12
悶々としていたら車はあっという間に目的地に着いた。あまり乗り気ではなかった紫音だが、いざ展望台に着くとその迫力ある眺めに息を呑む。
天気がよかったのもあり遠くまでよく見え、まさに絶景だ。
夕方に差し掛かり山頂なのも合わさって気温がそこまで高くないのもいい。たまに吹き抜ける風が紫音の髪をなびかせる。
紫音の気持ちは一気に浮上に、軽い足取りであちこちを見て回る。
展望台の付近にはおしゃれなカフェや雑貨店などが整備され、それなりの人で賑わっていた。
限定のソフトクリームは山頂を意識して抹茶パウダーがふりかかり、プラス料金で黒蜜をかけられる。
悩んだ末に注文を決意した紫音に凰理は『よくそんなに甘いものが食えるな』と呆れつつ優しく紫音を見守っていた。
展望台を満喫した紫音は今度こそ凰理の車でマンション向かう。思ったより道は混んでおらず、スムーズにマンションに帰ってきた。
「今日はありがとう。すごく楽しかった」
車が停まったタイミングで紫音は素直にお礼を告げた。結果的にひとりで過ごすより有意義な一日になったのは間違いない。
凰理に対してはなにかと反発心が先に出てしまうが、程よい疲れと高揚感が、それを抑える。彼といることに慣れたとでもいうのか。
「それはなによりだ。デートに誘った甲斐があった」
隣からは相変わらずの軽口が帰ってくる。反射的に言い返しそうになった紫音だが、ぐっと堪えた。
「……うん、いい経験になったよ」
友達と過ごすのとはまた違う。少なくとも紫音にとっては自分の希望を口にして寄り添ってもらえたのは貴重な経験だった。
これをデートと呼ぶのなら、本物の恋人同士でするデートはもっと素敵なものかもしれない。
「紫音の初めての相手になれて光栄だな」
「その言い方やめて」
今度はすかさず切り返す。
やっぱり魔王は相変わらずだ。珍しく人が正直な気持ちを伝えたのに。
軽く溜め息をついてシートベルトをはずす。そのとき頭に温もりを感じた。凰理の大きな手のひらが紫音の頭を優しく撫でる。
とっさに振り払おうとした紫音だが、どういうわけか凰理の表情は嬉しそうで、切なそうでもあった。
彼の表情に言葉どころか身動きもできなくなる。そのまま凰理の手が紫音の後頭部に移動し、ゆるやかに彼の方に寄せられた。
凰理も紫音に身を寄せふたりの距離が縮まる。
至近距離で目が合い、凰理の漆黒の瞳に紫音は金縛りにあったかのように動けない。
「紫音」
どうしてこの男は、宿敵である自分の名前をこんなに愛おしげに呼ぶのか。それをどうして紫音自身も受け入れてしまっているのか。
わからない。でも……。
唇が触れ合いそうになった瞬間、ヴーヴーとスマートフォンのバイブ音が静まり返って車内に響く。
そこで我に返った紫音は慌てて凰理から距離をとった。そしてすぐさま自分の頬を両手で覆う。
な、なに今の? あのままどうなっていた?
混乱する紫音をよそに凰理は舌打ちしつつポケットからなり続けるスマホを取り出し、顔をしかめたまま電話に出た。
「もしもし、どうした?」
不機嫌な声などものともせず、向こうから飄々とした声が返ってくる。電話越しではあったが、相手の声に紫音は聞き覚えがあった。




