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「このまま帰ってもかまわないが、せっかくだ。気を使わない相手にもう少しわがまま言ってみたらどうだ? どこか言ってみろよ」
「そんな、急に言われても……」
ハンドルをゆるやかに切りながら車はゆっくりと地下駐車場の出口に向かう。おかげで紫音は回答を焦った。
悩んだ末、最近リニューアルしたと話題の展望台の名前を挙げる。市街を一望できる眺めは一度行ってみたいと思っていたが、山頂付近に設置されているため車がないと不便な場所にあった。
記憶が正しければここから比較的近いはずだ。
地下の薄暗さから一転し、車は駐車場から出るとひとまず大通りに出るため移動する。
だいたいの場所はわかると凰理は言ったが、念のため紫音はカーナビに目的地を入力した。
案内が始まり、次の行き先が決まって紫音はホッと座席シートに背中を預ける。
ところが、すぐにある事実に気づき、勢いよくシートから身を起こした。
「ちょっと待って。べつに今から無理して向かわずに帰る選択肢もあったんじゃない?」
むしろ、この車に乗り込むときは真っすぐ帰るつもりだった。
凰理の突然のパスに戸惑い、駐車場から出るまでに行き先を決めなくてはと妙な焦りがあって案を出したが、そもそも前提がおかしいと気づく。
「行きたいならいいじゃないか」
しれっと返され、ナビに従い車はマンションとは反対方向の展望台へ向かっていく。
ここまでくるといくら凰理相手とはいえ引き返せと言うのも憚れた。
紫音は諦めにも似た境地で再び座席シートにもたれかかる。
まぁ、いっか。
自分が言った手前というのももちろんあるが、なにより今日凰理と一緒に過ごしてみて、思った以上にリラックスして楽しく過ごせたのも事実だ。
魔王の言う通り、そこまで気を使う相手じゃないからかな?
紫音は運転する凰理の端正な横顔を盗み見する。はっきりした目鼻立ちは男女と共に目を引く。昔からそうだ。
それにしても、紫音は凰理の考えていることがまったく理解できずにいた。こうして強引に自分の希望を聞いて叶えようとしているが、動機がやはりしっくりこない。
『紫音を甘やかしたかった』
ふと彼の言葉が蘇り、体温が急に上昇するのを感じた。とくに頬が熱い。
なに? 陥落させようってこと? そういえば『お前を落として懐柔させてやる』って言ってたよね。もしかしてこれって罠?
「お前な、百面相しながらこちらを睨みつけるのはやめろ」
凰理は前を向いたまま苦々しく呟く。いつのまにか視線に気づくほどまじまじと見つめていたらしい。
紫音はぷいっと顔を逸らし、反対側に顔を向ける。窓ガラスに映る自分と目が合い、流れる景色をぼんやり見つめた。
凰理にはあれこれ見透かされているのに、紫音は凰理の考えが読めない。彼のことがわからない。その差が悔しかった。
そこでふと気づく。
私は、魔王のことを知りたいんだろうか……。
前世では、宿敵である魔王を倒すべく彼の情報は常に欲していた。ただ、彼がなにを考えているとかそういったものではなく、行動パターンや住み家など基本的ないわば上辺だけのデータだ。
だって、ほかになにが必要だというの?




