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経験ではなく一般的なイメージと知識で考えるが、正解は出せない。さらに紫音の思考は深みにはまっていく。
魔王は私相手でデートになるの? 私の借りを返すって意味なら彼とってなんのメリットがあるの?
悶々とする紫音の考えが凰理には手に取るようにわかる。相変わらず真面目というべきか、融通が利かないとでもいうのか。
凰理はさりげなく紫音の手を引き、自分の方に注意を向けさせる。
「難しく考えなくていい。せっかく可愛い格好をしているんだ。もう少し堪能させろ」
派手さはなくても紫音が今日はいつもより化粧や服装に力を入れているのがわからないほど凰理も野暮ではない。
凰理がさらりと告げたのに対し紫音は瞬時に顔を赤らめ狼狽えた。
「こ、これは、その、けっしてあなたのためじゃ……」
「わかっている。ほら、時間がもったいないからさっさと行くぞ」
凰理の言葉に紫音も素直に口を閉じ、つられるようにして歩きだす。
デートがどういうものなのかわからない。彼がどこにいこうとしているのか、なにをしようとしているのかも。
ただ……。
「嫌じゃない」
誰にも聞こえないほどの小さな声で紫音は呟く。さっき探していた続きがようやく見つかった。
駅で声をかけられた男にはそばにいられるのも、話しかけられるのも嫌だった。初対面だからとか、そういう問題じゃない。
『お前にとっては、俺もさっきの男と同類か』
凰理だって強引に話をまとめ上げ、紫音の手を引いている。けれど本当に嫌なら紫音はなにを言われても断っている。
たとえ借りを返すという大義名分があっても。
もう少し一緒に過ごしてもいいと思ったから。凰理のそばは、彼に触れられるのは不快じゃない。
悔しいから、絶対に口にはしないけれど。
凰理に視線を飛ばし、なにも言わない代わりに紫音は繫がれている手にわずかに力を込めた。
凰理は駅の近くの大通りから一本奥に入った道を突き進む。彼の足に迷いはない。
さすがに恥ずかしくなり紫音は途中で彼から手を離す。凰理がはやや不服そうな面持ちになったが、とくになにも言わず気持ちばかり歩調を緩めた。
しばらくしてたどり着いたのは、年季の入った書店だった。
「ここ?」
目をぱちくりとさせて外観を眺める。外に出されているワゴンの中には本が乱雑に並べられ『一冊百円』の札が添えられている。
知っているタイトルはひとつもなく、専門書がほとんどだ。店内は薄暗く気軽に立ち寄れる雰囲気はあまりない。
「欲しい本がいくつかあるんだ」
凰理に続き、中に足を踏み入れる。気難しそうな初老の店主が視線を寄越したが、凰理は気にせず彼に話しかけた。
紫音はキョロキョロ物珍しげに辺りを見渡し歩を進める。
天井まで届きそうな棚がいくつも並び、本で隙間なく埋まっている。背表紙にカラフルさなどほぼなくモノクロで揃っているのは、逆に心地よく感じた。
古書独特の香りとひんやりとした空気がどこが現実離れを起こさせる。
この感じは嫌いではない。むしろ懐かしさにも似た感覚があった。
ふと棚に目を走らせている凰理の横顔が目に入る。片手にいくつかの本を持ち、表情は真剣そのものだ。心臓が一瞬跳ね上がり、なにかが脳裏に蘇る。




