえば学生よりも教員が訪れる雰囲気の店だ。
価格帯も学生にしてはわりと高めに設定されているが、その分客層も落ち着いていて味も間違いない。
実乃梨とならいざ知れず、相手は社会人の詩音だ。学内のカフェテリアも今日は閉まっている。
詩音は気に入ったようで、紅茶とケーキのセットを注文したので紫音もならう。詩音はガトーショコラ、紫音はミルクレープを選んだ。
「付き合わせてごめんね。ちょっと休憩したくて」
注文を終えた後、詩音は眉尻を下げて謝ってきた。そこで紫音は悟る。
詩音はこちらに出張で来ているので、土地勘やどんな店があるのか知らないのだろう。
しかし、それなら紫音には尋ねるだけでいいはずだ。同行する必要性までは感じない。今の時代、インターネットでいくらでも検索ができる。
「あとね、紫音ちゃんとちょっと話してみたくて」
紫音の考えを遮り、詩音が笑顔で補足するので紫音は目をぱちくりとさせた。




